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決戦の朝

 ビーストレイジの作戦が決行されるその日。


 シーナはハミエルとのやり取りを思い出しながらサルヴァン公を訪ねていた。



「いいかい?シーナ」


 ハミエルはシーナに段取りを説明する。


「君は、サルヴァン公にビーストレイジ討伐隊に入りたいと伝えるんだ。そうすれば奴は君に奴隷紋を刻むために地下へと連れていくだろう」


「でも、そんな上手くことが運びますかね?サルヴァン公がすぐにシーナに奴隷紋を刻むとはかぎらないんじゃ」


 すかさずレイが横から口を挟む。


「いや、おそらくサルヴァン公はなるべく早くシーナに奴隷紋を刻みたいはずだから必ず何か手を打ってくる」


 しかしハミエルは自信がある様子だ。


「.......なんで?」


 そんなハミエルにシーナは首を傾げた。


「ジャガーノートであるシーナをコントロールできるか分からないからさ。レイ、君は狂犬を飼う時に首輪をつけないと不安を感じないかい?」


「シーナは狂犬じゃありません」


 レイはハミエルを睨む。


「僕らはそれを知っている。だがサルヴァン公はそれを知らないだろう?肝っ玉が小さい奴ならなおさらだ」


「つまり、サルヴァン公が姑息で気弱でクソ野郎って事ですね?」


 レイが表情を崩さずに告げる。.......うん、目が笑っていない。


「ま、まぁ奴を調査したり話を聞いてる限りではね。だからそこについては確信があるよ」


 そんなレイにハミエルは苦笑いしながら答えた。


「でも、シーナが奴隷紋を刻まれたら終わりです」


「だから、僕がついていく。この作戦を提案したのは僕で、そしてシーナはそれに乗ってくれたんだ」


 ハミエルはいつもの存在感のない声ではなく、はっきりとした口調で告げる。


「シーナは僕の命に替えても守る。だから安心してくれ」


「.......分かった」


 シーナは力強く頷いた。


「.......ソウルじゃなくてごめんよ?」


「.......殴っていい?」


 そんなやり取りをしながらシーナはハミエルを睨むのだった。


ーーーーーーー


「失礼します」


 シーナはサルヴァン公のいる王の間の扉を開く。


「.......ほぉ、ジャガーノート様ではないですか?どうされたのです?」


 中では少し驚いた様子のサルヴァン公が玉座からシーナを見下ろす。


 サルヴァン公はシーナのことを名前で呼んだ事がない。シーナのことなどジャガーノートとしてしか認識していないのだろう。


 その事実にシーナは苛立ちを感じた。だが今は任務だ。何とかそれを表に出さないようにしなくては。


「.......聖剣騎士団が、ソウルの事を見捨てました」


「ふむ」


 サルヴァン公は無表情で頷く。


「.......なので、私をサルヴァン公の獣人討伐隊に入れて下さい。私がソウルを助け出します」


 そう言ってシーナはサルヴァン公を見る。睨むような表情になっていないだろうか。


「ふっふっふ」


 するとサルヴァン公はニヤリとシーナを見た。


「やはり、あなた様と彼は特別な関係だったようですね」


「.......まぁ」


 シーナは不本意ながら照れ臭くなり、目を逸らして答える。


「分かりました。それではあなたを歓迎しましょう」


 サルヴァン公はにこやかだがその目の奥には邪な気配を感じた。


「して、この事を聖女様は?」


「言ってません」


 ジャンヌがこのことを知らない体でいてくれと、ハミエルからの指示だった。


 ジャンヌが知っていると言えば奴隷紋を刻むのをためらう可能性があるらしい。


「それでは、あなたを部隊に編入しましょう。ジャンヌ様には私からお伝えしておきますからご安心を」


 そう言ってサルヴァン公は立ち上がった。


「...ありがとうございます」


「部隊へ編入しますので、こちらまで」


 そう言ってサルヴァン公はシーナを案内する。


 サルヴァン公についていくと、玉座の間の裏から地下へ下る石階段があった。


 その階段はまるで地獄へと続いているのではないかと錯覚させるほど暗く寒気を感じさせる。


 シーナは不安にかられつつもサルヴァン公に続いて階段を降りていく。


 しばらく歩き進めていくと、やがて小さな鉄の扉へとたどり着いた。それはかなり古くボロボロで不気味だった。


「ここですね」


 そしてサルヴァン公は扉に手を当てた。


「.......開け、我はお前の主なり」


 サルヴァン公が呪文を唱えると、ガチャリと鍵が開くような音が聞こえ、扉が開く。


「それでは、こちらへ」


 そう言ってサルヴァン公はシーナを中に招く。


「.......」


 この奥では何が起こるか分からない。それでもこの町を救うためにやるしかない。


 シーナは意を決して重い空気の立ち込める扉をくぐるのだった。

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