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決意

 森での戦闘から、3日が経っていた。


 森に入ることができないソウル達は町での聞き込みを続けていたが、やはり何も有力な情報は出てこない。


 それに海賊を討伐に出たブラウンも全然帰ってこないため、指示を仰ぐことさえもできなかった。


 他の新人騎士達は化け物づくしの森に何の情報も得られず、それに加えて司令官が帰ってこないといった三重苦に、任務をそっちのけでバカンスを楽しんでいる始末だった。


 かく言うソウル達ももう現状を打開する策が見当たらず、途方に暮れているわけだ。


「.......やっぱり、行くしかないな」


 夜、宿屋で今日も実りのない成果を報告した後、ソウルが口を開いた。


「い、行くって...どこに?」


 ロッソがまさかと言った顔でソウルを見る。


「決まってるだろ?ヴェンが人魚を見たっていう場所にだよ」


「ま、待って!!」


 ソウルの言葉にヴェンは弾かれたように立ち上がる。


「ダメだよ!やっぱり、僕が見たのはきっと幻だったんだ!!だから町の誰も人魚を見てないんだ!!そんなものの為にみんなを危険に晒せない!!」


 あの海域は結界の範囲外だ。つまり、あの場所にもリッパーを始めとする化け物たちが出現する可能性が高い。


 そんなヴェンの不確かな情報でみんなを危険になど晒せない。


「.......いや、行こう」


 しかし、ソウルの提案にレイも頷く。


「だ、ダメだよ!危険すぎる!海の上だとなおさら逃げ道もないんだ!」


 舟でリッパークラスの速さの敵に襲われたら逃げ切れるはずもない。それどころか舟ごと沈められてそのままやられてしまうのは明白だ。


「それでもやらなきゃならねぇんだ」


 そう言ってソウルはヴェンの顔を見つめる。


「俺たちは騎士だ。みんなを守るためにここに来た。人魚を保護することでこの町のみんなが守られるなら、俺はそうする。それに...」


 ソウルは頭をガシガシとかきながら告げる。



「人魚の方も守ってやりてぇなって思うんだ」



「人魚を...守る?」


 ソウルの言葉にヴェンは目を丸くする。


「あぁ。だって、少しの目撃情報が出ただけで海賊が来るような騒ぎになるんだぞ?海賊を追っ払ったとしてもまた別のやつらに襲われちまうかもしれない。それだったら俺たちが保護して守ってやれたらいいなって、そう思うんだ」


 スカーハ婆さんの話では、その血肉には不老不死になれる力があるという噂で狩られてきたという過去がある。


 だから、このままコーラリアでそのままにしておくよりも騎士が守ってやれる範囲に居させてやったほうが人魚にとってもいいだろう。


「だから、少しでも可能性のある所に行きたい。危険だけど、案内してくれないか?なんなら場所だけでもいい。俺だけでもそこに.......」


「「私も行く(行きますわ)」」


 ソウルの言葉にシーナとアルが同時に立ち上がる。そして、2人ともハッとお互いの顔を見合って気まずそうに顔を逸らした。


 そんな2人の様子を見てレイはおかしそうに笑いながら立ち上がる。


「ははっ。それじゃあ、僕も行かない訳には行かないよね」


「で、でも.......僕の見た幻の為に.......みんなを.......」


 そう言ってヴェンはぐっと唇を噛んだ。


 3日も聞き込みを続けて何の成果も得られない。やっぱり昔の記憶は本当に幻だったんじゃないかと、そう感じるようになっていた。


 初日にあった3人もヴェンを見つける度に『嘘つき』とヴェンを蔑んだ。


 結局、何も変わってない。僕はただのホラ吹き野郎でみんなを困らせているだけ……。


「ヴェン、この間も言ったけどさ」


 ソウルは自分を責めるヴェンの肩を叩きながら告げる。



「俺は、お前の言ったこと、ずっと信じてるぞ?」



「っ!!」


「お前が見たのは幻じゃない。仮に人魚じゃなかったとしても、それは今回の人魚騒ぎの張本人だ。だから、何としてもヴェンの言った場所に行きたいんだ」


「僕も同じだよ、ヴェン。だから君の言う場所に行くことは危険を犯す価値がある」


 ソウルとレイはヴェンに力強く告げる。


「任せろ。俺達悪運だけは強いんだぜ?どんな輩が来ようとぶっ潰してやるさ」


「うん。僕はソウルみたいに無鉄砲に行くわけじゃない。ちゃんと準備と作戦を立てていく。だから大丈夫だ」


「レイ!?」


 あまりの言い草にソウルはたまらず悲鳴を上げる。


「.......2人とも」


 ヴェンはそんな2人の言葉にポロポロと涙をこぼす。


 今まで、誰も信じてくれなかった。エリオットでさえも。


 でも、この2人はこんな僕の言ったことをずっと信じてくれている。こんな状況なのに、全く疑いのない目で見てくれる。


 そんな2人の想いに答えなくてどうする?


 自分の過去を証明するためじゃない。今ヴェンはこの2人の想いに答えたい。


 僕のことはいい。2人の力になりたい。こんな僕のことを信じてくれる友人のために僕は戦いたい。


 ヴェンは臆病な自身を奮い立たせる。


「っ!」


 そして決意を固めてまっすぐ2人を見つめ返した。



「行こう!必ず、必ず僕が2人を入江まで連れて行って見せる!だから、僕に任せて!!」



 そうだ、僕は船乗りだ。


 この2人を、僕のかけがえのない友達を、必ず目的の場所まで連れて行く。


「あぁ!」


「行こう!」


 そんなヴェンにソウルとレイも力強く答えた。


ーーーーーーー


「.......」


 エリオットは部屋の前で立ち尽くす。


「.......人魚を、守る」


 エリオットはボソリと呟く。


 どうやらヴェンはソウル達とあの髪飾りを落とした場所へと向かうつもりのようだ。


 かつてヴェンが人魚を見たと話す、あの場所へ。


「.......」


 エリオットは1人、神妙な顔で歩き去った。

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