もっと考えてみよう
「はぁ.......どうしたもんかなぁ」
「うるさいね。ここはあんたのお悩み相談教室じゃないんだよ」
ソウルは聖剣騎士団の話後、練金屋のスカーハの元を訪ねていた。
「ひでぇ話だなぁ。あんたのお得意さんがこんなに悩んでるってのに、少しは相談に乗ってもバチは当たらねぇぞ?」
ソウルは備え付けられた椅子に座り、カウンターに身を委ねながら毒を吐く。
「なぁにがお得意さんだ。あたしゃあんたが来る度赤字なんだよ。どれだけ優遇してやってると思ってるんさね」
「はぁ.......これからどうすればいいんだ」
「無視するんじゃないよ」
スカーハは何やら怪しい本を読みながらぶつぶつと文句を言っている。
聖剣騎士団の配下騎士となる事を選んだ以上、ソウルの気持ちとしては騎士を続けていきたい。
だがそうなるとやはり召喚魔法のことを何とかしなければならないだろう。
「ふん。もっと凹んでるかと思ってたが、少しは元気なようさね」
「.......空元気でもやってねぇと心がもたねぇんだよ」
ソウルはそう言いながらガシガシと頭をかく。そしてスカーハに本題を切り出した。
「なぁ、ばぁさん。召喚魔法ってどんな魔法か知ってるか?」
「あぁ。死んだ人間の魂を召喚獣に作り替える魔法だね」
やっぱり。スカーハ婆さんは召喚魔法のことを知っている。それも巷で噂になっている【生命を作り出す邪法】としてでは無く、本物の召喚魔法の事を。
であれば、この得体の知れない婆さんなら知っているかも知れない。
「いや…さ。その、召喚魔法で召喚獣にされた人間を、元の人間に戻すことってできねぇのかなぁ?」
そう。ソウルは召喚獣を人間に戻す方法がないかを探しにきたのだ。もしそれが可能なら、今のこの状況は全て解決する。
「何無理難題言ってんだ。考えてみな?死んじまった人間の身体は当然死んだままさね。魂を返したところで肉体が死んでるんだ。生き返らせることなんざ無理だね」
やっぱりそうか、いや分かっていたけども。仮にそれが可能だったとして、もう2人の遺体は...。
「じゃあ、せめて召喚獣にされた人間の魂を解放する方法とかってないのかよ」
ならば次の手だ。せめてガストとレグルスを召喚獣であることから解放する。それができれば.......。
「.......あるにはある」
「ど、どうすれば...!」
ソウルはガタッと食い気味に身を乗り出した。
「召喚士であるお前さんが死ぬ事さね」
ソウルを取り巻く空気が凍りつく。
え.......?
スカーハから告げられた言葉に全身から冷や汗が止まらなかった。
「.......あんたが考えてそうなことは顔を見るだけで分かる。気づいたんだろう?2体目の召喚獣を手にしたことで召喚魔法がどんな魔法なのか。何を持って邪法としてこの国で禁じられているのかを」
スカーハはパタンと本を閉じてソウルの顔を見る。
「.......っ」
ソウルは返す言葉が見つからない。心の全てがスカーハ婆さんによって明らかにされていく。
「1体目はうまいこと隠してきたようだが、2体目は随分とまぁ隠すのが下手だったようさね」
「やめてくれ」
ソウルはギリリと歯を食いしばる。
「ガストもレグルスも人間だ。まるで化け物みたいに1体2体って言わないでくれ.......!」
「ふん。些細な事を気にするんだね」
「些細な事じゃない!俺にとって2人はかけがえのない大切な家族だ!友人だ!魔法で造られた獣なんかじゃない!」
ソウルはカウンターをバンと叩き声を荒げる。頭が沸騰しそうなほど熱くなっていく。
「.......分かったよ」
スカーハ婆さんは特に動じた様子もなく淡々と答える。
「.......俺が死んだら、2人は解放されるんだな?」
「そうさね。2人の魂の虫かごが無くなるんだ。当然だろう」
「.......そっか」
ソウルは言葉をかみしめるように呟く。俺が死ねば.......。
「……一応言っておくが、あたしゃあんたがどういう選択をとろうが知ったことじゃない。だがね」
スカーハはソウルを睨みながら告げる。まるで自分の孫に小言を告げる気難しい祖母のように。
「あんたには待ってくれる奴が、そばに居る仲間がいるだろう?」
「.......」
レイが、シーナがアルが、オリビアが、聖剣騎士団の皆が、様々な仲間の顔がソウルの脳裏をよぎる。
「もうお前さんはお前さんだけの命じゃないんだ、そこをしっかりと考えて決断するんだね」
「.......厳しいことを言うなぁ」
死んで全てから逃げることもできない訳だ。
「あたしゃ甘やかしたりなんかしない。ただ事実を伝えるだけだ。甘やかして欲しいんだったら惚れた女のところにでも行くんだね」
「いや、いいさ。むしろこっちの方がいい」
ソウルは深く息を吐く。胸にたまったどんよりした想いを吐き出すように。
甘やかされた所で何も変わらない。あるのはこれから自分がどういう道を選ぶのか、ということだけだ。
「ありがとう婆さん。あんたのおかげで自分がどうして行くべきなのか、少し考えられそうな気がする」
「.......相変わらず変わったガキさね」
「るっせぇ」
そう言いつつもソウルは少し笑顔が出た。
レイにも言われたように、もっと考えてみよう。きっとこれは自分だけで解決するような問題じゃないのだから。
ーーーーーーー
「ったく。本当に面倒くさいガキだよ全く」
ソウルが店を出た後、スカーハは呟いた。
だが、同時に懐かしいこの感覚。まるであの頃に戻ったみたいだった。
「そんなに不安なら、自分で確かめてみれば良かろうに。全く不器用なやつさね」
スカーハはそう言いながらもまたソウルの為に必要なアイテムでも調合するか、と店の奥に消えていくのだった。




