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間章【獣と龍の戦い1】

 ソウル達がフェラルドへ旅立つ2日前。


 オアシスから少し離れたとある荒野で、ゼリルダとアベル、そしてシェリーとエヴァ、ソウルが集まっていた。


 巨大なオアシスの守り神ことリュカに連れられたここは近くに人気もなく、どこかの盗賊崩れが覇王の三神器の慣らし運転に使用した寂れた土地。


 かと言って、一定通行の道にはなっていたので後でこっぴどくエヴァに絞り上げられたなんてこともあったりする。


 そんな荒野でゼリルダとシェリーは向かい合っていた。


「ゼリルダ。この際はっきり言わせてもらおう」


「む……?」


 シェリーの言葉にゼリルダは首を傾げる。


「あなたは弱いです」


「ふざけたことをぬかすなぁぁあ!!」


 短直に伝えられた一言に、ゼリルダは顔を真っ赤にして怒りの咆哮をあげる。


 あまりの声量にソウルとエヴァは耳を塞ぎ、アベルはため息をついた。


「ふむ。やはりそう来ると思ってはいました」


 一方噴火するゼリルダを見て、シェリーは淡々と告げる。


「私は黒龍の女王ゼリルダだぞ!?どこが弱いと言うのだ!?」


「召喚術士としての話です」


「何を言うか!私のバハムートを見ただろう!?まさに最強にして最強!お前の召喚獣とは比べものにならんほどに強いはずだ!!」


「おい、あいつ最強って2回言ったぞ」


 どれだけ自信家なんだ。


「えぇ。あなたの召喚獣は強いです。あなた自身の力も並外れた物があるのも分かります」


 だが、そんなゼリルダの意見をシェリーは否定しなかった。


「ならばなぜ私が弱いと言うのだ!?」


「あなたの召喚魔法の使い方です」


「何?私の召喚魔法の使い方だと!?どこに問題があると言うのだ!?」


「そして、それに自覚がないのが1番の問題です。まずは自覚なさい」


「私に弱いところなどなーい!!」


 シェリーの指摘にソウルは苦笑いする。


 だが、ゼリルダと一度戦ったソウルとしてはシェリーの指摘はよく分かる。


 召喚術士の戦いで重要になるのはいかに切り札である召喚獣の召喚を温存し、有効に活用するか。


 ゼリルダの戦い方ははっきり言ってそれとは程遠いものである。次から次へと召喚獣を切り替えて、気がつけばすぐに全ての召喚獣を出し尽くしていた、なんて事もあり得そうだ。


 だが、残念なことにゼリルダにその自覚はないし彼女自身人の話を聞かない傾向にある。


 現にシェリーの指摘を前にしてもゼリルダは聞く耳を持たずに叫ぶだけ。


 そんな彼女にそれをどう伝えられるのか。その手段は恐らく1つ。



「ならば……私と一度戦ってみますか?」



「ほぅ……」


 シェリーの提案にゼリルダは不敵な笑みを浮かべる。


 ゼリルダが興味を持てるもの。それは戦い。つまりは実戦である。


「いいのか?私を散々馬鹿にして……怪我ではすまんぞ?」


「えぇ。貴方は言葉より経験で学ぶタイプでしょう。ですから……」


 シェリーの武器。神切りを抜いてシェリーは言う。



「全力でかかって来なさい。あなたが弱くないと言うのなら……召喚獣の力は確実に貴方に武があるのだから、勝てるはずでしょう?」



「上等だ……!アベル!」


 シェリーの挑発にゼリルダは完全に乗る。


 ゼリルダはアベルから折りたたまれた巨大な黒い槍アブソリュートを受け取り、構えをとった。


「ソウル、エヴァ」


 そんなゼリルダを見て、シェリーは言う。


「貴方達は、これからの戦いで見せる【二重召喚】をよく見ておきなさい。習得できれば確実に強力な武器になる技です」


 どうやら、この場はシェリーがゼリルダに対して己の弱点を突きつける試合の場。


 同時にソウルとエヴァがここに呼ばれたのは召喚魔法の新たな境地。2体の召喚獣の同時召喚を可能にする【二重召喚】の実演なのだということ。


 シェリーの言葉にソウルとエヴァは頷く。


 召喚獣の同時召喚ができるようになれば戦闘の幅が広がる。これからの戦いのためにも確実に身につけておきたい。


 それに……。


「不謹慎かもしれませんが」


 エヴァがソウルに向けてこっそり耳打ちする。


「あの2人が戦って……どっちが強いのか。興味あります」


「…………実は、俺も」


 不謹慎ながら気になってしまう。


 召喚獣の強さは、正直ゼリルダの方が強い。でも、シェリーは最強の召喚術士。そんな2人がぶつかればどっちが強いのか。


「ならば見せてやろう!私の力を!!かかってこい、ハーフエルフ!!」


「えぇ。あなたの力を見せてもらいましょうか」


 最高のスペシャルマッチ。シェリー対ゼリルダの幕が今切って落とされた。

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