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【解放】のマナ

 パメラに別れを告げ、ソウル達が乗り込んだ船はドルミナ港を出発した。


 流石はパメラのお墨付き。船は全く揺れることなく快適そのものでコーラリアへ行った時とは考えられない程に快適だった。


 船自体の大きさもかなりのものでソウル達それぞれに小さいながらも一部屋が与えてもらえることになるほど。エリオットさんはヴェンの部屋に転がり込んでいるらしいが。


 フェラルドまではこの船で約1週間ほどの距離らしい。


 当然時間を無駄にはしていられない。


 限られた時間の中で、ソウル達は皆自分達の課題も真っ向からぶつかっていた。


「うーん」


「どう?何か感じる?」


 ヴェンの部屋で向かい合って座るのはシーナとヴェン。そしてその傍にはソウルとエリオットがいた。


 向き合うシーナの右手には蒼い朧月の様な炎を纏ったシーナの聖剣【朧村正】が握られている。それをじっと見ながらヴェンは難しい顔をした。


「見ても分かんないなぁ。確かにこれまで見てきた朧村正と違ってなにか明確な存在みたいなのは感じるけど、それと同じものが自分の中にあるとは思えない」


 シーナが覚醒させた聖剣の新たなデバイス・マナ。【解放】。


 ヴェンはこの【解放】のマナを会得する事が急務だと考えている。だが、こうしてその力を前にしても何もとっかかりになるものも見つからないでいた。


「確か、聖剣の中にその秘美呼っていう人がいたんだよね?」


「うん。よく分かんないけど自分のこと朧村正だって言ってた」


 聖剣の中に秘美呼と言う存在が眠っていた。そして彼女は己を朧村正といった。


「じゃあ、僕の聖剣の中にもその秘美呼さんみたいな誰かが隠れているってことなのかな?」


 つまり、解放の鍵を握るのは秘美呼。あるいはそれと同じ存在ということになる。その存在が7つの聖剣全てを司るものなのか、あるいは朧村正のみに宿るものなのか。


「多分朧村正には秘美呼がいたんだと思う。自分のこと最強の炎術士って言ってたから」


 朧村正は火の聖剣。だから炎術士である秘美呼が宿っていたのだろう。


 ならばきっと水聖剣には秘美呼とは別の誰かの意識が眠っていると見た方がいいとシーナは予測する。


「確かに、僕が聖剣を手にした時に聞いた声は男の声だったよ」


 威厳に満ちたような、堂々とした男の声。秘美呼が女性なのだとしたら多分アンサラーの中にはいない。あの男の声の主に違いないだろう。


「きっと、聖剣の中に眠るその人を呼び起こすことができるかどうか。それができればシーナの習得した【解放】の力を使えるようになるんだろうね」


 シーナの話とヴェンの経験を踏まえ、つまり聖剣の覚醒とは聖剣の中に眠る政権の意思を目覚めさせるということ。


 朧村正には秘美呼という女性が。そしてヴェンの持つアンサラーにもまた、別の誰かが宿っている。そう考えるべきだろう。


 ならば、次に確かめるべきことはその方法である。


「シーナはどうやって目覚めさせたの?」


「うーん……明確に秘美呼に認められたのはダゴン達と戦ってた時だけど、秘美呼と話ができるようになったのはもっと前だった」


 秘美呼の問いに答え、己の戦う意味と覚悟を決めたあの瞬間にシーナは【解放】のマナを伝授された。


 けれど、初めて秘美呼と言葉を交わしたのは迷いの石窟。夢の中に秘美呼が現れ、シーナを試すようなことを言った。


 確かその時に「妾の扉を開いた」とも呟いていた。


「何がきっかけで秘美呼が目覚めたのか……私もよく分かってない。せめていつ秘美呼が目覚めたかさえ分かれば少しはヒントになるんだけど」


 秘美呼の言う「扉を開く」ことができれば、ヴェンも【解放】の力を使うことができるようになる足がかりになる。


 だが、シーナ自身いつ扉を開いたのか自覚がない以上これ以上伝えられることはないように思えた。


「あ……もしかしたらあの時か?」


 シーナとヴェンの会話をそばで聞いていたソウルにはふと思い当たる節があった。


「ほら、シーナがイーリストでシェリーと戦ってた時!あの時シーナの炎、【解放】使ってる時みたいに青い光になってたぞ」


「え……?」


 ソウルの言葉にシーナは目を丸くした。


「まさか、気がついてなかったのか?」


「うん……あの時はもう必死だったから」


 シェリーとの死闘。ジャンヌがシェリーの刃の前に崩れ、全てが終わったと思ったあの時。あのままシェリーを自由にさせればジャンヌ達が……そしてソウルが死ぬ。


「もしかして……それなのかも?」


 己の身を捨ててでもシェリーを食い止める覚悟を持って戦いに臨んでいた。それこそ、他の何も捨てるほどに強力な意志を持って。


 ソウルの意見を聞いて、シーナはすごく腑に落ちた。


「だとしたら……コーラリアにいた時にアマデウスさん言ってたかもしれない」


 シーナの意見にエリオットも頷く。


「奥さんのアリルさんを助ける時……全てをかける覚悟で戦った。後にも先にもあの時が聖剣の力を1番引き出せていたって」


「聖剣の力は、意志の力に左右されるんだっけ」


 ジャンヌや秘美呼も言っていた。想いの強さが聖剣の力の起源となる。


 シェリーとの戦いの時。あのままでは大好きなソウルと聖剣騎士団のみんな。それにアルとレイだって殺されていたかもしれない。


 だから、自分の身を犠牲にしても大切な人を守るのだと命を捨てる覚悟で戦った。


 それこそ、己の炎の色にも気が付かないほどに無我夢中だった。


「じゃあ……聖剣の力を解放させるためには、命を捨てるほどの覚悟をして戦うってことかな?」


「その可能性は十分にありそうだな」


 全てをかけるほどの意志を持って聖剣を使う。そうすれば解放習得に一歩近づくということだろうか。


「大変そうだなぁ……アンサラー、癖が強いって話だし」


「あはは。でもヴェンならきっと大丈夫!私がついてるから」


「そうだね。エリオットがいてくれるなら僕はなんだってできるから」


 話がひと段落した所でヴェンとエリオットは立ち上がる。


 足がかりは得た。後はヴェンにそれに足る実力と意志があるか。つまりはヴェンの努力次第ということだ。


「よーし。それじゃあ、その時のためにも少し気合い入れて訓練してくるよ。ソウルも来るでしょ?」


「おぅ。すぐ準備するよ」


 そう言ってヴェンとエリオットは2人で腕を組みながら部屋を出ていった。

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