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コーラリアの過去4【足りないもの】

「この島の地下、だと?」


「はいぃ。この縦穴がそうです〜」


 そう言ってアリルは自身が落ちた穴を指差す。


「この中に、聖剣が納められた棺があるとかないとか〜」


「どっちなんだ」


「分かりません~」


 アマデウスはため息をつく。何だ、結局眉唾物の話じゃないか。


「聖剣を見つけられる人と、見つけられない人がいるとか何とかです〜」


「見つけられる人と、見つけられない人?」


 アリルが先生にもなったかのように指を立てながら得意げに告げる。


「うちの家訓です〜。『自身の全てをかけられる者の前に未来を切り開く剣が現れる』」


「自身の全てを?何に?」


「さぁ~?」


「.......」


「に、睨まないでくださいよ〜」


 アマデウスが睨みつけるとアリルは涙目で訴えかけてくる。


「取り敢えず、この下に聖剣に繋がる道があるんだな?」


「そ、そういうことです〜」


 彼女の言葉を信じるのならこの穴の下に聖剣に繋がる何かがあるのは間違いないだろう。


 ならば、ここを捜索するべきだ。きっとそれが最善。


「.......いいだろう。だったらそれを取りに行く」


「き、気をつけて〜」


「お前も来るんだ。道案内をしろ」


「え、えぇ~...せっかく登ってきたのに〜」


 こうして2人は穴を降りてその奥へと進んでいった。


ーーーーーーー


 穴の中はゴツゴツした洞窟のようになっている。しかし、明らかに人為的に手が加えられた痕跡があった。


 床は削って階段のようになっているし、壁には魔石が備え付けられている。


 さらに歩みを進めていくと、まるで2人が来るのを知っていたかのようにぼんやりと魔石の光が道を照らし出した。


「.......なるほど、確かにただの洞窟では無さそうだな」


「はい~。でも、この先は行き止まりになってるんです〜」


「なに?この先に聖剣があるんじゃないのか?」


 それだと話が違うじゃないか。


「そう伝えられているんですけど何も無いんです〜。私の父も試したんですけど、ダメでした〜」


 先に進むとアリルの言う通り、そこは確かに行き止まりになっている。


 そしてその床には謎の魔法陣のような物が刻まれていた。


「.......これが仕掛け、というわけか」


「はい〜。でもマナを送っても、何をしても反応しないんです〜」


 試しにアマデウスは魔法陣にマナを送り込んでみる。


 バチィッ


「な...んだ!?」


「えっ、えぇ〜!?」


 アリルの話と違い、魔法陣は眩く光を放つ。そしてアマデウスの意識は魔法陣の中に飲み込まれていった。


ーーーーーーー


 アマデウスは真っ暗な空間にいた。ここはどこだ?アリルは?俺は死んでしまったのか?



『汝、何のために力を求めるか』



 そんなアマデウスの脳に厳格な男のような声が響く。


 何の...ために.......だと?


 その言葉に少し困惑しつつも何かを言わねばと思い口を開くが声にならない。



『念じよ、汝の力の意味を。力を求める意味を』



 俺は使命を果たしにきたに過ぎない。とっとと聖剣を出せ。



 アマデウスは心に語りかけてくる声に答える。私は力を求めている訳じゃない。ただ聖剣を回収しにきただけ。


 とっととその聖剣を渡せ!



『.......意志が弱いな』



 すると、脳に響く声が呆れたように告げる。



『《《今の》》お前にはまだ足りない』



 足りない?何の話だ?



『汝の心の底は何だ?幼き頃から真に求めるものは何だ?』



 知ったことか。私は私の使命を果たす。仕事をこなすことが私の生きがいだ。



『それは、逃げているだけだな』



 何だと?お前に何がわかる!?


 アマデウスは心を見透かされたような苛立ちを覚える。お前なんかに私のことが理解できるはずなど……。



『分かるさ。何故なら私は』



 すると、アマデウスの意識がまた引っ張られる。その刹那にアマデウスは確かに聞いた。



『私は、鏡に映る汝自身だ』



ーーーーーーー


「っは!?」


「きゃ」


 アマデウスは飛び起きる。


 そこは先程の洞穴の中だった。頭痛がする。意識を無理やり持っていかれたような感覚だった。


「あ、あの~.......」


 間違いない、ここには聖剣がある。そして、それがアマデウスの手の届く所にある。


「あ、アマデウスさぁん?」


 だが、手にするのには何かが足りない?今の私に一体何が足りない?


「ちょ...そのぉ.......」


 私は今の自分に満足している。分かったようなことを言って、奴の目的は一体何なんだ。



「あ、アマデウスさぁん!」



 アリルの言葉にアマデウスはハッとする。


「な、何だ」


 我に返ったアマデウスは目の前のアリルに目をやる。



「あ、あの〜...そろそろ、手を離してくれませんか〜?」



「.......あ」


 アマデウスが飛び起きた衝撃で、アマデウスは今アリルに覆いかぶさるような状態になっている。


 そして彼の右手はしっかりと彼女の豊かな胸を握っていた。


 とても、柔らかい。


「すっ、すすすすすまん!?!?」


 顔を真っ赤にしたアマデウスは再び飛び上がる。


 そして。


 ガンッ


「う...ぐっ.......」


 その勢いで壁に頭を打ち付け、そのまま地面をのたうち回った。


 そんなアマデウスを見ながらアリルは一瞬目を丸くすると。


「.......ぷっ、クスクス」


 どこか楽しそうに笑い始めた。


「な、何だ.......」


 アマデウスは割れそうな頭を抑えながらアリルを睨む。


「いや~、可愛い反応だな〜って思って。アマデウスさんも、そんな反応するんですね〜」


「う、うるさい」


 アマデウスは羞恥のあまりアリルの顔を見ることができない。


「.......そうだぁ」


 すると、アリルは悪戯っぽく告げる。



「アマデウスさんが村を救ってくれたらぁ、私の胸をたくさん触らせて.......」



「うるさい、黙ってろぉ!?」



「あはははっ」


 アリルは楽しそうに笑う。その笑顔を見て思わずアマデウスの緊張も緩んだ。


 その感覚はアマデウスにとって初めての感情だった。


 アマデウスの両親は生涯仕事人。


 生活に不自由はない。食事も衣服も、何も問題はない。そして、両親がアマデウスの話を聞いたり、世話をしてくれることもない。


 人と関わることが苦手になったのはその辺りの理由だろうか。


 仕事も必要最低限、深い関わりはしない。相手の事情に巻き込まれるからだ。


 だから、こうして誰かと談笑するなんて、アマデウスにとって初めての経験だった。


 どうしてもアマデウスにとってむず痒い感覚で気持ち悪い。だが嫌な感覚ではなかった。


「.......お前は、不思議なやつだな」


「えぇ~?どういう意味ですか〜?」


「.......何でもないさ。とりあえず、聖剣はここにありそうだ」


 胸に生まれた新しい気持ちを隠しながらアマデウスは話を聖剣に戻す。


「そ、そうなんですか〜。でもいきなり倒れるからびっくりしたんですよ〜?」


 アリルは驚いたように両の手を叩き、アマデウスの顔を見た。


「この魔法陣に意識を持っていかれたんだ。そして、何かが足りないと、そう言われた」


「何か.......捧げものとかですか〜?」


「そんなものでは無い。とにかく、すぐに何かできそうではなさそうだ。一旦ここから出るぞ」


 そう言ってアマデウスはツタを伝って穴の外へと登り始める。


「ま、待ってくださぁい。私、1人じゃあがれないです〜」


 すると、穴の底でアリルがパタパタと手を振っている。アマデウスはそんなアリルを穴の上から眺め、そして。



「.......ふっ」



 アマデウスはそれを横目に立ち去ろうとした。



「あぁ~!?今!今笑いましたねぇ!?いや、待って〜置いていかないで~!謝ります、謝りますから〜!アマデウスさぁん!」



 さっきの仕返しだ。もう少ししてからアリルを引き上げようと考えるアマデウスだった。

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