間章
そうか、俺は負けたのだな。
ケインは暗く冷たい石の床で1人静かに思考を巡らせる。
友は...とても強くなっていた。力も、そしてその心も。
俺の娘も、あんなに大きくなっていた。きっとお前が守ってくれていたのだな、レグルス。ありがとう。
きっと、俺のこの想いは誰にも伝えることはないだろう。ここで俺は朽ちる。
後はタイミングだけ...それさえ合えばいい。
今このサルヴァンにジャンヌもいる。これならきっと大丈夫だ。
「ふむ、敗北しましたか。ケイン」
その時、1つの冷たい声が響く。虚な目でそちらに目をやるとフードの男が焼き焦げたケインを見下ろしていた。
「.......」
ケインは横たわったまま何も答えない。
「ほっといても死にそうですが、早く事を進めた方が良さそうだ。早速始めましょうかね」
男はケインに手.......いや、触手をかけようとする。
「.......待て、ハスター」
するとケインはフードの男を睨む。
「はい?なんです?」
「まだ.......待て」
「それは断りますね。私の役目はサルヴァン公をお守りすることですので」
そう言ってハスターは肩をすくめて見せる。その姿にケインは苛立ちを隠せない。
「ほざけ。貴様はサイルの奴を守る気などないだろう?」
「.......ほぉ?面白いことを言いますね」
そんなケインにフードの男ハスターは愉快そうに告げる。
「この町を...この国を混沌に陥れて、貴様は何が目的だ!?」
ケインは怒りを爆発させる。もう、ここまで来ては俺を止める鎖などない。もう俺に逃げる術はない。ならばこの10年の怒りを全て.......全てぶつけてやる!
「貴様のせいで、全てが変わってしまった!何がしたい!?お前は何のためにこんな事をやってきたんだ!?答えろぉ!!!」
「そうですね...私の目的は」
ハスターはケインの怒りの声を受けてなお愉快そうに身体を揺らす。
「我らが王の復活...ですかね。そのために色々と手を尽くさなくてはならないんですよ。その為の作業の一環としてたまたまこの町がこうなった。それだけの事ですよ」
「作業の...一環.......だと?」
ケインは歯ぎしりした。
俺の大事なこの町を、愛した妻を、親友を、全てをめちゃくちゃにしたこの惨状を...作業の一環?そんな一言で.......!!
「ふざ.......けるな.......!ふざけるなぁぁぁぁぁあ!!!!」
「10年前のあの日からあなたに拒否権などない。さぁ、最後の役目を果たすがいい」




