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ゼリルダの演説1

 晴れ渡るシュタールの空。


 雲ひとつない爽快な青に染まった空を見るようにシュタールの人々はシュタールの城を見上げていた。


 レイオスによってシュタールは大きな被害を被った。重税で多くの民から金をむしり取り、非人道的な政策で人々の心を傷つけてきた。


 そして、ついに先日レイオスの支配が終わり、ヴルガルド革命はなされた。政権は本来あるべき場所に還り、新たなヴルガルド国が始まる。


 そんなシュタールで今日この日。女王であるゼリルダから国民に向けて声明が出されることになっていた。


「ようやくか」


 城を見上げる民からそんな声が溢れる。


「正直、ゼリルダ様に国を治めることなんてできんのかね」


 街の人々から聞こえるのは懐疑の声。これまで女王という立場にはいたが、その実権を握っていたのはレイオスだった。


 ゼリルダは言わば操り人形。国のことなんて何も分かってはいない、ただの子どもだ。


「悪い人じゃないんだろうけどねぇ」


 活発で明るい、優しい人だということはみんな分かっている。城を飛び出て民と平等に関わるその姿は彼女がここに来てからずっと見てきた。


 だが、女王としての実権を取り戻すということ、これまでとは立場が変わる。


 この街の……そして、この国の運命はゼリルダの手に委ねられるということになる。人柄だけでは乗り越えられない。


 それ程の手腕が果たしてゼリルダにあるのか。


 言わば、この声明はその最初の一歩。ゼリルダが民に受け入れられるのかを問われる最初の審判と言うわけだ。


「けっ。何がゼリルダだ」


「あいつがしっかりしてねぇからこの国はここまでめちゃくちゃになったんだろうが。それをゼリルダ様ゼリルダ様ってよ」


「おい!お前ゼリルダになんてことを」


「うるせぇ!お前らだってどっかで思ってることだろうが!」


 当然、ゼリルダの事をよく思わない者もいる。だがそれを別として国民の心には1つの影があった。


 ゼリルダがしっかりしていれば、この国はここまで堕ちなかったのではないかと。


 言い方は悪いかもしれないが、レイオスを自由に放ったらかしにしたのはゼリルダ。そんな彼女が今更?なんて思う。


 国民の心の闇をゼリルダは払拭して見せれるのか。この声明にはこの国の未来を左右するほど重要なものになるのだ。


 そんな荒れる街の人々を眺める1つの大きな影がある。


「いっひっひ。随分とまぁ面白いことになっていやすね」


「…………」


 シュタールの一際大きな建物。そのバルコニーに足を組んで座る大柄の男。その傍らにはローブを被った小柄な男の姿がある。


「カイザー様が王位を得るまさに絶好の好機。レイオスによる政権が崩れ、あのゼリルダ様が王位を継ぐのを果たして国民は許すでしょうかねぇ」


「……ふん」


 赤い髪を揺らす2mを超えるようなアイザックにも劣らない男の名はカイザーと言った。


 その身体の至る所には赤い宝石のような鱗が太陽の光を反射している。赤い鱗を持つ竜人。

 

「アルファディウスの威光の影にずっと隠れていましたが……それも今日で終わり。裏闘技場を取り仕切るカイザー様ならその手腕、包むことなく発揮できるでしょう」


 下僕であるアンガスはそう言ってカイザーを見上げる。


「無論……つまらん小娘が王を継ぐというのなら、俺はあの小娘をくびり殺してこの国の王になろう。だが……あの娘はあのアルファディウスの娘だと聞く」


 自身の赤い鱗を擦りながらカイザーは言う。


「真に王たる器を持って生まれたのはフィンケルシュタイン。あの小娘に果たしてそれほどの器量があるかどうか……」


 かつての友。アルファディウスが一度だけ連れてきた小さな子龍。カイザーは彼の瞳には幼いながらも無限の可能性を感じた。


 真の王は彼だと思わせる物がフィンにはあった。


 だが、彼は死んだ。あの取るに足らない妹を守り、死んだ。カイザーは許せなかった。


 カイザーはこのシュタールの裏闘技場を支配するシュタールの影の王。長くこの街を見守り、アルファディウスと共にこの街を守ってきた。


 そんな彼にはぜリルダを見極める義務がある。


 下らぬ者ならこのカイザーが貴様を消し、このヴルガルド国を支配する。その心づもりをしている。


 さぁ、見せてみろ。黒龍の女王ゼリルダよ。


 フィンケルシュタインが命を賭して守ったお前がこの国の未来に何を見せてくれるのか。


 審判の時。


 ゼリルダが王として立つことができるのか。その運命の時が刻一刻と迫っていた。


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