拒絶
「おーい、おやっさん。一部屋余ってないか?」
ソウルは宿屋に着くと気さくな店主へと話しかける。
「あー?おめえさんもう部屋は貸してやったろ?」
「いや、もう1人おれの連れが泊まれないかなって思って」
ソウルはシーナの方に視線を向けた。
「.......」
そこには深くフードを被り、髪と目を隠したシーナが立っている。
「.......姉ちゃん、顔を見せな」
何かを感じ取った店主が険しい視線で告げる。
「.......」
シーナは黙って動かない。
「悪い、おやっさん。こいつちょっと訳ありで.......」
ソウルが仲裁に入ろうとする。
「だからだよ。面倒事に巻き込まれるのはごめんだからな」
だが、店主の警戒の色は解けない。
「.......分かった」
シーナはフードをとる。そしてフードの奥から綺麗な銀髪と深紅の瞳が現れた。
「.......そうか、おめえさん。【ジャガーノート】の」
店主は納得したように頷く。
「すまんが、他を当たってくれ」
「待てよ!別にこいつは何も.......」
ソウルは食ってかかった。
「.......邪魔した」
しかし、シーナはまた深くフードを被り宿を出ようとする。
「いや、おかしいだろ!シーナは何もしてねぇじゃねぇか!なんで門前払いされなきゃならねぇんだよ!!」
「兄ちゃん、おれにも家族がいるし生活がかかってるんだ。少しでも危険があるやつを置いときたくないんだよ」
「そんな.......」
「.......別に、慣れてる」
シーナはこちらを一瞥して店を出ていった。
「.......そうかよ、分かったよ!」
ソウルは八つ当たり気味にバァンとカウンターを叩いて店を飛び出し、シーナを追いかけた。
ーーーーーーー
「.......なんで着いてくるの?」
シーナは歩を緩めることなく尋ねる。
「別に。1人にしておけねぇと思っただけだよ」
ソウルは苛立ちながらぶっきらぼうに答えた。
「納得いかねぇよ。おめえが何かした訳でもないのに、女の子を1人で夜の街に追いやるなんて」
「.......あの人は当たり前のことをしただけ」
シーナはまるでいつもの事と言わんばかりに淡々と告げる。
「シーナ.......」
一体、これまでどんな人生を送ってきたのだろう。その小さな背中にどれ程重いものを背負っているのだろうと思うと胸が苦しくなった。
「.......早くどっか行きなよ」
シーナはソウルに告げる。その声はまるで氷のように冷たかった。
「いや、おめえ1人で野宿なんかさせねえよ」
だが、ソウルも譲らない。ここまできたら何がなんでもシーナに野宿なんかさせてやるものか。
「.......本気で嫌なんだけど」
「さて、どうしたものか」
シーナの言葉は聞こえないことにした。
店を手当たり次第回るにしても、シーナにあんな一方的に拒絶されるような思いをさせたくない。
となれば、事情を分かってくれそうな知り合いにお願いするのが1番穏便だろうか。
だが、ソウルは今朝この街についたのだ。知り合いなどほとんどいないし、いてもその所在までは分からなかった。
ある1人を除いては。
「.......」
ソウルの頭をあるオカマの顔がよぎる。というか、それ以外に今所在がわかる知り合いがいない。
「ダメもとで行ってみるか」
「.......勝手に決めないで」
うんざりした様子のシーナだったが、それでも彼女は黙ってソウルについてくるのだった。