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イグ

 コツコツ.......。


 男は森の中に広がる石畳の上を1人歩いていた。


 イーリスト城から少し離れた位置に存在する【見捨てられた街】。かつて栄えたその都市は、新たな城が建設されたことにより廃れ、ゴーストタウンとなった。


 長い月日の果て、石造りの建物は草木に飲まれ、遠目にはもはやその名残すら見せていない。


 そんな時の流れの残酷さを噛み締めながら、黒い鎧に身を包んだ男【黒騎士】はその廃墟の入り口へと足を進ませる。


「何者だ!止まれ!」


 するとその陰から白装束のような物で身を包んだ男が姿を現した。


 男の顔は白い布を被せられ、それにはまるで龍の頭を模したようなシンボルが描かれている。


「ここをどこだと思っている!神聖なこの地に薄汚.......」


「邪魔だな」


「え.......」


 白装束の男が間の抜けた声を出すと同時に彼は腐り落ちたかのようにボトボトと肉塊となって地に崩れ落ちた。


「ひっ、ひぃぃぃい!?」


 側に潜んでいたもう1人の白装束の女が腰を抜かして後ずさる。


「イグの所に案内しろ」


 そんな震え上がる女に黒騎士は高圧的な声で告げた。


「.......っ!っ!」


 女は恐怖に駆られ何度も頷きながら逃げるようにして一際大きな廃墟の奥へと消える。かつての城か何かだろう。


 黒騎士は女の後に続く。


「久しいね、黒騎士」


 やがて、建物の最上部へと辿り着くと爽やかな男の声が聞こえてきた。


「部下の教育がなっていないな、イグ。1人消してしまったぞ」


 苛立ったように黒騎士は玉座に座るその男に声をかける。


 灰色の髪に爬虫類のような縦長の瞳孔を持った瞳。龍の顔ような模様が装飾された白装束に身を包むそいつは足を組んで肘を立てながらこちらを見下ろしていた。


「も、申し訳ございませんイグ様.......」


「いいよ、気にしないで。.......全く、僕の大事な信者たちを殺さないで欲しいな」


 イグと呼ばれたその男は黒騎士を連れてきた女の頭を撫でながら告げる。


「ふん、こんな滅んだ都市の奥で王様気取りか...。下らんな」


 既に滅んだ国でふんぞりかえるイグの姿が黒騎士の目には哀れに映った。


「必要な事だよ。こうして身を隠しながら力を蓄えているんだ」


 しかし対するイグは黒騎士のそんな態度を気にする様子もなく答える。


「しかしまさか君単体でここに来るなんてね。私の力のことは知っているだろうに」


 イグはにっこりと笑顔を作っているが、その瞳の奥は薄気味悪い光を放っている。


「確かに貴様の手にした力は私にとって驚異だ。貴様を敵に回せば厄介なことになるだろうな」


「ではどうしてここに来たんだい?僕はみんなと協力関係にあるけれど君のことは気にいっていないのは知ってるだろう」


 イグは黒騎士の思惑を探るように問いかけた。


「今回は貴様に朗報を持ってきてやったんだ、ありがたく思え」


「ほぅ、一体どんな朗報なんだい?」


 別段どうでも良さそうにしつつ、イグは黒騎士に尋ねる。



「今、イーリスト国に召喚術士がいる」



 予想外の情報にイグは思わず爬虫類のような目をカッと見開く。


「それは.......面白いな。僕のコレクションに加えるに値する力なのかな?」


 前のめりになりながら興味深そうに耳を傾けるイグに黒騎士は捕捉する。


「一体はあのイマシュを打ち倒すほどの力を持った召喚獣だ、かなりの力を持っている。だが残りのもう一体は分からん。力を隠しているようでまだ力の一部しか露見していないんだ」


「へぇ、あの女好き死んだのか」


 イマシュの訃報を聞いてイグは悲しむどころか楽しそうに笑う。


「あぁ、だから油断はするな」


「召喚魔法なんて僕にとってカモだよ。君にもわかってるだろう?いい情報をありがとう。お礼に君を喰らうのはもう少し先にしといてあげるよ」


 イグはそう言ってすっと玉座から立ち上がると早速行動を始めるために建物の奥へと姿を消した。


「.......警告はしたぞ」


 それをまともに受け止めなかった奴の結果がどうなるかは知らない。ただ、黒騎士は自身の目的の為に動くだけだ。


 そう思いながら黒騎士は黒い渦の中へと姿を消すのだった。


ーーーーーーー


「僕の大事な駒はいるかい?」


「はい」


 イグが暗闇に声をかけると、1人の小柄な女が姿を表す。


「さっきの話は聞いたね?イーリストにいる召喚士について調べてくるんだ。奴の弱みや性格.......やれそうならどんな力を持っているか。頼んだよ」


「……はい」


 そう言って女は闇の向こうへと消えていった。


「さぁ、楽しい楽しい狩の時間といこうじゃないか」


 イグのその呟きは深い闇の中へと消えていった。

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