アルの笑顔
「はぁっはぁっ、よ、よく逃げずにここにおりましたわね.......!」
息も絶え絶えになったアルは4人の子どもたちを抱えながら帰ってきた。
「にーちゃんがアルねーちゃんのダンナ......いてっ!?」
豹と思われる獣人の男の子がソウルに尋ねようとするとアルがゲンコツを放った。
「あ、アル姉ちゃんが怖いよぉー」
すると猫の獣人の少女が泣き始める。
「あなた達が余計なことを言うからでしょう!?」
「だ、だってぇ!!」
狼の男の子は涙目になり、アルに抱えられているヤギの女の子も怯えたように震えているようだ。
「ったく、そんなんじゃダメだろ」
ソウルは苦笑いしながら猫の女の子と狼の男の子を抱き抱える。
「悪ぃな、アルが怖がらせちまって!俺はソウル!ちょーっとこの里で厄介になることになった旅の獣人だ!」
そしてソウルは笑顔で2人に呼びかけた。
「旅してるの?」
猫の獣人は興味津々に尋ねてくる。
「あぁ、こっからずーっと東の方からやって来たんだ!」
「ま、町の外には、怪物とかいるのか?」
まだ見ぬ外の世界の話に狼の男の子は目を輝かせている。
「そうだな...ある洞窟の奥深くで.......」
ソウルは可能な限り頬を膨らませ、眉間にシワを寄せて答えた。
「こーんな!ゴリラみたいな巨人になら出会ったことがあるぞ!!」
「きゃはははは!」
「何それ!?変な顔ー!!」
獣人の子どもたちはキャッキャと嬉しそうに笑う。おぉ、あのスルトの顔もこんな形で役に立つとは。
「いや、こーんな顔だったかな?」
今度は顎を引きながら白目を向いてみる。
「.......ぷっ」
すると、アルが目を逸らし小刻みに震え始めた。.......もしかして、いけるか?
「こーんな顔」
さらに目を見開いて変顔を作ってみる。
「「「きゃははははは!!!」」」
子どもたちはさらに嬉しそうに笑う。
「.......ぷっ、クスス.......」
一方、アルは必死に目を逸らすがソウルも逃がすつもりは無い。
「こうだ」
そしてアルの逃げる先に顔を披露した。
「ぷっ、ふふっ、あははははは!」
そしてアルはついに堪えきれずに笑い始めた。
「ははっ、俺の勝ちだぜ!アル!」
そんなアルの姿を見てソウルはさらに調子に乗り、次々と変顔を披露していく。
「も、もうおやめになって!?お腹.......お腹が痛いですわ!?」
アルは笑いすぎて涙がこぼれていた。よし、やってやったぜ!
「.......アル姉ちゃんが笑った」
すると、ヤギの少女が驚いたような声をあげる。
「アル姉ちゃんがあんなふうに笑うなんて、初めて見た...」
豹の少年も驚いた顔をしていた。
「え、いや...」
アルは反応に困ったように目を丸くしている。
「.......なぁなぁ、ソウル兄ちゃん」
今度は狼の少年がソウルの服を引っ張る。
「このままほんとにアル姉ちゃんと結婚しちゃいなよ」
「え?」
「こ、こらラルフ!私とそいつはそんな関係じゃ...」
「でも、あんなに楽しそうに笑うアル姉ちゃん初めて見たよ?」
豹の少年が横から告げた。
「ヨハンまで!?」
そんなアルは顔を真っ赤にして慌てている。
「ねぇ、お願い。アル姉ちゃんのこと、幸せにしてあげて?」
猫の女の子もそう言ってソウルを見上げていた。
「そうだなぁー」
ソウルはニヤリとする。
「案外悪くないかも...」
「サイテーですわ!!」
「ぐへぇ!?」
アルの鉄拳がソウルの顔面に叩き込まれた。




