新たな戦い1
ディアナの塔の最上階。
悠然と皆を見下ろすディアナの像の下で、快活な笑い声が響き渡っていた。
「あっはっはっ!すまんすまん!ちょっと加減を間違えてな!!止まりきれなかった!!」
「…………………………………………ストライクとか言ってませんでした?」
腕を組んで、全く悪びれた様子を見せない黒い長髪の少女。赤く鋭い眼光が今は緩み切ってエヴァの事を見つめていた。
「ようやく……ようやく修理が終わったところだったのに……」
エヴァの傍にはズーン……と項垂れるパメラ。
シンセレスの最後の砦、ディアナの塔。そんじょそこらの砦や城とは比較にならぬほどの強度を誇り、そこに備えられた対魔人兵器もまた一新され、あのクトゥグアの襲撃からようやく立ち直りを見せたばかり。
ディアナの塔は倒れこそしなかったがバハムートが突っ込んだ事でその中腹に大きな穴が空くことになってしまった。
「すまんエヴァ……止められなかった」
そして、そんな2人を申し訳なさそうに見上げるのは黒い髪をした琥珀色の瞳の青年。その黒い剣には清浄な水の光が宿っている。
どうやら彼の水の召喚獣の回復魔法で酔いを回復しているらしい。
「全く、これぐらいでへばるとは情けないぞソウル!他の者も、修行が足らん!」
「お前がめちゃくちゃな態勢で俺達を引っ張り回したからだうがぁ!!」
「あはは。流石の僕でも少しまだ目眩がしますよ……ゼリルダ様」
唯一立ち上がるのは金髪に青い目をした海風のように爽やかな青年。水の聖剣の使い手、ヴェンだった。
「私とソウルは背中に乗せてもらえたからまだマシだったけど……」
そう言いつつ座り込んで顔色が悪いのは銀髪に赤い目をした少女。火聖剣の使い手シーナ。
どうやらソウルとシーナ以外の皆はバハムートの風の魔法で空中を転がされながらバハムートの全速力でこのオアシスまで飛んできたらしい。
その道中、「見ろ見ろ!こんなこともできるのだぞ!!」と言いながらアクロバット飛行も披露したとかしてないとか。
そのせいで彼ら以外の他の者は皆医務室へと運ばれてえらいことになっているらしい。
「はぁ……で?あなたがまさか本当に?」
「あぁ!私は黒龍の女王ヴルガルディア・フォン・ゼリルダだ!よろしく頼む!!」
「そして、我はゼリルダ様の付き人……アベルと申します。以後お見知り置きを」
「あたしはポピーだよー。シンセレス国への道案内役っすー」
そう言ってゼリルダを始めとする、今回シンセレスへと同行したヴルガルドの陣営が挨拶をする。
「…………はぁ、まさかゼリルダがこのような少女だったとは……」
「え?エヴァ達はゼリルダに会ったことあるんじゃなかったのか?」
確か、エヴァ達はゼリルダのことを多少知っているようなことを話していた気がするが。
「む、そうだったか?私には身に覚えがないぞ?」
当のゼリルダ本人も見に覚えがない反応を示している。
「えぇ……えぇ……あなたはそうでしょうねぇ!!私達は忘れもしませんよ……!交渉のためにヴルガルドの砦へと向かっていたら……!」
「あの黒くておっきなドラゴンが砦から顔を出して『近づくものは全て敵だぁぁぁあ』とか言われてブレスで殺されかけたの……」
「な、何だってぇ!?一体誰がそんな非道なことを……」
「貴方でしょう!?あの時は死ぬかと思ったのですからね!?」
どうやらゼリルダが女王に着任した直後、エヴァはゼリルダとコンタクトを取ろうとヴルガルド国に向かったが砦に着く前にゼリルダに追い返されたらしい。
「ほんと……命からがら逃げ帰ったの……。どれだけ話を聞くように説得しても『うるさい!私は黒龍の女王ゼリルダだぞー!!』って聞かなかったの……」
「ゼリルダ様……」
「し、知らん!私は悪くない!!」
アベルがゼリルダに抗議の視線を送るとゼリルダは目を逸らしながらバツが悪そうにしている。
「……で?そんな人の話を聞かない貴方が、一体どうしてこの度同盟に応じる気になったのです?」
「……それは、俺から話すよ」
こうしてソウルは改めてヴルガルド国で起こったヴルガルド革命について話をした。
ーーーーーーー
話を終えたエヴァの顔は驚きを隠せないようだった。
「ハスター……それにファーロール。もはや国のそんな所にまで10の邪神の手が及んでいようとは……」
「でもでも!そのファーロールとダゴンを倒したのは大きすぎる戦果なの!!」
パメラの言葉を聞いてソウルとゼリルダが俯く。
「……パメラ」
「ご、ごめんなさいなの……」
話を聞く限り、ファーロールを討つためにゼリルダの兄フィンは命を落とした。そしてダゴンは立場上敵に回ったが、ソウルに勝ちを譲ったのだという。
兄を失ったゼリルダと、勝たされたソウルとしては例え勝利したとしても複雑な気持ちになるのは仕方がないだろう。
「確かにダゴンは憎みきれない奴だった。でもだからってあの時はお互いに戦うしかなかったから……」
「うん。手加減なんてしたら私達が殺されてた」
ダゴンは確かに敵か味方か分からなかった。だが、全力でぶつからなければソウルとシーナが死んでいた。
一体ダゴンにどんな想いと過去があったのかは分からないが、かと言ってあの時はあれ以上のことはできなかったと思う。
「うむ。兄者も自ら望んでその道を選んだのだ。それに今はソウルの召喚獣なのだから、きっと満足しているはずだ」
「…………なるほど」
そんなゼリルダを見てエヴァは何となく理解した。
ソウルがまた、彼女の……いや、きっと彼女の兄であるフィンの心を変えた。そしてそれがあのヴルガルド国をも変えてみせたのだろう。
彼がこの国に……この私に変化をもたらしたように。
最初は正直無謀な賭けだとも思ったが、どうやらその賭けに勝ったらしい。
「ヴルガルド国のことはわかりました。それでは次は……」
「……っ!そうだよ!一体俺たちがいない間に何があったんだ!?」
ソウル達側の事態はあらかた伝えた。次はエヴァ達の状況である。
「えぇ。とにかく順をおって説明しましょうか」




