間章
夜。デートを終えたシーナが部屋に戻ってきた。
「おかえり!どうだった!?」
「う、うん。その……無事に、ソウルと恋人に……なりました」
顔を真っ赤にしながら報告するシーナを見てエリオットは目を輝かせる。
「うわー!!おめでとうー!!」
「うるさいわね……何時だと思ってんのよ」
そんなエリオットにブスッとした顔でオデットは言う。
「そうだよねぇー。オデットちゃんとしては複雑だよねー。大好きなお兄ちゃんに彼女ができたらそんな気持ちになるよねー」
「は、はぁ!?そんなんないから!?ソウル兄に恋人ができても関係ないし!?」
「きゃー!もう、2人とも可愛いなぁ」
「あ、あはは……」
そんな2人に圧倒されながらシーナは部屋に入る。
というか、エリオットのはしゃぎ具合が半端じゃない。
「あーん!もう、分かる!私には分かるよシーナ!ちゃんと恋する乙女の顔になって帰ってきてる!!」
「え?そ、そんなのあるの?」
「あるよー!もう目が違うよね!優しい目になって……可愛いオーラがぷんぷんする!あー……初々しいなぁ!おめでとう!!」
「う、うーん……」
チラリと部屋の入り口にかかっている鏡に目を向ける。そこには少し頬を赤く染めた自分の顔が映っている。
いつもの自分と違うのだろうか?
何てことを思いながら、ふと視線が自身の口に止まる。
「………………っ」
あぁ……そっか。
改めてシーナは思う。
ソウルと……チューしたんだ。
これまでのふわふわしたような状況とはもう完全に違う。恋人として、本当に2人の関係が変わったのだと言うことがじわじわと実感としてシーナの心を支配していく。
「…………え、やだ。もしかして、キスして帰ってきた?」
「……っ」
「はぁ!?え、嘘!?ほんと!?」
エリオットが妙に鋭すぎる。そしてそれを聞いたオデットがさっきまでは何の興味もなさそうに振る舞っていたくせに急に食いついてくるではないか。
「ちょちょちょ……!?ソウル兄がチュー……!?え、嘘ほんと!?えええええ!?」
「な、何でオデットが動揺してるの!?」
「だだだって!私はソウル兄の妹だから!ソウル兄の……お目付役というか!!」
「えええええ!?」
「最初はオデットちゃんも『チューしてきたら』なんて言ってたのにー」
「あ、あれは!!あんたらが余りに見てられないから……!でもいざそんなこと言われたら……ええ!私はどうしたらいいのよー!!」
「ふ、普段通りで……」
「うるさいですわね」
そんな風にギャーギャー言い合っていると、女子部屋の扉が開かれる。
そこには兎耳を揺らした獣人、アルが立っていた。
3人の時が固まる。
当然、アルがソウルのことを好きだということは3人にも周知の事実で……。
「あ…アル」
「おめでとうございますわ。外まであなた達の声はダダ漏れでしたから」
「「「う……」」」
そう言えばアルは兎の獣人。聴力は人のそれを遥かに凌駕する訳で……。
無神経だったか……と3人は反省する。
そんな3人の反応を分かっていたようにアルはため息をつくと、そのままシーナの肩を捕まえる。
「だーかーらー!私のことは気にせずって言いましたわよね!?だから、聞かせてもらいますわよ!?」
「え……ええ!?」
「ほら!今日は飲み明かしますわよ!ほら!早く早く!!」
「え、あちょっ!?待ちなさいよー!!」
肩を捕まえてくるアルの顔を見てシーナは思う。
今のアルの顔に暗い影は無い。本気で私の事を祝ってくれようとしている。
だったら、変に同情する方が……失礼だと思った。
「え……えと!あの!さっき……」
「えぇ!?詳しく!詳しくですわ!」
「わ、私も混ぜなさいよ!」
そしてシーナ、アル、オデットの3人でソファへと直行するのだった。
ーーーーーーー
「……………………」
そんなアルの顔を見て、ふとエリオットは思う。
強がっているようにも見えない。本当に心からシーナの事を祝ってあげているようだ。
そして何より……。
「…………うーん、気のせい……かな?」
ふと、心によぎった小さな疑念をしまってエリオットも走り出す。
「私もよ!!さぁ今晩は語り明かすわよー!!」
「明日ゼリルダの演説があるんだから程々にしなさいよー!!」
「あ…あぁぁぁぁ〜……」
こうして女子部屋の夜は更けていくのだった。




