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獣人の里の行末

 食事を済ませると、子どもたちは満腹で満足したのか、うとうとし始めた。


「そろそろ寝るか」


 ソウルはそう言ってヨハンとラルフを抱き抱える。


「この子たちのベッドはこちらですわ」


 するとアルもポーラとメリーを抱き抱えながらソウルを手招きする。そしてそこには2段ベッドが2つ置いてあった。


 ソウルとアルは子どもたちをベッドに寝かしつけて布団をかけると、起こさないようにそっと離れる。


「.......少し、外でお話しませんか?」


 すると、アルがソウルに小声で提案してきた。


「あぁ」


 ソウルもアルと改めて話をしてみたかったのでそれに応じることにした。


 そして2人はテントを出ると外に置いてある椅子に腰掛けた。


「子どもの相手、手馴れておりますのね」


 アルは暖かい飲み物を渡しながら告げる。


「サンキュ。まぁ、昔孤児院で年下の面倒見てたからな」


 ソウルはアルから飲み物を受け取り、思い出すように答えた。


「孤児院...あなた家族は?」


「親はいねぇな。捨て子だ」


「も、申し訳ありませんわ、つい.......」


 アルの耳がしょんぼりとうなだれる。


「気にすんな。育ての親はいるしおれを鍛えてくれた師匠もいる。だから孤独を感じたことは無いよ」


 最初からいないものよりも、その大切さを知って失う方が苦しみは大きいはずだ。


 それに、親がいなくても俺には大切に思える人が、家族同然の存在がいてくれた。


「.......きっと、お前たちの方が辛いはずだ」


 ソウルは俯く。


「あの子たちだけではありませんわ。他にもたくさんの子どもたちが親を亡くして路頭に迷っておりますの。どの子たちも本当に辛いと思いますわ」


 ソウルの言葉にアルは悲しそうな顔をする。


「.......そうか」


 ソウルは顔をしかめた。アル、俺が言ってるのにはお前も入ってるんだぞ。


「こんな戦いを続けていてはあの子たちも戦いの中で生きていく未来しかない。そんなこと私には耐えられませんわ」


 アルは歯を食いしばる。


「もう、戦いの中で生きるのは私達だけで充分です」


「アル.......」


 ソウルは胸が痛くなる。どうして、自分も苦しいはずなのにそんな風に考えてあげられるんだ。


「.......終わらせよう。こんな戦い。俺も力を貸すから」


「.......人間なんて、信じられませんわ。だって肝心な所で裏切るサイテーな生き物ですもの」


 アルはソウルを睨む。


「信じてくれなくていい。俺は勝手にやってるからさ。だからもし危なくなった時は切り捨ててくれて構わねぇよ」


 人間に.......それも実の親に全てを奪われたアルに信じてくれなんて安っぽい言葉はかけられなかった。


「.......変な人間ですわね」


 アルはそう言いながらコップに口をつける。


「ところで、レグルスの言ってた方法はほんとにこの戦いを終わらせることができるのか?」


 ソウルはアルにずっと気になっていたことを尋ねた。


「そうですわね。戦いを終わらせることはできると思いますわ。でもいくつか問題もありますの」


 アルは遠くを見つめながら告げる。


「問題?」


「まず、この作戦でやらなければならないことはサイルの討伐ですわ。でもサイルを討つためにはサルヴァンの防衛網を突破しなくてなりません」


「確かに、それだけで至難の業だよな.......」


 ソウルは頭を抱える。しかもその防衛網には聖剣騎士団も含まれるのだ。難しいなんてものでは無いだろう。


「そして...最終的には.......」


 アルは険しい表情をする。


「最終的には?」


「.......」


 アルは何も答えない。何だよ、何があるんだ?


「これ以上は、私の口からは言えませんわ。王の意思に背くことになります」


「.......分かった」


 じゃあ明日作戦会議の時にレグルスに聞いてみよう。


 その時だった。遠くでドォンと何かが爆発するような音が聞こえる。


「な、なんだ?」


「あれはきっと大丈夫ですわ」


「だ、大丈夫って.......敵襲かもしれないんだぞ?」


「それは無いですわ。あれはきっと王が決断したということなのだと思います。だから敵襲などではありません」


「そ、そっか」


 一体レグルスが何を決断したんだろう?


「もう遅いですし、私達ももう寝ましょう」


 そしてアルは立ち上がって伸びをする。ソウルはアルの豊かな胸が強調されるのが気まずく慌てて目を背けた。


「あなたはベットをお使いになって。私はソファで寝ます」


「何言ってんだ。俺は世話になってる身だぞ?お前がベッドを使え」


 色々お世話になってる身だ。そんな図々しいことできるか。


「あなたは怪我人でしょう?怪我人は大人しくベッドをお使いなさいな」


 しかしアルは頑なに譲らない。


「はっ、女の子をソファで寝かすぐらいなら俺は床で寝た方がマシだね!」


 そしてソウルもアルに食ってかかる。


「私こそ、怪我人にソファを使わせるなら外で寝た方がマシですわ!」


 この!頑固な奴め!!


「「うぅー」」


 またお互いに火花を散らす。


「いいですわ!じゃあこうしましょうか!!」

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