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騎士であり続ける覚悟

「.......」


「待ちなよ、ソウル」


 レイは1人無言で歩くソウルを追いかける。


「なんでもねぇよ。ただ体調が悪いだけだって」


「ナメてもらっちゃ困るよ、僕にそんな嘘が通用すると思う?」


「.......」


 相変わらず鋭いやつめ。


 レイはソウルが話をするまでずっとついてきそうだ。観念したソウルはやがて人気のない小さな公園のベンチに腰掛けた。


「.......船で言ってた召喚魔法を使わないって話と、何か関係があるのかい?」


 暫しの沈黙の後、レイが核心をついてくる。本当に、こういう時は鋭いレイが憎らしい。


「安心しなよ。誰にも言わないし、何があっても僕は君の味方だ」


 レイは爽やかな笑顔を向けてくれる。


「ほんと、お前って奴は.......」


 ソウルは深く息を吸う。


「.......召喚魔法のことなんだ」


「召喚魔法が?」


「召喚魔法は、死んだ人間.......それも大切な人の魂を召喚獣に作りかえる魔法だったんだ」


「な.......?」


 レイの顔色が青ざめる。当然の反応だろう。


「だから...俺は.......!」


 ソウルは自身の手を強く握る。強く握りすぎたことで爪が深く食い込み血が滲んでいた。


「ガストを...レグルスを死なせただけじゃない.......!2人の魂を化け物に作り替えて、無理矢理戦わせてきたんだ.......!」


「.......」


 レイは黙って聞いてくれている。


「召喚魔法が、禁忌の邪法として扱われているのにも納得だ。死者の魂を弄んで戦わせるなんて.......確かに神をも恐れぬ邪法だよ」


 ソウルは皮肉を口にする。


「うん.......」


 レイはふぅとため息をついて空を仰いだ。


「それで、ソウルはどうするんだい?」


「.......もう、召喚魔法は使わない」


「違う、その先の話だよ」


 レイは先の見えないソウルに問いかけた。


「その...先?」


 予想外の答えにソウルは目を丸くする。


「うん、その先だ。召喚魔法を使わないことは分かったし、僕も君の気持ちを尊重したい。だけど君が騎士であることは変わらないだろ?」


「.......あぁ」


「召喚魔法を使わないと決めた。じゃあその先、君は騎士であり続ける覚悟はあるかい?」


 レイは真剣な目でソウルを見つめる。これまで見たこともない、真っ直ぐな瞳にソウルは心の底まで露わにされたような錯覚に陥る。


「騎士である...覚悟.......」


「うん。もう君は夢見る子どもじゃない。騎士として試験にも合格して、任務にも携わってきた。現実の厳しさを知っている。そしてこれまでたくさんの困難を乗り越えてきた訳だけど、正直君の召喚魔法があってどうにか乗り越えてきたものばかりだ」


 ドランクール遺跡、サルヴァン、そしてコーラリア。どれも最後はソウルの召喚魔法を使って何とか乗り越えてきたという事実がある。


「騎士を続けるのなら、これから先必ず同じような事態が起こるはずだ。そこで君は召喚魔法を頼らずにその困難を乗り越える覚悟があるかい?」


「.......っ!!」


 レイの指摘が心に突き刺さる。


「魔法を使わずに戦って何かを失うことがあれば、君はきっと自分を責める。召喚魔法を使えば乗り越えることができたかもしれないと。だけど、召喚魔法を使えばまた君の大切なガストとレグルスを無理矢理戦わせることになる。そしてまた君は自分を責めるはずだ」


 レイの指摘はソウルの核心をついていた。そうだ、騎士を続けるのであればどちらかの道に進むしかない。どちらに転んでも茨の道。レイはソウルにその覚悟があるのかを問うているのだ。


「そ、それは...」


 ソウルの心が揺れる。そうだ、まだそこまで思考が達していなかった。これから騎士を続けるということはその覚悟を背負うということなのだ。


「まぁ待ちなよ。大事なことだ。すぐに答えを出す必要は無いさ。むしろよく考えてから答えを出すべきだよ」


 レイはそう言いながら立ち上がる。


「だけどね。君がどんな選択をしたとしても、僕は応援する。茨の道を歩もうとも、何か別の答えを探すにしても、きっと君なら最適な答えを見つけられるはずさ」


「買い被りすぎだよ.......」


 ソウルは自嘲気味に告げる。俺はこんなにも無力なのに。


「正当な評価だ。僕は君を信頼してる。この世の誰よりも...ね。そんな君が出す答えなら間違いないさ」


 そしてレイはソウルに微笑みかける。相変わらずイケメンなスマイルを向けやがって。俺が女なら一撃で落とされてるぞ?


「.......分かった、少し考えてみるよ。すまねぇな、レイ」


「気にするなよソウル。相棒だろ?」


 そう言ってソウルとレイは拳を重ねる。


 そんな2人を数多の星たちが見下ろしていた。

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