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コーラリアの過去7【約束】

 アイホートは島の南の方へと足を進ませる。


 腕の中の人魚の娘は暴れる様子もなく、ただなされるがままだった。


 当然だ。この島に住む人魚の一族、奴らは恐怖で支配してある。たまに現れる反逆の芽もこうして摘んでおくことで、その支配はさらに強固なものとなる。


 これも、我が覇王様に教えていただいたこと。その王のために何としてもこの島に眠る水の聖剣を見つけ出さなければならない。


 そしてアイホートは森を抜けるとそこは崖のようになっている。そこは人魚達への見せしめにはうってつけの場所だ。


 シュルルルル


 アイホートは自身の白い身体を糸状にしてアリルを縛り上げた。


「.......うぅっ」


 そして、この穢れを知らない可憐な人魚を、糸を介してじわじわと濁ったマナで侵食していく。


「あっ、あぁっ!?」


 アリルの体は弾かれたように暴れ、苦しむ。


 アイホートのマナに完全に侵された生き物は、彼の奴隷となる。


 この娘も、我が奴隷にしてあの村を襲わせる。


 かつての身内がその身を人ならざるものへと変貌させ、仲間を襲う。その事実は例え化け物と化したこの娘を殺したとしても彼らの心に更なる恐怖心を植え付けるだろう。


 そうすればその先しばらくアイホートに逆らう反逆者は現れはしないはずだ。


 アイホートは外道の笑みを浮かべる。


 とても、愉快で面白いじゃないか!実に面白いショーだ!!


「.......あ」


 アリルはあまりの痛みに視界が霞む。そんな彼女の脳裏には、あの無愛想で、なのにどこか安らぎを覚えるあの顔が浮かぶ。


「アマ...デウス.......さん」


 そしてうわ言のようにアリルは零すのだった。


ーーーーーーー


 アマデウスは夜の森を駆けていた。


 彼の駆け抜ける森は木々が薙ぎ倒されて進むべき道を彼に教えてくれる。


 行き先は簡単だ。木々をなぎ倒した先に、アリルが、そして奴がいるはずだ。


「.......っ!」


 いた。そこには蜘蛛の糸のような物で縛り上げられるアリルとそれをゲスのような笑みで見つめる白い球体。


 アリル、必ず.......。


「【放出】のマナ.......」


 アマデウスは走りながら聖剣にマナを込め、そして心に誓う。



 必ず、お前を救い出してみせる!



「【(しぶき)】!」


 次の瞬間、聖剣より蒼い閃光が放たれた。


ーーーーーーー



 ボシュウッ



 な、何だ!?


 アイホートの体を蒼い閃光が撃ち抜き、身体からマナがこぼれ落ちる。


 振り返ると、そこにはさっき殺したはずの人間がこちらを睨んでいた。


 そして、奴の右手にはガラスでできたような透き通った片手剣。


 それは紛れもない。我らが覇王軍を蹂躙した7つの聖剣のその一角。水の聖剣【アンサラー】。


 見つけた!やはりこの島に眠っていたのか!奴を殺してあの聖剣を回収してしまえば、我の役目は終わりだ!!


「オオオオオオオオオ」


 アイホートは巨腕を振る。どうせ、聖剣を持っていたとしても、奴はただの人間。我に敵うはずがない。


 ズドン


 そしてアイホートの腕が叩きつけられる。やったか。


「甘いなぁ!」


 しかし、アマデウスは巨腕を回避するとその腕に飛び乗ってアイホートに迫る。


 な、何!?


 いくら聖剣を持っていたとしても、それを扱えるかは別の話。ましてや剣技など突然聖剣を手にしたものが扱えるはずもない!


 だが、アイホートの予測は外れていた。


 アマデウスは様々な海を渡り、その身は打ちつける波を越えるたびに鍛えあげられてきた。


 その結果、彼の肉体はすでに聖剣を振るうに値する強さを持ち合わせていた。


「【瞬撃】のマナ!【輪舞曲(ロンド)】!!」


 アマデウスはアンサラーを振る。剣から7本の水の鞭が生成されると、縦横無尽にアイホートに襲い掛かった。


 ドドドドドドド


 アイホートは怯み、アリルを縛る糸が緩む。


「きゃっ!?」


 アマデウスはその隙にアイホートの脇をくぐり抜け糸を切り裂くと、落下するアリルを受け止めた。


「あ、アマデウスさん」


 アリルの目がアマデウスに釘付けになっている。


「.......アリル、約束を覚えているか?」


 そんなアリルに目を落としながらアマデウスは口を開いた。


「や、約束?」


 アリルは小首を傾げながらアマデウスに問い返す。


「奴を倒すために、お前に協力してやる。代わりに1つ私の言うことを聞け」


「あ...あぁ〜.......あれは、勢いで出たというか.......なんて言うか」


 アリルはバタバタと足を振る。しまった、確かに言ったがそんな深く考えていなかった。


 アリルにできることなんて本当に些細なこと。アマデウスの望みを叶えるなんてことできない、と目を逸らしてしまう。


 しかし、アマデウスは構わずアリルに言い放つ。



「私と一緒になれ」



「.......えっ」


 アリルは一瞬何を言われたのか理解できずに固まる。


 一緒になる...え、つまり、結婚するってこと?


 ウブな彼女にも、その真意は簡単に理解できた。



「えぇ〜〜!!??」



 アリルの顔が彼女の髪よりもピンクに染まる。目は丸くなり焦点が合わない。


「ままままま待ってくださいぃ!?私なんかとろいし、可愛くないし、ドジで間抜けで.......アマデウスさんみたいな素敵な人に釣り合わないです〜!!」


「確かにお前はドジで間抜けでどうしようもないさ」


「肯定するんですかっ!?」


 アリルは口をあんぐりと開けながらショックを受けているようだ。だが、そんな彼女にアマデウスは続ける。



「だが、お前は誰よりも優しく、美しく、そして魅力的だ。だから私はズルをしてでもお前が欲しい」



「.......ば、バカなんですかぁ?」



 消え入りそうな声でアリルはアマデウスの胸に顔を埋める。



 私が心から望んだもの。



 それは全てをかけてでもそばにいて欲しい、アリルの存在だった。



「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!」


「「!?」」


 アイホートはその身が【沫】によって風穴が空いているにも関わらず身体を起こす。


 全く。奴がいる限り落ち着いて話もできやしない。


 この先を続けるために、どうすればいいか。奴を倒してしまえばいい。それが最善。


 アマデウスがアリルの顔を見る。アリルもコクリと頷いた。


「大事な話は後だ。必ずこいつを倒す。力を貸してくれないか?アリル」


「えぇ。もちろんです、アマデウスさんっ!」


 そして2人はアイホートに向かって駆け出した。

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