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 城への抜け道は細くて暗かった。ソウルは暗くてよく見えないが他の3人は何事もないようにすいすいと先に進んでいく。


「ちょ、何でそんなに速く走れるんだ!?」


 ソウルは前を走る3人に必死にくらいつきながら叫ぶ。


「人間は夜目が聞かないからなぁ」


 ケンが笑いながら告げる。


「もう、そんなんじゃ間に合いませんわよ!」


「わ、分かってる!分かってるけど!!」


 それでも見えない中で全力で走るのは無理だ!


「はぁ、仕方ありませんわね」


 するとアルはため息をついてソウルの手を握る。


「な、何を!?」


「ほら、行きますわよ。これなら迷わないですし私が足元教えてあげますから、構わないでしょう?」


「い、いやでも!?」


 ソウルは慌てふためく。


「.......いや、おれがソウルを担いでいく」


 すると、それを見ていたレグルスがソウルを担ぎあげる。


「す、すまんレグルス。助かった」


 ソウルはほっとしてレグルスに礼を言う。


「.......いいか、ソウル」


 するとレグルスは小声でソウルの耳元で告げる。


「アルに手を出したら、分かってるな?」


「.......」


 あぁ.......そう言えば娘同然って言ってたなぁ.......。


 ソウルはそんなことを考えながらレグルスに運ばれるのだった。


ーーーーーーー


「っ!止まってくださいですわ!」


 すると先頭を走るアルが2人を止める。


「何だ?」


「罠ですわ!」


 アルは目の前の通路を指差す。


「?どこにも何も無いけど?」


 ケンは通路に目をやると首を傾げた。


「いえ、設置型の魔法が仕掛けられていますわ。よく見てください」


 よく見ると確かに微量のマナを感じる。恐らく火属性の設置型魔法だろう。


「どうする?」


「へっ、これなら回避しながら突破できそうだ!」


 そう言ってケンはぴょんぴょんと飛び越えていく。


「待て!ケン!」


 レグルスがケンに叫ぶ。


「大丈夫だって!ほらほら!」


 そんなレグルスを他所にケンは軽快に飛び跳ねて罠を回避していく。



「違う!火属性ということはこの罠を仕掛けたのは恐らくケインだ!獣人のことをよく知る奴が獣人相手にこんなちんけな罠を仕掛けるはずがないだろう!?」



「.......え?」


 ケンが着地した地面がガコンと沈む。その瞬間、通路に仕掛けられた魔法が次々と起動し始めた。


「っ!まずいですわ!?」


 仕掛けられたマナから火柱が上がり、通路が炎に包まれていく。


 どうやら微量なマナは囮で、本命はマナのない物理的なこのトラップを起爆剤に他の魔法を発動させることだったようだ。


「す、すまねぇ!レグルス!」


 炎の向こうからケンの叫び声が聞こえてくる。


「まだ間に合う!突っ切れ!!」


 ソウルはレグルスの頭をバシバシとたたく。


「だ、だが.......」


「アル!これ着ろ!」


 するとソウルは自身のマントをアルに投げる。


「闇属性のマントだ、それがあれば多少の火なら防げる!お前の瞬発力なら行けるだろ!?」


 アルと戦った時の身のこなしは獣人の中でも見事なものだった。そのアルならばまだ通路が完全に塞がれる前に合間をぬって突破できるはずだ。


「.......ふん、言ってくれますわね!」


 アルは手早くマントで身を包むと、火柱の間をぬってぴょんぴょんと軽快に先へと進んでいく。


 あとは体の大きいレグルスだ。流石にレグルスが罠の合間をぬって先に進むのは無理だろう。だったら!


「レグルス!下からの火柱をかわして進めるか!?」


「な、何を言っている!?いくらおれでもこの中を突っ切るのは...」


 しかしレグルスは突っ込むことを躊躇している。


「上からの魔法は任せろ!何とかする!!」


 するとソウルはレグルスに肩車するように体勢を変えて黒剣を抜く。


「し、しかし.......」


「迷うな!今ならまだ間に合う!このままじゃ本当に終わりだぞ!!」


 通路に仕掛けられた魔法は徐々にその勢いを増していく。だが今ならまだつけ入る隙がある。


「.......くっ、うおおおおお!!!」


 少し迷いを見せながらも、やがてレグルスは意を決したように炎の中へと駆け出した。


「っけぇ!」


 それを確認したソウルは魔法を仕掛けてある天井と壁に剣を振る。


 設置型の魔法はその土台を傷つけることで一瞬効果が途切れる。シナツから教えてもらったことだ。


 レグルスの動きを予測しながらソウルは無我夢中で剣を振り炎の放出を止めていく。


「っ!」


 レグルスはソウル意図を理解し、ソウルの動きに合わせながら身をこなし、次々と罠を回避していく。


「がっ!?」


 だが、当然剣を振る腕は炎で焼かれ、剣を握る手が熱でピリピリと痺れる。


 それでもここで剣を振ることを止めればレグルスと共に焼かれて終わり。それに背後はもう既に火の海だ。引き返すことも止まることももうできないだろう。


 できることはただ前を突き進むだけだ!


「っけぇぇえ!!」


「ぐおおおお!!」


 そしてソウルとレグルスは倒れ込むように炎の海を駆け抜けた。


「だ、大丈夫ですの!?」


 そんな2人にアルが慌てて駆け寄ってくる。


「お、俺は大丈夫だ!だがソウルが...」


 レグルスはソウルを下ろしながら告げる。


「っ!気にすんな!早く先に進もう!」


「バカヤロ!?お前その手.......」


 しかし、ソウルの腕は熱で焼かれ、真っ赤で所々黒く変色していた。


「せめてこの薬を塗ってください!」


 アルは腰のカバンから薬を取り出しソウルの腕へと塗ってくれる。


 ジュウ、と薬がソウルの焼け焦げた手を癒していく。


「.......すまん、ソウル。おかげで助かった」


 レグルスが申し訳なさそうに頭を下げてくる。


「気にすんな。ここまでずっと足手まといなんだ。これぐらいさせてくれよ」


 ソウルは痛みに耐えながら笑みを返した。ソウルの仕事はなるべくこの3人を無傷の状態でサイルの元へと送り出すこと。これぐらいの火傷で先に進めるのなら安い物だ。


「2人ともすごかったよ!まるで一心同体だったぜ!!」


 ケンは興奮したように叫ぶ。


「ケンっ、元はと言えばあなたのせいなんですわよ!」


「ごめん.......」


 アルのおしかりにケンのしっぽがしょんぼりとうなだれる。


「き、気をつけて進もうぜ」


 ソウルは苦笑いしながらもケンを励ます。


「うぉぉぉ!!ソウルー!!人間だったとしても、俺はお前が好きだぞおおお!!」


「ちょっ!?バカ、寄せって!」


 ケンはしっぽを振りながらソウルにじゃれついてくる。


「全くもう.......」


「ははは。まぁ、いいじゃないか」


 そんな2人の光景をレグルスとアルはどこか微笑ましそうに見つめるのだった。


ーーーーーーー


「.......来たか」


 ケインは自身が仕掛けた魔法の発動を確認する。


「ケイン様、どうかなさいましたか?」


 すると、側のサルヴァン兵が心配そうに尋ねてきた。


「いや、何でもない。それより戦況は?」


「はっ。それが、今回かなりの数の獣人共が各通りへと侵攻。多数の兵がそちらへと流れている模様です」


「ふむ」


 ケインは考えこむ。これは恐らく陽動だろう。だとすれば本命は抜け道の方か。


「いかがなさいますか?」


「引き続きビーストレイジ共を攻撃しろ。あとの指示は追って出す」


「.......あの、ケイン様」


 すると、神妙な顔をした若い兵士がケインに問いかける。


「何だ?」


「.......この戦いに、本当に意味があるのでしょうか?」


「ば、バカ。よせ!」


 隣の兵士が慌ててそれを止めようとするが、ケインはそれを手で収める。


「昔...俺のじいちゃんから聞いたんです。獣人の奴らに命を救ってもらったことがあるって。それもスフィンクスから庇ってその命と引き換えに.......」


 若い兵は言い淀むが、やがて意を決したように告げる。


「本当に、我々は奴らと戦い続ける未来しかないのでしょうか?本来サルヴァンは獣人達と共に歩んできたと、町の大人達は口を揃えてそう語るんです。それに奴らは好き好んで命を奪う輩もそう多くないんですよ.......本当に、本当に正義は我々にあるのでしょうか?」


「.......そうだな」


「す、すみません!ほら!お前も頭を下げろ馬鹿者!?」


 隣の少し先輩の兵が慌てて若い兵の頭を下げる。だが、その兵士も思うところがあるのか複雑な表情をしているようだ。


「いや...いいさ。気にするな。それはこのサルヴァンで生まれたのならば当然の疑問だ。サルヴァン様にも黙っておく」


「あ、ありがとうございます!」


 2人はまた慌てて頭を下げた。


「.......それに、その答えはもうすぐ出るはずだからな」


「え.......?」


「何でもない。それよりも俺は城内へ緊急の要件ができた。しばしここを任せるぞ」


 ケインはそう言って城内へときびすを返す。


「け、ケイン様!?」


「安心しろ」


 ケインは振り返ることも無く告げる。


「昔の友人に会ってくるだけだ」


 どうだ、サイル、ハスターよ。サルヴァンは獣人と共に生きてきた町。例えお前たちがこの町を歪ませようともその心の奥に秘めたサルヴァンの血はお前たちの支配にも折れはしないのだ。


 この兵達のように今の現状に疑問を抱く兵士達は多いことをケインは知っている。


 それがこの戦況にどう響くのか。


 その結末は神のみぞ知るのだった。

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