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夜の語らい

 話し合いを終え、夕食を取った後。ソウルは1人部屋を後にしていた。


 他の仲間達はバハムートにやられたせいもあって早々に寝床についているようだった。


 ソウルはというと、色々なことがあったせいで少し1人で気持ちを整理したかった。


 宿屋の扉を開くと暗い夜空に寂しげな光を放つ星が目に染みる。そんな夜空を見上げつつソウルは1つ大きく息を吐く。


「フェラルドか」


 一体、どんな国なんだろう。そしてそれぞれの国の王……そしてそれを取りまとめる全能者と呼ばれる奴がどんな奴なのか。


 考えれば考える程に流石のソウルも不安に駆られる。シンセレスの夜の闇の中、独りになったように感じた。


「ソウル」


「うぉっ!?」


 そんなソウルを呼び止める声があった。そちらに振り返ると、そこに立っていたのはシーナだった。


「ど、どうした?」


 不安を気取られないように取り繕いながらソウルはシーナに問いかける。


「ソウル、無理してそうだなーって思って。様子見に来た」


 シーナの指摘にソウルはドキリとする。


「べ、別に!こんなもん全然余裕だ!」


 シーナの手前、弱い心を見せるのもはばかられたのでそんな強がりをしてみる。


「ソウル。強がらなくていいよ」


 だが、ソウルの子どもじみた強がりは一瞬でシーナに看破されてしまう。


「その……こ、恋人でしょ?だから私の前では素直に思ったこと話してほしい」


 頬を赤く染めながらそんな事を言うシーナを見て、ソウルの強がる心は脆く一瞬で崩れ落ちた。


「…………辛いです。不安です。うまくできるか分からないです」


「よくできました」


 ガックリと肩を落とすソウルの頭をシーナは優しく撫でてくれた。


「ごめん。情けない恋人で」


「ううん。むしろ頑張りすぎだなーって思ってみてた」


 そんなことを言い合いながら、ソウルとシーナは一緒に夜の街へと歩き出す。


 ヴルガルドにいた時はもっと凍えるような寒さだったが、シンセレスの夜は少し冷えた空気が心地よい。


 火照りそうな顔も相まって丁度いい気がする。


「エヴァも無茶言うよな……名前も顔も分からない奴を見つけて同盟結べってさ。ゼリルダの時とは訳が違うよ」


 ガシガシと頭をかきながらソウルは弱音をこぼす。そんなソウルの弱音をシーナは頷きながら聞いてくれる。


「ゼリルダの時も、色んな偶然が重なって奇跡だったように思うけどね」


「確かに。迷いの石窟でフィンと出会ってなかったら今頃シンセレスは終わってたな」


「シンセレスどころか、私達だってファーロールとダゴンに負けてたよ」


 ヴルガルドの戦いを振り返って思う。誰が欠けても勝てなかったし、数々の選択肢を1つでも間違えていたら今こうしてソウル達はシンセレスにいなかったかも知れない。


 そんな危ない橋をようやく渡り終えて……次はフェラルドである。


「息つく暇もない……でも、俺がやらなきゃならない事だから。頭では分かってんだけど、やっぱり怖いし不安だ」


 奇跡に奇跡を重ねたヴルガルドとの同盟。あの時のように上手くいく保証なんてどこにもないのだ。


「それでも辛い戦いも逃げずに立ち向かうところ、すごいなって思う」


「そんなことない。だって、いつもみんなが助けてくれるからさ」


 シーナはソウルがすごいと誉めてくれるけれど、実際はそんな立派なものじゃない。


 これまでのソウルの戦いは、いつだってみんなに助けられてばかり。1人で何かを成し遂げたことなんてせいぜいイーリストの騎士試験でエドワードに勝利した時ぐらいなものだ。


 ソウルはずっと誰かに助けてもらってきた。今こうしている間も折れそうな心をシーナに支えてもらっている。正直自分が情けなく思えてくる。


「ソウルの1番すごいところはそう思えることだよ」


 そんな自分を卑下するソウルにシーナは告げる。


「ソウルは、いつだって誰かの為に戦える強い人。私とか、エヴァとか……これまで出会ってきたたくさんの人がいろんな想いを受け止めてソウルはそれに応えてきたんだよ」


 シーナの言葉にソウルは思わず目を丸くする。


「だからみんなソウルなら何とかしてくれるって思うし、そんなソウルのために力を貸したいって思うんだよ。それはきっとソウルの1番の武器だと思う」


「そう……なのか?」


「それがソウルの優しさで、強さで。私としては、少し心配な所」


「心配?」


「私としては、一緒に背負わせて欲しいな」


 シーナの綺麗な瞳がソウルのことを映す。


「みんなの期待に潰れそうな時は、私がソウルの支えになる。それこそ、私なんかじゃ大した力になれないかもだけど、私になら何を言ってもいいよ。どんなソウルでも私は大好きでずっとそばにいるから」


「シーナ……」


 シーナの言葉にソウルの胸の鉛が軽くなっていくのが分かる。これまでは、ずっとみんなのためにとただひたすらに走り続けてきた。


 そんなソウルのすぐ隣に、今は全てを預けられる誰よりも大切な人がいる。


「……俺、幸せ者だなぁ」


 夜の星の瞬きが目に染みる。


 自分の弱さを預けられる人が……曝け出せる人がそばにいてくれると、こうも心強いのかと思い知らされた。


 不安で不安で、仕方のなかったソウルの弱い心が吐き出され、新たな気力が湧き上がってくる。


「ありがとう、シーナ。シーナがいてくれるならきっと何とかやれる気がしてきた」


「うん。ソウルなら大丈夫。それにフェラルドで何があっても私がソウルを守るからね」


「……無茶はすんなよ?」


 ギラギラと闘争心を隠さないシーナを見て一応釘を刺しておく。


「……支え、か」


 そして、同時にふと思う。


 イーリストにいるジャンヌ。突如ソウルの身柄を求めたシンセレスへと攻め込んできたとエヴァは言う。


 今の彼女は独り、孤独を溜め込んではいないだろうか。


 かつてのイーリストでの光景。聖剣騎士団副団長だったジェイガン様の死の現場が頭をよぎる。


 心の支えだったジェイガン様を失ったジャンヌは今何を思っているのだろう。


 もし、ソウルにとって全てを預けられる存在……シーナを失ったとしたら、正常な判断ができるか。己を抑えて正しい行いを遂行できるだろうか。


「そういえば……」


 ふと、あの時のジャンヌの行動を思い返す。


 ジェイガン様が殉職し、ジャンヌとマリアンヌさんが衝突することがあった。


 ハミエルさんに転移させられてジャンヌの部屋へ運ばれた時。ソウルは彼女に抱きしめられて布団の中へと引き込まれた。


 今思えば……どうしてジャンヌはあんなことをしたのか。


「…………………………」

 


 ふと、分不相応なことがソウルの頭をよぎったような気がした。

 


「ソウル?」


「あ、あぁ!悪い悪い。ちょっと考え事してた」


 ガシガシと頭をかきながらソウルは思考を切り替える。


 そうだな、せっかく2人でこうして出てきたのだ。このまま散歩だけで終わるのは味気ない。


 貴重な2人でゆっくり過ごせる時間なのだ。ちょっとぐらい夜更かししてもいいだろう。こ、恋人だし。


「それよりさ、せっかくだからどっか軽く食べにいかねぇか?」


「ほんと?私も行きたい」


「よーし、んじゃ何にしよっか?」


「ちょっとした飲み屋さんとかどう?」


「お、それじゃあこっちにいい店があった気がする。行こうぜ」


 ソウルの提案にシーナは嬉しそうな笑顔で着いてきてくれる。そんな笑顔を見ながら、何故か少しソウルの胸がチクリと痛んだ。


「…………まさか、な」


 ソウルの呟きは、夜の闇の中に溶けるようにして消えていった。

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