ギドの過去6【魂縛の鎖】
そこには真っ暗な闇が広がっていた。
先程の戦闘でヴラドから受け取った魔石灯は砕けてしまったため、何も見えずこの先に何があるのかも分からない。
それでもシドとギドは闇の中を手探りで進んでいく。
「くそ、何も見えねぇな」
「そうだね。でも道はこっちで合ってると思うよ」
シドは壁を伝いながら先に進む。こうすれは必ず先には進めるはず。
「.......あの時を思い出すね、ギド」
「あん?どの時だよ?」
しばらく沈黙したあと、少し懐かしむようにシドは語る。
「僕らがまだ子どもだった時、盗みを失敗して下水道を逃げ回ったじゃないか。あの時もこうして真っ暗な中壁を伝って逃げたんだよ」
「あぁー.......そういやそんなこともあったなぁ」
そうだ、あの時もシドが機転を利かせて下水道へと飛び込み、怖気付くギドを励ましながら暗い闇の中を壁伝いに歩いていった。
あの頃から何も変わっていない。今も、こうしてギドはシドに頼りっきりだ。
「全く……俺はシドがいねぇとどうしようもねぇなぁ」
そんな自分がどこか惨めに思えてきたギドはそんなため息をつく。
「.......そうでも無いさ。ギドがいてくれるから僕だってこうして前を向いて行けるんだよ」
しかし、シドはどこかおかしそうに笑いながらそんなことを言った。
「んなこたぁねぇだろ。謙遜すんなって」
「ははっ、そんなことは……ん?」
先を進むシドの手が何かに触れた。それは冷たくざらざらとしている棒状のものだ。
目を凝らしてみるとそこには白い何か岩のようなものが転がっている。
「何だこりゃ?何かの骨か?」
「うん。龍……いや、蛇かな?」
細長いそれは一見巨大な龍のように見えるが、よく見るとそれは超巨大な蛇の化石だった。その身は長すぎてどれほどの長さなのかもよく分からない。
そして、その化石は何かを守るようにトグロを巻いている。
「ギド.......あれ.......」
「あぁ...間違いねぇ、あれだ.......」
そこに供えられていたのは、イカリのような形をした首飾り。
その形は先程の試練で猛威を振るった鎖についていたものによく似ている。
怪しげなマナを帯び、ギドのような素人が一眼見るだけでも何か特殊な物だということが分かるほどそれは歪なものだった。
2人は潜るように骨の合間を縫って首飾りへと近づいた。
「……」
そして、互いに目を見合わせた後、シドはそっと首飾りに手を伸ばす。ギドはその様子を固唾を飲みながら見守る。
チャラ……。
シドが拾い上げると、それはいとも簡単にシドの手の中におさめられた。
「す、すごい…これが……これが、【魂縛の鎖】!」
そう言ってシドはグッと首飾りを握りしめると、そのまま膝をついた。
「これで……これで僕らは……!!」
「あぁ……これで俺たちは普通の人生を送ることができる……!!」
泥に塗れた惨めな人生が、これで終わる。
これまでの生活が終わる事は少し寂しい気もするが、これから先もシドと一緒に生きていける。だったらギドにとってそれ以上求めるものは何もなかった。
これで、これで先に進める。
「よくやったな、若き盗人どもよ」
その時、背後から声が浴びせられる。
振り返ると、そこには魔石灯を手にしたヴラドの姿があった。
「ヴラド…様……」
そうか、【魂縛の鎖】を手にしたことで試練が無効となって遺跡の中に入ることができるようになったのか。
「よくやった。見事お前達は吾輩の期待に答えて見せた」
ヴラドは満足そうに笑い、そして告げた。
「そしてもうお前達は用済みだ」
「は.......?」
「え.......?」
その瞬間、大量の騎士達が部屋へと流れ込み、シドとギドを包囲した。
「こ、これはどういう事ですか!?」
シドは状況を理解できずに困惑する。
「考えてみたまえ、シドよ。ここは国より手を出すことを禁ぜられた遺跡だ。そんな物に手を出したと知れれば私の立場はなくなる。……ならば私がどうするかは、分かるな?」
「ま…さか……!?最初から、僕らを生かして帰すつもりは無かったって事か!!」
シドはギリギリと歯軋りをする。
「どういう事だよ!?」
状況を呑み込めないギドはシドに問いかけた。
「ヴラド様……いや、ヴラドは最初から僕らの願いに答えるつもりは無かったって事だよ……!!」
「な、何でだ!?」
「言ってたろ?この遺跡は《《封印されるはずの遺跡》》だって。この遺跡を封印するという事は言い換えれば『魂縛の鎖を封印する』と言うことだ。だから魂縛の鎖が持ち出されたことは決して世に明るみに出てはいけないんだよ」
「ってことは……俺らは口封じに殺されるってことかよ!?」
そんな!?ここまできて……?ここまできて!?利用されるだけ利用して最初から殺すつもりだったということか!?
「ふざけんなよ!?俺らはそんな事言わねぇよ!!だから.......!!」
「命乞いなど聞かぬわ」
ヴラドはニヤリと笑う。
「吾輩はな……こういう遊びが好きなのだよ。希望に満ちた下民共が、ありもしない希望に期待を膨らませ、最後に絶望しながら死んでいくのを見るのが1番好きだ!!これは余興さ!だからお前らの様なグズ共にここに来させた!!さぁ、最後にいい顔をして吾輩を楽しませて見せろ!!」
そう言って、ヴラドは合図を送る。次の瞬間、周りの騎士達から一斉に魔法が放たれた。




