出発の朝
「さて、と」
ソウルは荷物をまとめて元気に立ち上がる。
今回の任務は恐らく長期戦を覚悟しなければならないだろう。サルヴァンの時よりも大きめの荷物を担ぎあげて扉を開けて外に出た。
「今回は...平和な旅になるといいなぁ.......」
ソウルはまだ薄暗い空を眺めながらボソリと零す。
これまで任務のために何度か馬車に乗ってきたがどれも散々だった気がする。
せめて今回は馬車だけでも平和な旅になることを祈りながらトコトコと歩を進めていく。
「うーん.......」
着替えも財布も、必要そうな物は大抵放り込んだはず。だというのにソウルは何か違和感を感じていた。
「なーんか物足りないような.......」
そう考えてふと薄暗い窓に映る自分の姿を見てみる。
「.......あ」
そこには盗賊のような服に身を包んだソウルが立っている。
「.......やっちまった」
そう一言こぼしたソウルは凄まじい勢いで練金屋へと駆け出した。
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「なんで昨日のうちに来なかったんだ、クソガキ」
スカーハ婆さんは怒りに身を震わせながらソウルを睨む。
「あ、アルとの特訓に夢中なりすぎて.......」
そんな老婆を目の前にしてソウルは正座しながら滝のように冷や汗を流す。
そうだ。スカーハ婆さんからマントを受け取りに来るのを忘れてしまっていたのだ。
なのでソウルは集合直前の朝の7時前に錬金屋を訪ねていた。
当然メルヘン婆さんもとい、スカーハ婆さんの店はそんな早くには開いていないので、半ば無理やりソウルが押し掛けた形となる。
「シナツといい、お前といい.......本当に礼儀ってもんを知らないようだね」
そう文句を漏らす婆さんの背中からは黒いオーラが溢れている。
あぁ、これがソウルの幻なのか、それともオカルト婆さんの本領発揮なのか.......。
「ご、ごめんなさい」
ソウルは素直に頭を下げることしかできない。
本当は昨日のアルとの稽古の後に寄るつもりだったのだが、あまりに白熱してしまいすっかり頭から抜け落ちていた。
そんなソウルのことをなんだかんだで早朝から待っていてくれたメルヘン婆さんには頭が上がらない。
「ふん、素直に謝るあたりはシナツより人間ができてるようだね」
スカーハ婆さんは、はぁとため息を着く。というか、うちの師匠はこの婆さんにいつも何をやってんだろう。
「シナツの馬鹿は面倒ごとは押し付けるわ時間は守らないわ約束は破るわ、あげたらキリがないさね」
「何やってんだよシナツ.......」
ソウルはため息をつく。あの自由人は健在だったようだ。
ちなみに、もう目の前の婆さんが心を読んでくることに一切疑問を持たなくなったソウルがそこにいた。
「全く...今回だけは許してやる。次しでかしたら今までの3倍の金額にぼったくってやるからね」
そう言ってスカーハ婆さんはマントと小さな布袋を取り出す。
「こ、今後は気をつけます」
そんなスカーハ婆さんの慈悲にソウルはまた頭を下げる。
「ほら、マントとこれを持ってきな」
そしてスカーハ婆さんは黒いいつものマントと同時に何やら植物の種のようなものが入った布袋を手渡した。




