6年越しの答えを3
ソウルが元の世界に戻った後、レグルスはどうしたものかとガストを見下ろしていた。
「あ…あー……大丈夫…か……?」
「……大丈夫」
ぐしぐしと目をこすりながらガストは立ち上がる。
「ちゃんと、ソウルは応えてくれた。もう大丈夫。これからは家族として、ソウルのことを支えていくから」
そう言って笑うガストはどこか痛々しいが、同時に晴々したように見えた。
「そ、そうか」
「全く……うちのバカ弟子はこんな良い女残して……贅沢な奴だよ」
「そーだナ。まさかあの召喚獣の中身がこんなかわい子ちゃんとは思わなかっタ」
「やめて。それに、正直ソウルはシーナちゃんを選ぶと思ってたから」
「そうなのか?」
ガストの言葉を聞いてレグルスは少し驚いたように言う。
「だって、あんなに可愛い子他にいないもん。ずっと健気にソウルのことだけ考えてくれるなんて、好きになるに決まってるじゃない」
ずっと、ソウルのことを考えてソウルのために全てをかけられるほどにシーナはソウルのことを大切に思っている。
あんなに可愛い女の子があれだけ一途に追いかけてきてくれたら好きになるに決まっている。
「ツァーリン孤児院で過ごしてきた子はきっとみんなシーナのこと気にいると思うな。私もシーナちゃんのこと好きだし」
ガストはシーナのことを不器用だけれど、まっすぐで素直なとても良い子だと思う。多分、オデットも同じなんじゃないだろうか。
「それにソウルはね……ずっと突っ走っちゃうの。私達が、追いかけても追いかけても追いつけない。気がついた時にはもう先を走ってる。私達がどれだけ追いかけても追いつけない、そんな人」
「ただ無鉄砲なだけなんだよ、あいつは」
「はっはっは。だが確かにいつもいつも俺達の予想を飛び越えてくるな、ソウルの奴は」
「イッヒッヒ。違いなイ」
他の3人もソウルの破天荒さはよく理解している。その行動に振り回されることもしばしばだが、それで掴み取ってきた勝利もまた数知れなかった。
「そう。いつもいつもみんなを置いてけぼりにしながらソウルは走り続けてきた。でも、シーナちゃんだけは違う」
いつも1番先を走っていくソウル。ガストが気がついた時にはいつも彼は前を走っていた。
そんなソウルのことをガストは幼少の頃からずっと見てきた。
けれど、ある時からそんなソウルの日々に大きな変化が訪れたのだ。
「あの子だけは……ずっとソウルの隣を走ってきた。どれだけソウルが突っ走ってもそれに食らいついてどこまでもどこまでも一緒に隣を走ってた。私にはできなかったこと」
ずっと、追いかけてきた。追いつけるように、ソウルみたいになれるようにって。
でも、それは言い換えれば憧れ。対等な立場と言えない。
ずっと助けてもらってきたし、ずっと支えられてきた。
でも、生きている間に私は同じだけソウルを助けてあげられただろうか。
召喚獣の真実に気がついた時。シンセレス国に渡らなければならなくなった時。
本当にソウルが辛い時に、自分の全てを賭けてソウルを助けてきたのはシーナだった。
「だから、シーナちゃんになら負けても良い。ソウルに相応しいのはシーナちゃんだって、そう思ってる」
いつでも飛び出してしまうソウルと一緒に走っていけるのはシーナだけ。きっとシーナなら息切れせずに走り続けるソウルの隣を走っていける。
「でもダメだなぁ」
青い空を見上げながらガストはこぼすように呟く。
「それでも、やっぱり気持ちは追いつかないみたい」
優しい光が目に染みる。
そのせいだろうか。ガストは青い空が滲んで見えるような気がした。