決裂
「なっ!?」
「えっ!?」
どこからともなく動揺の声が上がる。
ソウルの視界は激しくぐらつき、後ずさるように倒れ込んだ。
目の前の少女は倒れ込むソウルの胸ぐらを掴み上げ、そして叫ぶ。
「何であんたがここにいんのよ!!??シン・ソウル!!!!」
「ミクス.......オデット.......?」
ソウルは半ば呆然としながらかつての孤児院の仲間の名前を呼んだ。
最後に彼女を見たのは6年前。だがそのトレードマークのサイドポニーの髪型と、薄紫の髪と瞳.......。何より負けん気の強いその目と口調は間違いなく彼女だった。
「あんたのせいで.......あんたのせいで!!」
「.......っ!!」
オデットの言葉がソウルの心に深く突き刺さる。そしてオデットはさらにソウルにビンタをしようと大きく振りかぶった。
パシィッ
しかし、横からそれを止める手が伸びる。
「.......離しなさいよ」
「.......」
そこには未だかつて見たことがないほどに怒りを露わにしたシーナがいた。
ミシミシ...
「ちょ、痛っ!?」
シーナは恐ろしい握力でオデットの腕を握り潰す。あまりの強さに骨が軋む音がソウルの耳にまで届いてきた。
「ま、待ってくれシーナ!」
ソウルは慌ててシーナを制止する。
「.......この女、ソウルをぶった!」
しかし、シーナの怒りは燃え盛る火の如く止むことを知らない。
「違うんだ!その...昔の知り合いで.......!だから頼む、手を離してやってくれ.......!」
ソウルは懇願するようにシーナの手を優しく握る。
「.......っ」
シーナの手からすっと力が抜け、シーナはオデットの腕から手を離した。
「.......オデット、本当にお前なんだな?」
シーナが手を離したことを確認すると、ソウルは立派に成長したかつての孤児院の仲間に問いかける。
「.......」
オデットは俯いたままコクリと1つ頷いた。
「.......私は、絶対にあんたを許さない」
そしてそう一言告げた。
「やめろオデット。ソウルに会ったとしても冷静に振る舞うと約束しただろ」
すると、レオンの後ろに控えていた長身で赤髪の男がこちらに歩み寄ってくる。その猟奇的な眼.......でかくなって、もはや殺し屋みたいじゃねぇか。
「.......久しぶりだな、ライ」
そしてソウルはかつての友の名を呼んだ。
「ソウル、知り合いなんだね?」
皆が状況を理解できず困惑する中、レイがそっとソウルの肩を叩く。
「え!?」
「!?」
そしてオデットとライは息を飲んだ。
「ウィル....くん?」
「まさか.......死んだはずじゃ.......!?」
2人はまるで死んだものでも見ているような反応を返す。
「.......全く、僕は本当に君の友人だったウィルっていう人に似てるみたいだね、ソウル」
レイは少し困ったように笑いながら告げた。
「初めまして。僕は新兵43班、聖剣騎士団配下騎士のベルト・レイ。多分君達の昔の友人に似ていると思うけど別人なんだ、ごめんね」
「わ、私はバンビアナ・アル...ですわ」
どうすればいいか分からなくなっていたアルもレイに続いて自己紹介する。
「魔導学校第1010期生、クリムゾナ・ライだ。そしてこっちは魔導学校第1011期生、ミクス・オデット。先程はこちらのオデットが無礼を働いて申し訳ない」
「止めてよライくん!こいつなんかに頭を下げるなんて.......!」
謝罪をするライとは対照的にオデットはソウルに敵意丸出しだ。
「よせ。オデットくん」
すると、背後からレオンが声をかけてくる。
「君は聖剣騎士団配下騎士のシン・ソウル君だね?」
「.......はい」
ソウルはレオンを見上げる。身長は190cmはあるだろうか。がたいの良い男だ。
「今日は私の部下が無礼を働いた。私からも深く謝罪を申し上げよう」
すると、レオンはソウルに深く頭を下げる。その姿にソウルだけでなくオデットとライも驚きを隠せなかった。
「.......ジャンヌよ、今日はこれで失礼させてもらうとする。異論はないか?」
「.......あぁ」
ジャンヌは腕を組んだまま短く答えた。
「すまないな。申し訳ないが今日のことは1つ、貸しにさせてくれ」
そう言うとレオンはオデットの肩を掴み、部屋の外へと連れ出す。オデットも抵抗することなく脱力した様子で付いていった。
だが、彼女は部屋を出る直前にソウルの方を振り返り、鋭い瞳をこちらに向けたのがソウルの心に残った。
「.......本当にソウルなのか?」
1人残されたライはボソリとソウルに呟く。
「.......そうだよ。でかくなりやがって。一瞬誰だか分からなかったよ」
「.......ふん。その軽口、変わらねえな」
ライは少しふっと微笑むとそのまま背を向けて部屋を出て行った。
「.......」
ソウルはそんなライを黙って見送ることしかできなかった。
ーーーーーーー
「ソウル、大丈夫か?」
ジャンヌは心配そうにソウルに声をかける。
「は、はい。大丈夫です、あはは.......」
そう答えるが、ソウルの頬は赤く腫れ上がっており、見るも痛々しい姿になっていた。
「見せてください」
ケイラはそう言ってソウルそばに駆け寄り回復魔法をかけてくれる。
「す、すいません。その...俺のせいでめちゃくちゃにしてしまって」
治療を受けながらソウルは頭をガシガシとかく。
「いや、今回の件はどう言った事情があろうと向こうのあの娘に非がある。ソウルが気にすることでは.......」
「ち、違うんです!」
ソウルはジェイガンに告げる。
「あいつを....責めないでやってください。きっとあいつがああなっちまったのは、俺のせいだから.......」
「.......何か、事情があるんだな」
ジャンヌが何かを察したようにソウルの顔を見る。
「はい。でも、安心してください。そんな大した話じゃないんで、すぐ和解できますよ」
そう言ってソウルは笑顔を向けた。
「そうだな。男なら昔の女関係はスパッと切っちまえ。それがふった男の責任って奴だぜ」
「お前じゃねぇんだ、ソウルに限ってそんな女関係のトラブルなんて.......」
マリアンヌがデュノワールに口を挟もうとするが。
「.......いや、あるかも知れねぇか」
やがて頭を抱えてガックリと項垂れた。
「どういう意味ですか!?」
ソウルは普段通りに楽しそうに聖剣騎士団の面々と会話をしている。
「.......」
しかし、そんな彼の顔をジッと見つめる者がいた。




