6年越しの答えを2
ソウルに痺れを切らしたガストがついに声を張り上げた。そんなガストの勢いにソウルは圧倒される。
「か、カッコ悪い男の子……!?」
「そう!ソウルは一体何やってるの!?」
ズイ、と指をソウルに突きつけながらガストは続ける。
「ソウルは!シーナちゃんのことが好きだから告白したんでしょ!?」
「お、おぅ……」
「違うの!?大切なんじゃないの!?」
「た、大切だよ」
「この世で1番好き!?」
「す、好きだ!」
「その気持ちに嘘偽りはない!?」
「ない!!」
「だったら!こんな所でいつまでもうじうじ何やってるの!?」
「……っ」
ここまで言われて、ソウルはようやくガストの言いたいことが……彼女が何に腹を立てているのかが理解できた。
「本当に1番大切ならちゃんと大切にしてあげないとダメ!ソウルが私にしてくれたみたいに……ううん、それ以上にシーナちゃんのことを大切にしてあげなきゃダメでしょ!?」
ずっと、ガストが怒っていたのは煮え切らない態度を取るソウルに対してだったのだ。
「で、でも……」
「でもも何もない!ちゃんと特別な人を見つけられたんでしょ!?」
ソウルの反論はガストに簡単に止められる。
「みんな大切だって思うのはソウルの優しい良いところだと思う。でも、誰にでも優しいって言うのは誰も特別じゃないってことでしょ?」
「そうだけど……!でも、ガストはずっと俺のことを支えてくれた。そんなお前に申し訳なくて……」
「申し訳なくなんかない!堂々としなさい!」
弱音を吐くソウルをガストはまた叱りつける。
「きっとソウルのことを好きな人は他にもたくさんいると思う。その中でちゃんと特別な1人を選んで想いを伝えた。私は凄く誇らしく思うよ」
ソウルはちゃんと答えを見つけた。
中途半端にするのではなく、しっかりと己の大切な人を自分自身で選んでみせた。
他の人がどう思うかはガストには分からない。けれど、ガストはそんなソウルでよかったと。大切な人を大切と言える、そんなソウルだったからこそ好きになったのだと思える。
だからこそ、今のソウルは見ていられなかった。
「私が好きになった人は、今のソウルみたいに逃げ回ってるような情けない人じゃない!大切な人のためにどこまでもまっすぐになれるかっこいい男の子だよ!」
気づけば、ガストはソウルの肩を掴み目をまっすぐに見ながら想いをぶつけていた。
「だから……私がかっこいいって思えたソウルの姿でいて。じゃないと、私が諦める意味がないでしょ?」
「………ガスト」
ガストの瞳から、我慢できない涙が溢れる。
それを見て、ソウルはガストがどれだけの想いと覚悟を持ってこの言葉をソウルに送ってくれたのかを理解した。
「ありがとう。絶対、無駄にしない」
ソウルは肩に乗せられたガストの手を握り、ガストの目をまっすぐに見返す。
ガストも覚悟を決めたようにソウルの目を見つめ返した。
情けない。こんな自分のことを殴り飛ばしたくなる。だが、そんなことに何の意味もない。
今……俺がやらなければならないことは……1つ。
「ガスト、聞いてくれるか」
「うん……」
6年越しの答えを。
あの日伝えられなかった返事を、今ここで伝える。
「俺のこと、好きになってくれてありがとう」
喉の奥から何か込み上げてきそうな錯覚を覚える。
言うのが、辛い。傷つくガストを見たくなんてない。だって、ガストは大切な人だから。
「でも、ごめん俺には他に好きな人がいるんだ」
けれど、ソウルは言わなければならない。
大切だからこそ、彼女の想いに真摯に向き合わなければならない。
ガストは、素敵な女性だ。ソウルなんかには勿体無いぐらい、魅力的で可愛い人だ。
それでも……ガストはこんな情けない俺のことを好きになってくれたんだ。
そんなガストに示せる最大の誠意。それは、ガストに誇れる姿を見せること。
「だから……ガストの気持ちには、応えられない」
もう、惨めな姿ばかり見せてしまったソウルだけれど、これ以上情けない姿を見せる訳にはいかない。
だから、胸を張ってしっかりと己の想いを告げる。
俺のことを好きになってくれたガストに誇れる俺でいよう。そう誓いを立てながらソウルは答えを伝えた。
「……ありがとう」
ソウルの言葉を聞いたガストは涙でボロボロだったが、それでも笑顔を作ってくれる。
そんなガストの姿を見てソウルも泣きそうになったが押し殺した。
「うん。私も、その恋を応援してる。だから……ちゃんと、シーナちゃんに気持ちを伝えてあげて」
「……うん」
「ちゃんと、幸せになってね」
そして、ソウルとガストは握手を交わす。
そこに、言葉にはしきれない、たくさんの想いがこもっている気がした。
「これからも……ずっと、私たち家族だからね」
「……うん」
これからは、同じ孤児院出身の家族として共に歩んでいく。
新たな道に進むために2人の初恋はこうして終わった。




