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人魚の存在について

「ふん。コーラリアに行くのか」


「そうなんだよ。ばーさんなら人魚について何か知ってるんじゃないかと思ってさ」


 マルコの酒場で飲み明かした次の日、ソウルは練金屋へと足を運んでいた。


 いるかどうかも分からない「人魚」の存在。この得体の知れない老婆なら何か手がかりを持っているかもしれない。


「そうさね...。人魚がいるかいないか問われたら、答えはYESだ」


「人魚っているのか!?」


 ソウルは飛び上がる。


「あぁ。あたしがまだ若かった頃はそこまで珍しいもんでもなかったがね」


 老婆は手元の本を読みながら淡々と告げる。


「そういや、あんた何歳なんだ?」


 婆さんの若い頃.......何年前だろう?


「レディに歳を聞くなんざ無礼な男さね」


「レディって歳でもなかろうに」


「あぁん?」


 老婆はギロリとこちらを睨む。


「...まぁいい。人魚は一昔前に乱獲されてその数を一気に減らし、今では伝説の生き物ってわけさ」


「乱獲された?」


 不穏な老婆の言い方にソウルは少し引っかかる。


「人魚の血肉には不老不死の力が宿るという伝説があるんだよ。それを本気にしたバカどもが人魚を狩り尽くしたんだ。かつては人魚と友好的な関係を築いていたのにね」


「...ひでぇ話だ」


 人魚の凄惨な歴史にソウルは俯いてしまう。


「人間なんて、所詮自分の欲のために動く生き物だからね。他者のため世のために戦える人間なんざそういないよ」


「.......」


 確かにサルヴァンの時もサイルの底なしの欲望があの町1つを地獄に引きずり込んだに等しい。ソウルは人のそんな負の面があることを知ってしまっている。


 人にはそんな悲しい一面があるのも事実なのだろう。


 老婆はソウルの顔色を見てため息をついた。


「まぁ、全員が全員そうだったって訳じゃないさね。あたしが知ってる奴には人魚と良好な関係を築いて添い遂げたって話もある」


「それは...せめてもの救いだな」


 全ての人間が人魚を迫害していたわけではないことにソウルは少し安心した。


「話が逸れたね。コーラリアはその歴史の中でも人魚最後の楽園として名を馳せていた時期があった。だからその生き残りがいてもおかしくは無いだろう。だが乱獲の歴史があるからそうそう人前に姿を現すことはないかもしれないね」


「.......そっか」


 コーラリアに人魚がいる可能性は充分にある。だがそれを見つけられるかどうかは別の話で困難を極めそうだ。


「まぁ、がんばりな。人に見つけられることを拒んできた人魚が再び姿を現した。これは何か大きなことが起こる前兆かもしれん」


「あぁ、がんばるよ。色々情報が聞けて助かった」


 そう言ってソウルは立ち上がり店を出ようとする。


「あんたのマントは任務の前日には仕上がる。その時にはあんたに必要なもんを売りつけてやるからたんと金を持ってきな」


「うげ...分かったよ」


 またこの婆さんにたかられるのかと思いつつソウルは店を後にした。


 人魚は実在する。


 その情報が聞けただけでもソウルの気は楽になった。存在しないものを化け物退治しながら探すなんて、やるせないにも程があったからだ。


「でも、何で人魚がまた現れたんだろう?」


 ソウルは考え込む。


 その血肉を狙って来るかもしれない人間を人魚は警戒するに決まっているだろう。現に人魚が現れたと言う話が広まるとともにコーラリアの海には人魚を狙った海賊がはびこるようになったとブラウンが言っている。


 仮にコーラリアに人魚がいたとしたら、何故そのようなリスクを払ってでも姿を現したのだろうか?


 老婆の言う通りコーラリアで何か大きな事が起きようとしているのかもしれない。


「警戒するに越したことはないよな」


 今回の任務もただの人魚の捜索で終わらないような気がしてならない。


 ソウルは錬金屋の老婆に聞いたことをレイ達にも共有しておこうと思いながらトコトコと帰路につくのだった。

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