牢の中で
「.......」
ソウルは朦朧とした意識の中、仰向けになりながら地下牢の冷たい天井を見上げる。
光の刺さないこの場所では、時間の経過も分からない。
「.......なぁコマ。俺どれぐらいの間アイツに痛みつけられてた?」
「私はお前なんぞと話す口はありません」
ソウルは牢の側に立つコマに話しかけるも、見事に切り捨てられる。
「んだよ...。少しぐらい話し相手になってくれてもバチは当たらねぇだろうに.......」
「それでお前が召喚獣を渡すというのなら聞いてやっても構わないですが?」
「そりゃあ、無理な相談だな」
「なら諦めなさい」
こうしてまた沈黙が訪れる。
「おぅ、ソウル。どうやら生きてるみてぇだな」
「ギド.......?」
すると、どこからともなくギドの声が聞こえてきた。どうやら無事だったようだ。
「無事.......だったんだな?」
「あぁ。あいつに滅多打ちにされたがな」
そう告げるギドの声にはいつものハリがない。イグにやられてかなり弱っているのだろう。
「無事でよかった.......」
だが、最悪の事態は免れたようだ。無事こうして再会できただけでもよかった。
.......牢屋越しではあるが。
「まぁな。あいつは多分まだ俺に使い道があると思ってるみてぇだからな。まだ生かされてる。シーナはどうした?」
「.......崖下に、落ちた」
ソウルは先程の光景を思い出しながら告げる。もう少し...もう少しでシーナの手を掴むことができたというのに。
「んだと!?無事なのかよ!?」
「信じてくれって...言ってくれた。だからきっとシーナは大丈夫だ」
「.......そうか。あいつがそう言うなら、信じて俺たちは待つとするか」
そう言ってギドが深く息をつくのが聞こえてきた。きっと、ギドもシーナの安否を気にしているのだろう。
「うるさいですよ」
すると、ソウルとギドのやり取りにコマはイライラしたような声を上げる。
「なぁギド。お前、イグのこと知ってたんだな」
そんなコマを無視してソウルは牢のどこかにいるギドに声をかけた。ちょっとした囚人の仕返しである。
「あぁ。昔色々あって.......な」
ギドもそれを察したのだろう。コマの事を無視して会話を続けてきた。うん、流石ギド。よく分かってるじゃないか。
「本当に、うっとおしいやつらです」
コマは苛立ちを隠しもせずにガァンと鉄格子を蹴る。
「おいおい。俺たちは不穏な動きは見せてねぇぞ?ただ雑談してるだけだ」
「違いねぇ。これで俺達に手を出したらイグの意思に反するんじゃねぇか?」
「こ...の.......!?」
コマはギリギリと歯軋りする。逃走の算段でもつけているならまだしも、本当にただ喋っているだけ。心を読む力を持つコマにならそれも分かっている。だからソウルとギドに手を出すべきか分からなくなってしまっているようだ。
イグへの強い忠誠心がかえって彼女の判断を鈍らせているのだろう。
「なぁ、だったらせっかくだし教えてくれよ。お前とイグとの因縁をさ」
それをいい事にソウルはギドになおも話しかける。
「.......そうだな。巻き込んじまったんだから話すのがスジってもんだよな」
ギドは少し考えるような間を置くが、やがてそう答えた。
「あれは、まだ俺がガキだった頃のことだ」
そう前置きをしてギドは語り始めた。
彼と、イグ、そしてもう1人の男の物語を。




