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3つの理由

「大体はレイが考えている通りだな」


 紅茶を飲みながら配下騎士についての話を進める。おおよそはレイの考えていた通りの意図があったらしい。


「流石だな、よく本質を捉えている」


「いえ、考えられる所がそこしか無かっただけです」


「後は3つ理由がある。シーナに聖剣の扱いを教えてやりたいんだ」


「聖剣の扱いを?」


 ソウルがシーナの顔を見ると彼女も驚いたような顔をしている。


「あぁ。聖剣は他の魔法とは全く違う性質を持っている。通常のデバイス・マナは扱えず、聖剣専用のデバイス・マナでしか魔法を扱えない」


 言われてみれば、シーナが扱ってきたデバイス・マナは聞いた事のないような名前のものばかりだったような気がする。


「だから私が手解きをしてやりたいと思っている。だが私の立場ではただの新兵に個別の指導をする訳にはいかないんだ」


「なるほど。でも聖剣騎士団の配下騎士であれば個別の指導も問題なく行えるってことですね」


 配下騎士は直属の部下。その部下に手解きをするのも上司の務めというわけか。


「じゃあ、残りの理由は?」


「それは.......」


 ソウルの質問にジャンヌは苦い顔をする。.......え、俺何かまずいことを聞いてしまったか?


「.......実は、これは僕達の個人的な理由になるんだけど」


 ハミエルが横から口を挟む。


「今、他の騎士団から圧力をかけられてるんだよ」


「圧力?」


「うん。僕達はこれまでずっと配下騎士を雇ってこなかった。理由は権力の暴走を抑えるためだ」


「どういうことですの?」


 アルはさっぱり分からないと言った様子で首を傾げている。


「それはだなぁ」


「ひっ!?」


 アルの背後からと復活したデュノワールがぬらりと顔を出す。


「何だ、生きてたのか」


「俺の生命力はゴキブリ並だからな」


「それでいいんですか.......」


 ソウルは相変わらずの兄気分に苦笑いする。


「この国では聖剣が神格化されてるだろ?聖剣を持つ者はいわば神に近い存在...最高権力を持つに等しいんだ」


「だが、それは諸刃の剣。言ってしまえば聖剣さえあればこの国を好きにできる、それ程の権力が生まれるわけだ」


 確かに18歳のジャンヌですら今は国の中枢を担う立場に立っている。その傘下にいるとなれば色々と好き勝手できるようになるのかも知れない。


「だから、下手に配下騎士を増やしてしまえば私の手の届かないところで権力の濫用が生まれる可能性がある」


「つまり、『私たちは聖剣騎士団の配下騎士だから言うことを聞け!』みたいなことが起こるってことですの?」


「平たく言えば、そういう事だな」


 なるほど。確かに行きすぎた権力が暴走した結果どうなるのか、ということはサルヴァンがいい例だろう。


「でも、それが何故圧力に関わってくるんです?」


 レイが考え込みながら尋ねた。


「私たち聖剣騎士団はある騎士団からずっと目の敵にされているんです」


 ケイラはため息をつく。


「ある騎士団?」


「あぁ。神剣騎士団、もっと言えばこの国の騎士団長からだよ」


「「「えぇ!?」」」


「.......なるほど、騎士団長の立場としては優秀な聖剣使いは目の上のタンコブってことですね」


 レイは妙に納得したように告げる。


「でも、それがどうして僕らの配下騎士に繋がってくるんですか?」


「.......奴らから国王に直訴があったらしい。『聖剣騎士団は聖剣の力を独占しようとしている』とな」


「配下騎士を雇わないということは、下の者の育成に力を注いでいない。そして部下を作って騎士団を大きくしないのは聖剣の権力を私有化し、この国の安寧を脅かそうとしていると言われているわけだ」


「そんなめちゃくちゃな.......」


 ソウルは苦笑いする。


「だが、それもあの男の発言とあればそれ相応の力が生じる。なんせ騎士団長も聖剣の使い手だからな」


「な!?」


 まだ聖剣使いがこの国にいたのか!?


「そして奴は我々とは真逆の立場。どんどん優秀な人材を見つけて自分の配下騎士にしては国の安寧をはかろうとているんだ」


「実際、それで上手くいっている部分もあるんだがな。それでも一部からは黒い噂が絶えないって訳だ」


 この国のために働ける人間であればいいが、自分の私利私欲を満たすためだけに動く人間だっている。そうでなかったとしても、人は変わっていく者だ。そこには何の保証もない。


「しかし、確かに上に立つものとして下の者を育てることも使命だ。だからこれからは配下騎士を雇っていかなければならない」


「そこで、あなた達に白羽の矢が立ったんです!」


 ケイラは満面の笑みで告げる。


「なるほど、確かに聖剣の使い手であるシーナの育成が出来るし、僕らは一度聖剣騎士団と任務にあたっている。まぁ妥当ですね」


 聖剣騎士団の配下騎士を雇う目的が『下の者の育成』であれば新人の騎士団を雇うこともまぁ理解されるだろうし、シーナの聖剣やソウルの召喚魔法を管理することもできる。


 まさに一石二鳥という訳だ。


「じゃあ、最後の理由っていうのは?」


「それは.......その、まぁなんだ」


 ジャンヌが少し頬を赤くそめ、照れ臭そうに告げる。


「わ、私個人が君たちの事を...その、気に入っているから...な」


 .......え?


「い、いや、上に立つものが自分の私欲で動くのはダメだということは分かっている。だからこれはあくまで結果的にこうなった訳で.......決して私が配下騎士になるなら君たちがいいと思ったからこうなった訳じゃなくて.......」


 ジャンヌが珍しく動揺している。その様子を聖剣騎士団の面々はどこか微笑ましそうに眺めていた。


「.......はは」


 何だ、そういう事か。すごく、安心した。なにか大変なことに巻き込まれているのではないか、とかそんな不安も正直あった。


 色々な理由をつけていたけれど、そのジャンヌの言葉でソウルの心は決まった。


 ソウルは他の3人に目配せする。みんなも微笑みながら頷いた。他の3人も同じ気持ちなようだ。


「ジャンヌ様、俺たち配下騎士(フォロワー)になりたいです」


「ほ、本当か?」


 ジャンヌは嬉しそうに答える。


「はい。俺たちも聖剣騎士団の皆さんが好きです。もちろんジャンヌ様のことも。だから、誰かの下につくのなら誰でもない聖剣騎士団がいい」


「そ、そうか」


「.......ジャンヌ様、これからよろしくお願いします」


 シーナもぺこりと頭を下げる。


「私も、サルヴァンの時にお世話になりましたもの。あなたになら.......」


「僕も同じです。まだまだ未熟でご迷惑をお掛けしますけど、これからよろしくお願いします」


 素直な好意をぶつけられたジャンヌはすごくむず痒い。聖女としての彼女に向けられる感情は敬意、畏怖、羨望などばかりだ。


 こんな真っ直ぐなまでの純粋な好意にジャンヌは慣れていなかった。


「.......本当に、僕らも君たちでよかったよ」


 ハミエルはそっと笑顔を向ける。


「違ぇねぇ。よぉし、それじゃあソウル!この後暇か?任命記念にまた俺と一緒に理想郷(ユートピア)を.......」


「まだ殴られ足りねぇみてぇだな、デュノワールよぉ?」


「.......私も手伝う」


「待ってくださいね、確かこの辺に棍棒が.......」


「ちょっ!?待てって!?冗談だって、じょうだ.......うおおお!?」


「というか、ジャンヌ様が騎士団長じゃなかったんですね。てっきりジャンヌ様が騎士団長なのかと思ってましたよ」


「いやソウル、自分の所属してる組織のリーダーくらい把握しときなよ」


「.......私も知らなかった」


「シーナまで.......」


「「だって興味無いから」」


「.......レイ、相変わらず苦労してるね」


「ほんとにですよ.......」


「私ですら知っておりますのに.......」


 そんな賑やかなみんなを眺めながらジャンヌは心安らぐのを感じた。


「ジャンヌ様、きっとこれがあの方が仰っていたことです」


 そんなジャンヌにジェイガンがそっと告げた。


「.......そうか」


 ジャンヌの目尻が熱くなる。あの偉大な彼のように、私もなれるだろうか。まだまだ自分を律せないこの未熟者に。


「あなたは人の強さを、そして弱さも知っている。必ず誰よりも立派な騎士団長になれる。10年以上そばにいる私が保証します」


「.......あぁ。ありがとう、ジェイガン」


 賑やかな聖剣騎士団の喧騒の中、ジャンヌはその光景を眺めるのだった。

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