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モニカの過去12【始まり】

 あれから何年が経ったのだろう。


 この暗闇の中では正確な時間など分からない。ただ永遠とも言える時間だけがその身に刻々と刻まれていく。


 もう、何年も体を動かしていない。


 ただ冷たい床に身を投げ出すだけだった。


 モニカは元気にしているだろうか?1人寂しく泣いたりしていないだろうか?


 僕たちのことを、覚えているのだろうか?


 彼らには分からなかった。でも、仮にもしもモニカがここに帰って来なくても、彼女が笑顔で生きているのなら僕たちはそれで満足だ。


 そしてまた脱力し、思考を放棄した。


 ギ...ィィ.......。


 何だろう?何か聞こえたような気がする。またネズミか何かだろうか?


「ーーーーー」


 誰かが話をしている。誰だろう?巴かな?それともロベルト?


 ギュッ.......。


 そして、彼らは何かにそっと抱き上げられた。


 それはまるで、あの時の.......。この地下室が開かれて、初めて感じたあの優しい温もり.......。


「みんな.......長い間、お待たせしました」


 やがて、彼らの顔に温かな滴が垂れる。


 その瞬間これまで止まっていた時が動き始めるのを感じた。


『モニカ.......チャン?』


「はい...。あなた達を迎えに来ました」


 そこには真っ赤な顔で彼らを見下ろす立派に成長したモニカの姿があった。


ーーーーーーー


 モニカは、父に話をした。


 自分の力について知りたいと。そして、自分の力を制御できるようになりたいと。


 父は少し驚いた顔をした後、そっと笑った。


 それはまだモニカが力に目覚める前のような、あの優しい笑顔だった。


 そして、父はモニカを連れてイーリスト国より西の国【聖国家シンセレス】へと渡った。


 どうやら、そこがドミニカ家や動く人形達由来の地らしい。そこで彼女の力【分霊】について学んだ。


 そして、モニカは積極的に人と関わることを目指した。たまに制御がうまくいかずに気味悪がられることもあったけれど、心許せる友人もできた。


 彼女に足りなかったのは、自分に向き合おうとする気持ちと人と関わろうとする勇気だったのだ。


 そして、自身の修行を終えたモニカは16歳の誕生日を迎えたこの日、イーリスト城下町へと帰ってきた。


「ごめんください」


 モニカは目についた錬金屋へと足を運ぶ。


「いらっしゃい。嬢ちゃんや、何をお探しかね?」


 シワシワの老婆がモニカに声をかけてくる。


「今日から16歳です。もう嬢ちゃんじゃありませんよ」


「そうかい。それは悪いことを言ったね。姉さんや」


「はい、ありがとうございます」


 モニカは満足げに胸を張る。


 イーリスト国では、16歳を迎えると成人として扱われる。酒も飲めるようになるし、騎士としての入団試験を受けることもできるようになる。


 まぁ、見た目が幼いモニカならそれを間違えられても仕方ないのだが。


 成人を迎えたモニカは2つの夢を叶えるために、このイーリストへと帰ってきた。


「あの、とても大きな物を持ち運べるようなそんな道具ってありませんか?」


 モニカは一頻り店内を見回った後、老婆に問いかけてみる。


 彼女は巨大な人形達を持ち運ぶための道具を探していたのだ。


 流石に街を巨大な人形に歩かせるわけにもいかないし、モニカの力で運ぶことも難しい。


 ならば、魔法の道具の中にモニカの力になれるものがあるのではないかと思いこの錬金屋にやってきたのだ。


「.......ふむ」


 すると、老婆はじっとモニカの顔を見つめてきた。


「?何か?」


「お前さん、ドミニカの娘だね」


「ど、どうしてそれを!?」


 モニカは突然の老婆の言葉に思わず取り乱してしまう。


「あ、あの。もう力は制御できるようになりましたので...怖がることは.......」


「違うさね。お前さんの力を怖がっている訳じゃない。ただ.......」


 老婆はカウンターの下をゴソゴソと探りながら告げる。




「すまないね.......たくさん苦労をかけさせてしまったね」




「.......はい?」


 モニカは老婆の言葉の真意が理解できない。


「いや、こっちの話さ。それよりもお前さんが望む品はこれかね?」


 すると、老婆がカウンターにドンと大きな革鞄を置いた。


「こ、これは?」


 彼女の身長はあろうかと思われるその巨大な皮鞄に少し引きながらモニカは尋ねる。


「これは、【収納鞄(ストランク・トランク)】」


「【収納鞄(ストランク・トランク)】?他の鞄と何が違うんです?」


「こいつの中には空間が圧縮されていてね、中はちょうどこの店全体ぐらいの広さになっているのさ」


 老婆はバカンと音を立てながら鞄を開く。


「ほ、ほんとです!すごい!!」


 モニカが革鞄の中を覗くと、そこには広い空間が広がっている。しかも中は明るく暖かい。これなら、きっと安心して彼らを連れて歩く事ができるはずだ。


「で、でも重そうです.......」


「安心しな。見た目ほどこいつは重くないさ」


「あ、確かに」


 背負ってみると、見た目の割にそこまで重さは感じない。せいぜいランドセルぐらいだろうか。


「あ、ありがとうございます!それではこれを頂戴したいのですが、いくらになりますか?」


 財布を開きながらモニカは食い入るように老婆に詰め寄る。


「お代はいいさ」


「.......え?」


 しかし、老婆はとんでもないことを告げた。


「だ、ダメですよ!こんな立派な品、絶対に高いじゃないですか!!払わせてください!!」


 この時のために貯金はしてきた。仮にローンを組むことになっても必要な投資として支払うつもりだ。


 こんな立派な物、絶対に高価に決まっている。それをタダだなんて……モニカの良心がそんなことを許せない。


「いや.......貰っておくれ。せめてそれがあたしからドミニカの家にしてやれる、罪滅ぼしなんだ」


 だが、目の前の老婆も頑なで譲らない。


 どうやら何か事情があるようだが……。


「わ、分かりました。じゃあせめて!これは購入させてください!」


 そこで、モニカはそばにあった白いローブに手を伸ばす。せめて、このローブだけでも購入することで折衷案とすることとした。


ーーーーーーー


 11年ぶりに訪れた人形小屋は、古くそして小さかった。


「こんなに、小さかったんですね」


 モニカはその小屋の中を見渡しながら呟く。


 かつて、彼女にとってすべてだったこの場所は今ではとても狭く寂しい場所に映る。


 ここを歩くと彼らと過ごした日々が、まるで昨日のように思い出される。懐かしい思い出に浸りながら、モニカは地下へと通じる扉の前に立つ。


 ついにこの時が来た。


「.......」


 長かった。


 今日この時のために、やれる事はやった。後は、自分の力でどこまで彼らを扱えるか。


 決意を込めるように、モニカは地下へと続く扉に手をかける。


 ギ...ィィ.......。


 錆び付いたような鈍い音を立てながら、地下室の扉が開く。


 この瞬間、騎士モニカの物語は始まった。

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