クリス
「久しぶりですね、ヴェン」
しばらくすると、店の奥から優しそうな眼鏡をかけたぼさっとした頭の男が現れる。
「あ、お久しぶりです」
ヴェンも男につられるようにぺこりと頭を下げた。
「皆様、ようこそおいでくださりました。私、ここのオーナーのクリスと申します」
ここの店主。つまりはエリオットの父親のようだ。うーん、あまり似てないけどな。
「しかし、お客様なんて珍しい。ここ最近、海賊と化け物騒ぎで随分客足も遠のいていたからね」
そう言ってクリスは苦笑いしている。
「やっぱりそうなんですね」
「この町は大丈夫なんですか?」
ソウルはクリスに尋ねた。
「えぇ。海賊たちは領主様が食い止めてくれているし、この町には領主様が結界を張ってくださったそうだからね。化け物は町の中には入って来れないんだ。でも、町の外へ出たらすぐに化け物が出るから決して森に入ってはダメですよ」
クリスはそう言って一行に注意してくれる。
「じゃあ、お部屋に案内しますね」
するとエリオットがクリスの後ろからひょこっと顔を出すとにっこりと微笑みかける。
そんなエリオットにヴェンはまた釘付けになるのだった。
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結局部屋は男部屋と女部屋をそれぞれ1つずつ借りることになった。
「何言ってんだよ。この金で豪快に行こうぜ!」とギドはのたまっていたが、流石にはばかられたので少しでも安くつくようにしたのだ。
「で...でも、化け物なんて...本当に出るんですか?」
ロッソは前を歩くクリスに尋ねる。
「えぇ、出ますよ。私も一度見たことがあります。見た目は蜘蛛と何か別の生き物を足したような奴ですね」
クリスは思い出すように答えた。
「でも、物珍しさに見に行ってはダメですよ?危険ですからね」
「でも、任務だからなぁ」
ソウルは苦笑いする。
「そう言えば、任務と言っていましたが一体?」
「あぁ。人魚を探して保護するのが任務なんだ。そうすりゃ化け物はあれだけど海賊の方は何とかなるだろ?」
「.......人魚」
すると、クリスの表情が一瞬曇る。
「クリスさん?」
「.......いえ、何でもありませんよ。それよりも、ここが皆様のお部屋になります」
そうして一行は少し広めの部屋に通された。
ーーーーーーー
「.......あのおっさん、何か知ってんな」
荷物をまとめているとギドが突然そう切り出す。
「え?」
ヴェンは突然の言葉に目を丸くしている。
「確かに、クリスさんの反応少しおかしかったよね」
レイも考え込むように告げる。
「ま、待ってください!?あのクリスさんが隠し事なんて...それに僕が昔人魚のことを話した時、人魚は気のせいだってクリスさんも.......」
ヴェンの言葉がどんどん尻すぼみになっていく。
「ヴェン...」
ヴェンはエリオットの父親であるクリスとも仲が良かったのだろう。
そんなクリスが人魚について何か知っていたのにヴェンの味方になってくれなかった、などと考えるのはショックなはずだ。
「ま、今んとこはただの勘だ。すぐにどうにかなる話でもねぇしその辺はちょいちょい探っていくことにしようぜ。今日は取り敢えず疲れた!明日から本格的に任務が始まるからゆっくり休もうぜ」
そう言ってギドはベッドに寝転がると、すぐにイビキをかきはじめた。
「.......」
ヴェンは複雑な表情で俯く。
「.......大丈夫だよ。あんま気にすんな」
ソウルは励ますようにヴェンの背中を叩くのだった。




