間章
2人きりの部屋の中で、ソウルとシーナは顔を見合わせる。
「ご、ごめんね?聖剣の話につき合わせちゃって」
「い、いいよ。シーナの頼みだし」
少し緊張しながら言葉を交わす。
今回の聖剣談義はシーナからソウルに誘いがあったのだ。もちろん、シーナの頼みだし2つ返事で了承したがはたして役に立っただろうか。
「俺聖剣のことなんてよく分かってないし大した力にもならなかったと思うけど……」
それこそ、レイの方が頭もいいし適任だった気もする。
「それでも私はソウルにいて欲しかったの。それに、ソウルのおかげで答えが出たし」
「それは……まぁ、光栄なんだけども」
実際、シーナがソウルを必要としてくれたことは素直に嬉しかった。
「それに、ソウルが安心するかなって思って」
「安心?」
「聖剣のためで、エリオットさんがいたとしてもやな気持ちするかなって」
「…………………………」
なんか、最近シーナが俺の心を全て見透かしてくるんだが。
「いらないお節介だった?」
「いるお節介でした」
「ならよかった」
そう言ってシーナは微笑む。
シーナの笑顔を見ながらソウルは2つの意味で顔が熱くなる。なんか、このままいけば俺尻に敷かれそう。
おかしいなぁ。最初は俺がシーナを何とかしてやらないとって思ってたのに。いつの間にやら立場は逆転してしまったようだ。
「恋人なんだし、不安なことがあったら言ってね?」
「うん。シーナも」
そう言って2人の視線が交差する。
「「……………………」」
2人きりで、密室の船内。聞こえてくるのは大海原を進むパドルシップの音だけ。
どちらからか、2人の距離が近づく。シーナの顔が熱を帯びているのが薄暗い船室の中でも分かる。
手と手が触れ合い、やがて硬く指を絡めた。
シーナのルビーの様な瞳から目が離せなくなる。2人だけの世界。気づけば波の音も気にならない程に自身の心臓が高鳴っていた。
2人きりで、誰の目もない密室。どちらかともなく身を寄せあって、2人の顔と顔が近づいていく。
「…………っ」
シーナがそっと瞳を閉じる。長くて綺麗なまつ毛だと思いながらソウルもそっと目を閉じた。
そして2人の距離が無くなり、唇と唇が触れそうになった、まさにその時。
ガタンッ
部屋の外から何か物が倒れる様な音がした。
「「…………っ!!」」
2人ともハッと我に返る。
弾かれた様に手を離し、お互いに壁の方へ向かって飛び退いた。
「わ、わわわわ悪い!?」
「う、ううううううん!?大丈夫!大丈夫だから!?」
お互いに真っ赤な顔で誰に向けたかも分からない言い訳を叫ぶ。
先程とは別の理由で心臓が飛び跳ねそうになる。
誰か……誰かいた!?
と言うことは……さっきの、キスしようとしてるところを誰かに見られたと言うこと……?
恥ずかしさで一気に顔が熱くなるソウル。
「あ、あぁぁぁ……」
同じことに気がついたんだろう、顔を真っ赤にしたシーナはふるふると震えながら顔を抑えている。
そして……。
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?!?!?」
彼女の心のキャパを超えたのか、暗い船内を凄まじい勢いで走り去っていく。
「ちょっ、待って!?シーナ!?」
そんなシーナの背中をソウルは慌てて追いかけていった。
2人が去った後。1人通路の影に隠れているピンクの癖っ毛の女性。アリアは壁に身を任せ、そのままずり落ちる様に地面に尻餅をついた。
決して覗き見しようとしたわけじゃなかった。たまたま通りがかって見えてしまった。
ドキドキと心臓がまだ胸を打つのが分かる。間違いない。あれはきっとキスをしようとしていたんだ。
どうしてソウルさんとシーナさんが?
そんな問いの答えなんて明解だった。2人の関係が特別なものになったという、紛れもない証拠だった。
「…………」
とても、いいことだ。
ソウルさんが、誰かと結ばれて幸せになるのだと。
そのはずなのに。
アリアの心に苦い何かが広がっていくのが分かる。
頭では分かっているのに、湧き上がってくる嫌な感情が収まらない。
「…………っ」
バシバシと己の頬を叩きつけながら思考を切り替える。
ソウルさんは、素敵な人。そんな彼が好きな女性と結ばれた。祝福しなければならない。
そう、己に言い聞かせた。