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船の上の訓練1

 ドルミナ港出港から3日経った。


 片道1週間の船旅だが、決して無駄にはできない。大きな船の甲板で各々訓練を行っていた。


 レイとヴェン、そしてシーナとライは各々の武器を手に試合を行っている。


 現在試合しているのはヴェンとライ。片手剣と戦斧の形をした木の武器をぶつけ合い、激しい斬り合いを繰り広げている。


「おらぁぁあ!ふっとべやぁあ!!」


「う、うわぁ!?」


 ライがヴェンの一瞬の隙をつき、ヴェンの身体に戦斧を叩きつけると、ヴェンの身体は軽々と吹っ飛び船から放り出されそうになる。


 それを見たエリオットは咄嗟に魔法を発動させた。


「【ウェーブ・ウォール】!」


 すると、水の塊が現れヴェンの身体を受け止めた。


「ブクブク……」


「ヴェン!大丈夫!?【アクア・キュア】」


 水の塊から引っ張り出されるヴェンはぐったりとエリオットに身体を預けて甲板に崩れ落ち、彼女の回復魔法でその傷を癒す。


「はぁ、やっぱりまだまだてめぇは甘いな。ちゃんと武器の扱いを習ったこともねぇんだろ?」


「ちょっと!ライさん!!いくら訓練とは言えもうちょっと加減して下さいよ!」


「うるせぇな。加減したらてめぇの修行にならねえだろうが」


 これはシェリー考案の特訓。


 船の甲板の上での試合。勝敗は船の外に放り出した方が勝ちで、エリオットは放り出された人を先程のように捕まえて船に引っ張り戻す役目。


 エリオットは直接殴り合いなどを行う訳じゃなく、言わばヴェンの戦闘の力のサポートだ。戦闘の流れに合わせて船から放り出される仲間を助け臨機応変に魔法を扱う訓練。


 それに加え傷ついた仲間を癒し、マナの力を強化する意図もあるらしい。こうすれば例えボコボコにされても何度でも立ち上がって訓練ができるという寸法である。


「確かにお前のセンスは光るもんがある。だが基礎が足りねぇ。いざと言う時にそれが足を引っ張る可能性がある」


 ライは魔法学校出身。魔法学校には騎士になる為の授業も多数ある。座学に疎いライはその魔法の強さと戦闘力で魔法学校を卒業したらしい。


 つまり、1番正規の訓練を受けてきたのはライ。だからヴェンにそう言った戦闘の型を教えるのに適しているとシェリーは踏んでいる。


 だが、彼の戦闘を見てきたソウルとしては騎士の格式ばった戦い方とは無縁のようにも見える。


「おら、身体に基礎を叩き込んでやる。1週間しかないんだ、やるしかねぇだろうが」


「むぐぐぐ……!」


「いいよ、エリオット。大丈夫」


 不服を申し立てるエリオットをヴェンが制する。


「僕はまだまだ強くならなきゃ。守りたい友達も、エリオットも守れない。アマデウスさんに託された聖剣の使い手に見合う男にならなきゃいけないから」


「ヴェン……」


 複雑な気持ちを抱えながらも、エリオットはヴェンの覚悟を受け止める。


「もう1本……よろしく」


「いい覚悟だ」


 ヴェンの立ち上がる姿を見てライはニヤリと凶悪な笑みを浮かべる。多分、ヴェンの覚悟を認めて笑ってるつもりなのだろうが人相が悪さをしている。


 側から見たら悪人そのものである。


 そんな2人の修行を眺めながら、ソウルは甲板の端の方で坐禅を組み自身のマナに意識を向けていた。


 ソウルが取り組む訓練。それはやはりシェリーに課せられた【無双】のデバイス・マナこと【二重召喚】の習得である。


 考え方は、【武装召喚】に近い。召喚魔法は各召喚獣につきマナの出入口は1つずつあるという。


 故に召喚魔法を用いながら武装召喚を扱うには、召喚している属性とは別のマナの出入口からマナを引き出す。それが今度は別の召喚魔法に変えるだけという話。


 理論上はそれだけ。だが……。


「……く」


 バチンッ!


 ソウルの雷のマナが弾け、ソウルの体に痛みとしてフィードバックが返ってくる。


「ソウル、大丈夫?」


 それを傍で見ていたシーナがソウルに声をかけてくる。


「あぁ、ありがと。でもまた失敗だ」


 シーナの声を聞いてソウルはガシガシと頭をかきながらため息をついた。


「上手くいってないね」


「そうなんだよ。武装召喚の時とはまた訳が違うな」


 武装召喚と二重召喚の決定的な違い。それは扱うマナの大きさだ。


「2つの召喚魔法を使うとマナがデカすぎる。どうしても抑え切れる気がしねぇ」


 召喚獣の力の一部を顕現させる武装召喚に対し、二重召喚はその召喚獣の力全てを引き出す。


 言わば2つの手綱を……それも強力な暴れ馬を同時に扱うようなもの。制御が効かない。ソウルのマナの扱いのキャパを超え、マナが爆発しそうになるのだ。


 恐らくゼリルダがバハムートを召喚する時に二重召喚を解除する理由はそこだ。


 同じ召喚獣でも強大すぎるバハムートを扱いながら他の召喚獣を展開するのはゼリルダのキャパを超えるのだろう。だから多分シェリーも彼女最強の召喚獣ケリュネイアを二重召喚することはできないんじゃないだろうか。


 …………いや、シェリーならそれすらも可能にしてしまうか?


「そうなんだ。じゃあ相変わらずシェリーは凄いんだね」


「有り得ないだろ……一度見ただけで二重召喚を習得して武装召喚こなしながら戦うなんて」


 二重召喚を展開しながら武装召喚を扱うと言うことは、同時に3つの魔法を扱うのと同じだ。2つの魔法でパンクしそうなソウルとしては想像することすらできはしない。


 こんなとんでもない技をすぐにマスターしたシェリーには本当に恐れ入る。生まれ持った才能の差を見せつけられるようだ。


 シェリーの地獄の特訓を経て、ようやく召喚獣と武装召喚を用いた戦いを身につけたソウルとしては、再び新たな高い壁を突きつけられたような気になってしまう。


「でも……」


 だからといって、諦める選択肢などソウルにはない。


 この力を身につければ、より多くの人を守れる騎士になれるはず。


「絶対に習得してみせる。絶対に諦めないからな」


 そんなソウルの決意を聞いてシーナは優しく微笑む。


「ソウルならできるよ。大丈夫」


 シーナの励ましがソウルに力を与えてくれる気がする。さぁ、もう1回……いや、何回だってやり直してやる!


 そう意気込んで再び目をつぶろうとした時、ふとソウルの傍に気配を感じた。

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