コーラリアの戦い9【スティンガー】
「なぁ、エドワード」
「何だ?ギド」
2人はゆったりと歩きながら語り合う。
「あのちっけぇリッパー共はロッソとモニカで何とかなりそうだな」
「あぁ。少なくとも決着が着くまでは何とかなりそうだ」
モニカのあの魔法は強力だが長持ちはしない。だが向こうの決着がつくまでは十分に持つだろう。それに遠距離なら圧倒的な制圧力を誇るロッソがいるのだ。きっともう大丈夫。
「じゃあ、俺達は他とは明らかに違ぇあいつを潰すのがいいんじゃねぇか?」
「奇遇だなギド。僕もちょうど同じことを考えていたのだよ」
そして2人は相対する。明らかに他のリッパー達とは違う、強力な力を持ったそいつと。
「名前を付けんなら.......そうだな、【スティンガー】とかにしとくか」
「ふむ。君にしては意外といいセンスじゃないか」
そこに立つのはリッパー達とは違う完全な人型の化け物。両の手はランスのように鋭く、重厚な鎧のような殻に身を包み込んでいる。
「シュルルルルル.......」
スティンガーはギドとエドワードを睨む。どうやらスティンガーの方も2人に狙いを定めたようだ。
「では行くぞ、ギド!」
「はんっ。遅れたら承知しねぇからな!」
そう言いながらギドはスティンガーへと肉薄する。
「シャァァァア!!!」
スティンガーはそんなギドに自慢の槍を突き出した。
「【電磁】のマナ!【パルス】!」
ギドはスティンガーの槍を躱すと、袖から矢尻のついたワイヤーを撃ち出した。
バキィッ
だが、スティンガーの重厚な鎧はギドの攻撃を弾く。
「っとぉ!」
その隙にスティンガーはさらに連続で突きを放ち、ギドは体をよじらせながら回避していく。
「【風】と【渦】のマナ!【トルネード】!」
エドワードはギドを巻き込まない位置に移動すると風の渦を撃ち出す。
「シャッ!」
スティンガーが槍を一振りする。すると槍先から水の飛沫が放たれ【トルネード】を相殺した。
「おらぁ!【電磁】に【連撃】のマナ!【ガトリング・パルス】!!」
その隙にギドはマナを溜める。ギドの服の中から無数のワイヤーが意思を持ったように浮かび上がると、一斉にスティンガーに襲い掛かった。
ギギギギギ!
だが、それでもスティンガーの鎧は砕けない。
「硬ぇぞエド!なんか作戦考えろ!」
「相変わらず君は無茶苦茶だな!」
そう言いながらもエドワードは少し距離を取る。奴の付け入る隙を見出すために。
「シャァァァア!!!」
「ちぃぃっ、【電磁】に【突撃】のマナ!【パルス・ストライク】!」
ギドから放たれるワイヤーはさらに力を増し、回転を加えた貫通力のある一撃となってスティンガーに突き刺さる。
ゴキン!
だがそれでもスティンガーの鎧に傷一つつけられない。
強固で圧倒的な防御力。
「力勝負ではダメだ!別の方法で攻めるんだ!」
「んじゃあ、これでどうだ!」
ギドは両腕のワイヤーを引き伸ばし、スティンガーの体に巻きつけていく。
「シャァァァア!!!」
だが、スティンガーもただではやられない。巻きつけられた体を無理やり振り回しながら抵抗した。
「うっ、おおお!?」
ギドの体は滅茶苦茶に振り回される。
だがギドはワイヤーを解かなかった。次の攻撃につなげるために。
「捕まえたぜ!!【雷】に【蓄積】のマナ!【ボルト】!」
ギドが詠唱するとワイヤーに電流が流れる。それはワイヤーを伝ってスティンガーの身体に押し流された。
「グッグガッ!?」
スティンガーは苦悶の声を上げる。そうだ、こいつらは水のマナがベースになっている。直接的な攻撃が効かなくとも電撃ならば通じるはずだ。
「いいぞ、そのまま気張れ!」
エドワードはそう言いながらマナを溜めていく。
「はっ、このまま決めちまうぞ、やるならとっととやれぇ!」
エドワードの呼びかけに答えながらギドはさらに込めるマナを強くした。
「シャガァァァァ!!」
すると、スティンガーが雄叫びを上げて身をかがめる。
次の瞬間、スティンガーの鎧の隙間という隙間から鋭い槍のようなものが突き出した。
「ちっ」
それはギドのワイヤーを貫き、スティンガーは拘束から逃れる。
「.......ふむ」
エドワードは敵を分析する。そうか、あれは体内から撃ち出されるもう1つの武器というわけか。
ならば、作戦は決まりだ。
「シャァァァア!!!」
「おいエド!ボーッとすんな!」
「うおっ!?」
スティンガーが咆哮したかと思った次の瞬間。先程の奴の体中の槍が一斉に発射されエドワードに襲いかかる。
「【トルネード】!」
エドワードは魔法を放ちスティンガーの攻撃を弾く。だが、それは想像より遥かに鋭い勢いでエドワードに襲い掛かってきた。
「なっ!?」
そしてスティンガーの槍が【トルネード】を貫いてエドワードに突き刺さる。
「おい、エド!?」
ドシュドシュッ
「ぐ...はっ!?」
鋭い槍はエドワードの太ももと脇腹を貫いた。
「おい、しっかりしやがれ!?」
「.......ぐ、いいか?ギド」
駆け寄るギドにエドワードは手短に作戦を伝えた。
「.......確かにそれならやれるかもしれねぇ」
「うむ。頼んだぞ...」
エドワードは口から血を吹きながら告げる。
「ちっ。とっとと片付けて治療すんぞ!だから踏ん張りやがれ、クソったれ!」
ギドはそう言いながら立ち上がり、スティンガーを睨む。
「てめぇは確実に殺す」
ギドの三白眼がさらに鋭く光る。
まるでその姿は仲間を死に物狂いで守り抜かんとする狼のようだった。
「シャァァァア!!!」
だが対するスティンガーも負けるつもりはない。一気に踏み込みながら自慢の槍をギドに撃ち出す。
「ちっ!」
避ければエドワードに当たる。クソみたいなことをしてきやがる!!
「【電磁】に【打撃】のマナ!【パルス・ノック】!」
ワイヤーを引き伸ばし、勢いをつけて真上から叩きつける。撃ち出された槍は地面へと叩きつけられその場に突き刺さった。
だがその隙にスティンガーはギドの目前まで迫り、全身の槍を突き出しながらギドに向かって突っ込んでくる。
まるでその姿は棘の生えた鉄球だ。
「ぐっ!?」
魔法が間に合わない。回避もできない。ならば.......!!
「ぐおおおおおお!!」
ギドは突っ込んでくるスティンガーを正面から受け止める。
ドシュ!!
ギドの体にいくつもの槍が突き刺さる。ギドは血反吐を吐きながら後方に吹き飛ばされた。
「で...【電磁】に...【連撃】のマナ.......。【ガトリング・パルス】.......!」
それでもギドは何とか魔法を発動させスティンガーに向けて連続でワイヤーを撃ち出す。
だが、当然それはスティンガーの鎧に弾かれて終わる。それも弾かれるどころか力なく撃ち出されたワイヤーはスティンガーの体を撫でるようにピシピシと叩くだけだった。
スティンガーは思う。これで終わりだと。そして体から突き出した槍を体内に戻した。
「.......やれ、ギド」
その時、ギドの背後から掠れた声が聞こえてきた。
「あぁ。【電磁】のマナ.......」
バカな。この期に及んでまだ無駄な攻撃を仕掛けるなど.......。
その時、スティンガーは体に何か違和感を感じる。何だ!?
「【パルス】!!」
そしてギドは魔法を発動させた。
だが、所詮無駄な足掻き。貴様の攻撃などこの鎧が全て弾いて...。
ズドドドドドッ!!
「ギャッ!?」
スティンガーの体に内側からえぐられるような痛みが走る。
ま、さか?
スティンガーが自身の体に目をやる。見ると殻の隙間から体の内部へとギドのワイヤーが繋がっていた。




