コーラリアの戦い4【物量戦】
「っ、ヴェン!あれ!」
エリオットが目を張りながら中央の水穴を指差す。
そこには水の中から無数のリッパー達が這い出してくるのが見えた。まさか……ここまでの数のリッパーを生み出していたのか。
「大丈夫、僕に任せて。必ず君を守りきってみせる」
正直、かなりきつい。でもエリオットを不安にさせるわけにはいかない、と強がってみせる。
「ヴェン、ダメだよ」
そんなヴェンにエリオットは微笑みかけた。
「私だって戦える。私だってヴェンを守りたい。一緒に戦わせて?」
「エリオット.......」
エリオットの双眸は真っ直ぐに彼を映し出している。
「.......無茶は、しちゃダメだからね?」
「うん、分かってる」
そして、ヴェンは優しくエリオットの頭を撫でた。
「絶対生きて帰ろう」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
エリオットは顔を真っ赤にしながらそう答えた。
ーーーーーーー
「【沫】!」
ヴェンはリッパー達の集団を青の閃光で吹き飛ばす。
「ヴェン!上!【ウェーブ・レイ】!」
すると今度はヴェンの上からアイホートの腕が迫る。エリオットの魔法で少し軌道がそれた。これなら避けることができる。
「っ!」
ヴェンは身を翻してアイホートの腕を躱した。
しかしアイホートの猛攻は止まらない。ヴェンを叩き潰すように何度も何度も腕を叩きつけてくる。
「くっ!?」
ヴェンは地を転がりながら辛うじて回避していく。アイホートが地を殴る度に水飛沫があがり、周り一面に雨のように降り注いだ。
「【水霊】に【波】のマナ!【ウェーブ・タイド】!」
エリオットはそんなヴェンを押し流すように波の魔法を放つ。潮の流れはヴェンをさらい、アイホートの攻撃の嵐を置き去りにした。
「【神撃】のマナ!【夜恋曲!】」
波に揉まれながらヴェンはアイホートに向けて剣を振ると、剣の軌道に合わせた斬撃がアイホートに突き刺さる。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!」
攻撃を受け、再びアイホートは悲鳴を上げながら倒れ込む。
「キィィ!!」
「きゃっ!?」
「エリオット!?」
しかし、今度は遠くでリッパー達がエリオットに群がり、無数の鎌が彼女に襲いかかる。
「【瞬撃】のマナ!【輪舞曲】!!」
ヴェンはすぐさま立ち上がるとエリオットを取り囲むリッパー達の中心に飛び込み、水の鞭でリッパー達を薙ぎ払った。
「ア゛ア゛!!」
だが、エリオットを守れば当然それはヴェンの隙になる。
アイホートはヴェンに向けて自身の白い身体を大砲のように撃ち出した。
「がっ!?」
「あぅっ!?」
白濁した砲撃はヴェンとエリオットを弾き飛ばし、2人は地を転がる。
白濁液は肌をジュウと焼くように汚染し、ビリビリとした痛みが2人を襲う。
ダメだ。アイホートにかかりきりになればリッパー達が数で押し込んでくるし、リッパーを処理しようとするとアイホートがこれ見よがしに攻撃を仕掛けてくる。
それに、ヴェンはもうかなりのマナを消耗している。そしてそれはアイホートに抗っていたエリオットも同じだった。
このままでは物量に押されて負ける。
【二重奏】を使えば一気に勝負をかけることができるかもしれないが、あれを使えば当然消費するマナも2倍になる。
よくても使えてあと1回。戦況によっては使っても魔法を撃ち出す程のマナが残らない可能性だってある。
「まずい.......」
せめて、せめてリッパー達さえ何とかなれば.......!
「ヴェン、あれ!」
「っ!」
見ると、水穴の中から一際大きな水飛沫が上がる。
そして、そこから大きな人型のリッパーのような化け物が現れた。
そいつの両の手はランスのように鋭く、まるで重厚な鎧のような殻に身を包み込んでいた。
「あいつは別格だね...」
一目でわかる。あいつは他の奴とは違う。もし、あいつがここに加わってくればもう敵をいなしきれない。
「くそ.......」
ここまできて...こんな所で、負けられるか!!
「うわぁぁぁあ!!!」
ヴェンがマナを溜め、もう一度リッパー達を薙払おうとしたその時だった。
ズン!
巨大な何かがリッパー達の群れの中に落下した。




