ギドの過去5【支配者の顔】
ズドン
「がっ!?」
ギドの側頭部に衝撃が走り、視界が揺れる。そして息を吐く間も無く今度は鳩尾に1発、背中からもう1発。
「ぐっ!がはぁっ!?」
ギドは血反吐を吐きながらその場に倒れ込む。その間にも次々と身体中に屍鬼達の攻撃が嵐の様に降り注ぐ。
だ……めだ……。
ギドはただ降り注ぐ殴打の嵐に身体を丸めて抵抗することしかできない。
くそ……これじゃあただなぶり殺されて終わりじゃねぇか!?なんだってシドはこんなことを……?
「ぐっ!?」
群れる屍鬼の向こうで滅多うちにされるシドの姿が見える。
だが、シドのことだ。きっと何かを見出したのだろう。
だから...だから何か打開策が.......!
ボトリ
「.......あ?」
その時、ギドの身体に何か生暖かい物が垂れる。
見るとそれは先程のシドに襲いかかっていた奴が崩れ去った残骸と同じ物だった。
何故攻撃をしていないのに?
ギドが違和感を覚えると同時に先程よりも攻撃の波が緩やかになっている事に気がついた。
ボトリ……ボトボト……。
そして気がつけば見るからに屍鬼達の数は減り、片手で数えられる程しか残っていない。
「ど……どういうこった?」
ぼんやりとした意識の中でギドは困惑する。
やがて、最後の屍鬼が拳を振り下ろすと同時に全ての屍鬼達がドロリと崩れ去り、試練の間はシドとギドの2人だけとなっていた。
「これが……試練だったんだよ」
隣でシドがフラフラと立ち上がりながら告げた。
「覇王の『支配者としての顔』。きっと敵に手の内を全てさらけ出させた上で屈服させる……みたいな感じなんだと思う」
圧倒的な力を持って生まれた覇王。
そんな彼にとって力で抑えつけることなど簡単だ。だが、それだけではより効率的な支配などできない。
世界を敵に回すほどの強さの持ち主だ。
そんな彼がとった支配の方法。それは全ての手を出させた上でなお相手を打ち負かし、恐怖だけでなく敬意を持って従わせること。
つまりこの試練の内容は『あらゆる敵の攻撃を受け止めること』だったのだ。
「じゃ、じゃあ先遣隊がやられたのって……」
「プライドの高い騎士……それもあのヴラドの部下だよ?だからこそ失敗したんだ」
そうだ。きっと彼らは無限に湧いてくる敵を打ち負かし続けたのだろう。優秀な騎士だったからこそ、相手の好きなように攻撃させるなんて発想は出てこなかったに違いない。
そのまま無限に戦い続け、力尽きたのか。あるいはタイムミリットか他の罠によってやられてしまったのか。
シドとギドだったから。耐え忍んで生き抜いてきた2人だったからこそ、乗り越える事ができた試練だった。
やがてゴゴゴと鈍い音を立てながら奥へと続く扉が開く。
「行こう、ギド。僕らは勝ったんだ」
「あぁ。あの向こうに俺たちの未来への道があるはずだ……!」
勝利の余韻に浸りながら、2人はボロボロの身体を互いに支え合うと、奥の扉へと向かった。




