ジャックとの対話
テントに入ると、黒虎の獣人ジャックが玉座のような椅子に肘を立てながら座っている。
周りには彼の配下と思われる数名の獣人達がこちらを警戒して見つめていた。
「...珍しいなレグルス。お前自らこのテントに来るとはな」
「あぁ。あの時仲違いして以来だな」
「わざわざおれの元までやってきたのだ。余程の事だと思うが...要件を聞かせてもらおうか」
ジャックは鋭い眼光をレグルスに飛ばす。レグルスは空気が張り詰めるのを感じる。
「単刀直入にいう。この町を解放するためにサイルとケインを討つ。力を貸して欲しい」
「この10年何もしてこなかった腑抜けに協力するつもりなどない」
ジャックは即拒否で返答してきた。いきなり雲行きが怪しそうだ。
「だがこの策が成功すれば今のこの状況から脱することが出来る。何もしないまま滅ぶよりはマシだろう!」
しかしレグルスも負けじと言い返す。
「この状況を脱することができる?」
「まさか...そんな方法が.......?」
ジャックの配下の獣人達からざわめきが漏れる。
「この策を成功させるには今しかない、だから頼む!協力してくれ!」
「.......まずはその策とやらを聞かせろ。話はそれからだ」
ジャックはレグルスの腹の内を探るように問いかけてきた。
「まず作戦の第1段階だ。おれと少数精鋭がかつての抜け道を使って城内へ潜入。サイル.......そしてケインを討つ」
レグルスは説明を始める。
「今更サイルを殺したところで何も変わるとは思えん。それに何故イーリスト本国でも最強と名高い聖剣騎士団が駐屯している今その策をとろうというのだ?」
「.......作戦の第2段階だ。おれは敢えて聖剣騎士団...正確には聖女ジャンヌに拘束される」
「何?」
ジャックの顔が険しくなっていく。何やら不穏な雰囲気を感じ取ったようだ。
「.......そして最終段階だ」
レグルスは意を決したように告げる。
「おれが全ての罪を背負って聖女に処刑される」
テントの中が一気にざわめく。
そうだ、レグルスは最初からこの町を変えるために自らの命を差し出すつもりでいた。
「.......貴様、正気か?」
「あぁ、本気だ」
レグルスはジャックを真っ直ぐに見つめる。その目には一点の曇りもない。
「.......お前たちが奴隷売買を止めるために南西通りに火を放った日だ。おれは聖女ジャンヌと接触している。そこで盟約を交わしたんだ」
レグルスはことの経緯を説明する。




