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穏やかな日々

「.......あ~」


 ソウルは布団の中から手足を伸ばす。


 サルヴァンから帰ってきて3日が経っていた。


 本来の任務の予定よりも早く帰ってきたことと、今回の戦果が大いに評価され、43班は2週間の休暇を貰っていた。


 サルヴァンでの疲労が蓄積していたこともあり、オリビアとマルコに帰ってきた事を報告してからというものソウルはずっと部屋にこもり、だらけきった生活を送っていた。


 正直、まだまだ疲労が取れる気配がないがこれ以上部屋にこもっていれば体にカビが生えてしまいそうだ。


「.......でかけるかぁ」


 ソウルはのそのそと立ち上がりながら服を着替え簡単な朝食を済ませると町へと繰り出した。


「いい天気だな」


 昼前の明るい日差しがだらけ切ったソウルの体に染み渡る。通りは活気に溢れており賑やかだった。


 これだけ人が多いと誰かとぶつかってしまいそうだ。


 ドン


「おっとと!?」


 言っているそばからソウルは目の前から歩いてくる細身で背の高い男にぶつかる。


「おぉ、悪ぃ悪ぃ」


 灰色のボサボサの髪を揺らしながら男は軽く頭を下げるとそのままどこかと歩き去っていく。


「全く.......」


 流石イーリスト城下町、人が多すぎて歩くのも大変だ。ツァーリンとは違うなぁ。


「気をつけていくか」


 ソウルはそのままトコトコと目的の場所へと歩を進めるのだった。


「.......何だ。誰かと思えばお前さんかね」


 暖簾(のれん)をくぐるとそこには相変わらずのシワだらけの老婆の姿があった。


「そんな言い草ねぇだろ。お得意様がきてやったんだからありがたく思え」


 いつものように何かの薬品の匂いがする店内を見回す。どうやら今日もソウル以外に客はいないようだ。


「ほぅ、ほざくようになったじゃないか黒豆小僧」


「黒豆はお前が前に渡した薬だろーが!」


 俺そこまで身長低くねぇし!


「ったく、ほら!」


 ソウルは虚像薬の袋を取り出す。黒豆のような丸薬は貰った時から少し数を減らしている。


「.......ふん、有効に使ったみたいじゃないか」


 老婆は特に感情に変化なく告げる。


「助かった。これがなかったら厄介なことになってたよ」


 あの時ジャックに見つかってしまっていればソウルが生きて戻れたかも分からないしサルヴァンの戦いも乗り切れたか分からない。


 癪だが...このメルヘン婆さんのおかげだった。


「あたしのありがたみに気づいたんならメルヘン婆さんと呼ぶのは止めな」


「心の中でしか呼んだことねぇよ」


 ソウルはもう心を読まれることになんの疑問も持たなくなっていた。


「それで、今日は何の用だい?」


「あぁ、それが.......」


 ソウルは消し炭になったマントの破片をメルヘン婆さんに見せる。


「盛大にやったもんだね」


 そう言いながらメルヘン婆さんは消し炭になったマントをつまみ上げる。


「スフィンクスに丸焼きにされたんだよ。まるで俺の弱点を知ってるみたいだった」


 ソウルは召喚術士を狙うように立ち回るスフィンクスの事を思い出しながら告げた。


「だろうね。《《魔獣なら召喚術の弱点は熟知してる》》だろうさ」


「な!?」


 ソウルは絶句する。なんで婆さんがおれが召喚魔法を使えることを知っている!?


「長生きしてりゃ、色々わかるようになるもんさね」


「.......ほんと、あんた一体何もんなんだ」


 ソウルはため息を零す。ほんとに恐ろしい婆さんだ。これからはオカルト婆さんと呼ぼうか。


「呼んだら二度とお前にアイテムを売ってやらん」


「ちぃっ」


 いい名前だと思ったのに。


「まぁ、いいさね。また新しいマントは用意してやる。その時にはまたあんたに適当なアイテムを売りつけてやるさね」


「またあんたにたかられるのか.......」


 だがこの婆さんの言うことには従った方がいいような気がする。


 色々と口酸っぱいことを言われながらもソウルは渋々受け入れることにした。


「そんじゃあまた頼むわ。次の任務は2週間ぐらい先だからゆっくりで構わねぇから」


 老婆はそう言って店を出るソウルの背中を見送る。


「成長して帰ってきたか。その心が折れなければいいがね」


 そう呟きながらソウルのマントを作成するために店の奥へと消えていくのだった。

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