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サルヴァンの過去9【戦いの果て】

「何やら、城内が騒がしくないですか?」


 ジャックはハルに告げる。


「そうですわね」


 ハルは嫌な予感を感じ取り、城内に耳をすませた。


 聞こえてくるのは魔法の破裂音、武器をぶつけ合う音に怒号と悲鳴。


「戦闘の音が聞こえますわ!」


 ハルの驚異的な聴力は城内の戦闘の音を聞き逃さなかった。


「な!?まさか!?」


 ジャックは最悪の事態を想像する。


「突入しますわ」


「しょ、正気ですか!?ここで戦ってはもう我々に残された道は...」


 ジャックは躊躇いを見せた。ここで戦闘を起こしてしまえば、もう後には戻れない。


 このサルヴァンとの決裂は決定的なものとなるだろう。


「ここでビーストレイジを率いる長を失えば私達は本当に終わりですわ!必ず助け出さないといけません!!」


 それでも、ここでレオとレグルス、そしてカールを失う訳にはいかなかった。


 彼女の覚悟を表すようにハルの両手にナイフが顕現する。


「.......決断の時ですわ」


「っ!!」


 それを見たジャックも2本の刃を抜き、護衛の獣人達もそれぞれ武器を構える。


 もう、獣人達に退路は残されていなかった。



「ここで、必ず長たちを救出します!」



 ハル達は守衛をなぎ倒すと一斉にサルヴァン城内へと突入した。


ーーーーーーー


 城内はまさに混沌と化していた。迫りくる人の波に飲まれそうになりながらもレグルスは目の前の敵をその拳でなぎ倒していく。


「キリがない!」


 カールも2本のナイフを巧みに操りながら敵をさばいていく。しかし敵の数は一向に減る気配を見せない。


「最初から俺達を城の中へ押し込んで圧殺するつもりたったんだろう!」


 レグルスは力の限り暴れながら叫ぶ。


「これではサイルを追う所の話ではない!我々がもたない!」


 カールはマナを溜める。


「【地桜】に【短剣】と【連撃】のマナ!【桜吹雪】!!」


 カールの頭上に大量のナイフが生まれる。そしてカールが両の手を前方に振るとナイフはまるで意志を持ったように敵へと降り注いだ。


「ぐぁぁぁぁぁあ!!!」


 サルヴァン兵達から悲鳴が上がる。


「もう、私達は悪人としてしか生きることができないだろう。だが、我々の心とこの町を弄ぶサイルだけは生かしてはおけん!!必ず奴を討ち取らなくては!!」


 カールはマナの放出を続ける。


「行け!レグルス!!次のビーストレイジの長として、お前が奴を討て!」


「カール、何を!?」


「もう、お前は王としての器を備えている!だから、お前に全てを託す!!この戦いを、終わらせるんだ!!」


「し、しかし.......」


 レグルスは迷う。本当にそれでいいのか?まだ他にいい方法があるのではないか?それが本当に最善の策なのか?


 まるで道標のない砂漠に放り出されるような感覚。


「迷うな!その迷いが一族全てを滅ぼすこともある!覚悟を決めろ!!」


 カールはレグルスに叫ぶ。


「っ!」


 カールの声にレグルスは覚悟を決めた。そして脇目も降らずに敵のど真ん中を突っ走る。



「行けぇ!お前はこの命に替えても私が守る!!」



「このっ、行かせはしな.......ぐわぁ!」


 カールの声と周りの兵たちの悲鳴を背中で受けながらレグルスはサイルの居る王の間へと駆け抜けた。


ーーーーーーー


「ぬぅん!!」


「ぐぅぅぅ!!」


 レオは防御の上からケインを吹き飛ばす。そのままケインは壁にたたきつけられて苦しそうに悶えている。


「ここまでだ。残念だったよケイン」


 レオはとどめを刺そうと拳を振る。


 その時だった。


「いけませんね」


「!?」


 突然レオとケインの間に黒い影が落ちたかと思うと、その中からローブを被った男がぬるりと現れる。


 得体の知れない存在にレオは動揺する。だが、こいつも敵だろう。こいつごと撃ち抜かんとレオは炎拳を振る。


 ドシィィッ!


「なん....だと?」


 レオの渾身の一撃が片手で止められた。


 いや、片手というのが正しいのだろうか。ローブの長袖の中から覗くのは腕ではなくタコのような触手だった。


 それはレオの腕を逃がさないようにがっしりと腕に巻きついてくる。


「ぐっ!?」


 レオは脱出をはかるが圧倒的な力で捕らえられた腕はビクとも動かない。


「ケイン、あなたはサルヴァン様の元へ。もうすぐあなたの親友がサルヴァン様を討ち取らんとするでしょう。引導を渡してあげなさい」


 男はぬるりとした鳥肌がたつような声で告げる。


「はっ!」


 ケインはすぐさま立ち上がると王の間の方へと走り出した。


「くっ!待て!」


「あなたは人の心配をしている場合ですか?」


 目の前の男は告げる。フードの奥は真っ暗でどのような顔をしているか分からない。それがまた目の前の男の不気味さを増大させている。


「だったらまずは貴様からだ!【メテオブレイク】!」


 【炎星】と【拳】のマナ。レオは炎に包まれた拳を放つ。


「いけませんね」


 その瞬間、男の目がフードの奥でギラりと光った気がした。



 ドシュッ!



 一瞬のうちに男の触手がレオの体を貫く。



「が...はっ.......」


 レオはあまりの速さに一瞬何をされたのか理解できなかった。ただただその身を襲う激痛のあまり呼吸すらできない。


「残念ながら、あなたは生かしておくわけにはいかない」


 男は冷酷に告げる。


「ぐ、が.......」


 触手が体内で動き回り内側からレオの体を破壊していく。


「さようなら、半獣の王よ」


 ズボォと音を立ててレオの体から血塗れの触手が引き抜かれると、レオはそのまま地面に倒れ込んだ。


「あ...あぁ.......」


 レオは朦朧とする意識の中、レグルス達の向かった方へと手を伸ばす。


 すまない、息子よ.......我はお前に何も残してやれなかった.......何も教えてやれないままに、お前に全てを託してしまうことになる.......。


「おや、しぶといですね」


 背後からローブの男が近づいてる気配を感じる。


 だが、それに構っている暇はない。せめて...せめて何かを.......!レオは最後のマナを込める。



「死ね」



 ドスリという音を最後にレオの意識は闇の中へと消えていった。


ーーーーーーー


 カールはレグルスの道を切り開くためにナイフを放ち続ける。


「誰にもレグルスの邪魔はさせん!」


 兎の獣人は耳がいい。レグルスが先に進む音をしっかりと耳で捉えている。


 そして、後方にいるはずのレオの声が途絶えていることにも気がついていた。



「頼む!レグルス!!レオの...レオの想いを、無駄にしないでくれぇぇ!!」


 カールは願うように叫んだ。


 やがてマナの放出は止まる。ほぼ全てのマナを撃ち出した。もう残っているのは手元の2本のナイフだけだ。


「ふぅ」


 カールは1つため息をつく。


 レグルスの道を塞ぐ兵はあらかた片付けた。後はレグルスがなんとかするだろう。何せ新しいビーストレイジの長なのだから。


「.......その活躍をこの目で見れないことが残念だよ」


 カールはそう言って来た道を振り返る。そこには数多くのサルヴァン兵達がこちらへと迫ってきていた。


「さぁ、お前たち」


 カールはニヤリと笑いながらナイフを構える。



「我らが新たな王に捧げる舞踊に付き合ってもらおうか!!!」



 カールは押し寄せる兵の波の中へ飛び込んだ。


ーーーーーーー


「はぁっはぁっ!」


 レグルスは残る敵兵をなぎ払いながら王の間の扉を叩き潰した。


 ガラァァン!


 激しい音を立てて扉は吹き飛ぶ。


「くそ!?まさかここまでたどり着いただと!?」


 サイルはうろたえている。サイルを守る兵は10人ほど。そいつらは一斉にレグルスを取り囲む。


「貴様らごときにこの我は止められん!!」


 怒りのままに突き進むレグルスはまるで猛獣だった。


「黙れぇ!」


 10人の兵たちは各々魔法を放つ。炎の斬撃、岩の槍、雷の球.......だがレグルスは怯まない。


「【炎星】に【拳】のマナ!【メテオブレイク】!!」


 炎を纏う拳が全ての魔法をたたき落としていく。


「な、何!?」


「ば、バケモノめ!!」


 周りの兵士たちのうろたえる声が聞こえる。


「【炎星】に【球】と【連撃】のマナ!【ガトリング・メテオ】!!」


 レグルスの拳に炎が宿る。そしてレグルスが連続で拳を振ると次々に炎の球体がサルヴァン兵に襲いかかった。


「ぐがぁぁぁあ!!」


 サイルを守る肉壁が次々と地に伏していく。


「後は、貴様だけだサイル!」


 サルヴァン兵をなぎ倒しながらレグルスはサイルの方へと進む。もう疲労とマナ不足でレグルスの足はふらふらだった。


 だがここで倒れるわけにはいかない。レグルスをここへ送り出すために父とカールが命をかけてくれたのだ。


 必ずここでこのクズを倒す!


「ひっ、ひいぃ!!誰か!誰か私を守れぇぇぇ!!」


 サイルは腰を抜かせながら後ずさる。


「終わりだぁ!!」


 レグルスは拳を振りおろした。しかしそんなレグルスの横から赤い何かが飛び出してくる。


 ギィン!


「貴様か.......ケイン.......!!」


 レグルスはギリギリと歯ぎしりをする。ここにきて、ここまできて。お前が邪魔をするのか!!


「サルヴァン様は私が守る」


 ケインはレグルスを睨みながら告げる。


「もう、貴様を友とは思わん!打ち倒すべき、敵だ!!」


 レグルスは連打を放つ。しかしその拳にいつものキレはなく次々とケインに弾かれていく。


「無駄だ!お前はもう限界だろう!?ここで諦めてひけ!!」


 ケインはレグルスの攻撃をさばき、剣を振る。レグルスは辛うじて躱すが、次の一撃を避ける自信はない。


「だが...俺は.......ここで倒れる訳には.......!」


 しかし、それでもレグルスは構えを崩さない。


「ば、バケモノめ.......」


 サイルは玉座に身を隠しながら悲鳴を上げる。


「貴様にその玉座は荷が重すぎる!その玉座はかつての偉大な王、ジェイン様が座っていた偉大な物だ!貴様ごとき小悪党が触れていいものでは無い!恥を知れ!!」


「こ、この獣ごときが.......!ケイン!こいつに早くトドメをさせ!」


「.......承知しました」


 ケインは剣を構える。レグルスも重い拳を構えケインを睨んだ。



「もう、もうやめてくださいですわ!!!」



 そこに1つの声が響いた。振り返ると、玉座の間の入り口に見慣れた兎の耳をした獣人が息を切らせながらこちらを見ている。


「は、ハル?」


 レグルスは幼なじみの突然の出現に言葉を失う。


「.......抜け道を使ったんだな?ハル」


「えぇ、そうですわ。もう、やめにしましょう?私たちが争うなんて、間違ってますわ!いつも、いつも楽しく過ごしてきたじゃないですの!」


 ハルはケインの前に立ちはだかる。


「あなたの娘、アルはあなたの顔も知らないのですわ!どうか、どうかここでこの戦いを終わらせましょう!!そしてアルを抱きしめてあげてください!!」


 それはハルの心からの祈りだった。


「.......そうだ、俺にも娘がいるんだったな」


 ハルの呼びかけにケインの顔がうつむく。


「.......ケイン、もうここまでにしよう。サイルを倒せば全てが終わる。奴さえ倒せば我々もこの町への攻撃を止める。だから...」


 レグルスも拳を下ろす。



 そうだ。父も言っていたではないか。怒りのままに敵を殺すのは獣だと。我々は見た目は獣でも中身は人なのだ。人であるならば人としてのやり方がある。


 相手を滅ぼすのではない。お互いに相手を許し、共に手を取り合って生きる道はまだ.......。



「.......そうだな」


「ケイン...」



 ザンッ



「.......え?」


 ハルの力のない声が響き、赤い血飛沫が宙を舞った。



「だが、俺はもう戻れないんだ!!!!」

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