6年越しの答えを1
オデットとの話を終え、ソウルは自室へと戻っていた。
ベッドの上であぐらをかきながら、ソウルは深く考え込むように唸る。
「…………さて」
ひとしきり唸った後、ソウルはボフンとベッドに倒れ込んで天井を見上げる。
オデットは、自分の道をしっかりと見つけ前へと進んだ。
そんな彼女の姿を誇らしく思うと同時にソウル自身が少し情けないように思う。
「そろそろ、逃げるわけにもいかないよな」
1人そう呟くとソウルはそっと瞳を閉じた。
まどろみに身を任せ、ソウルの意識が落ちていき、吸い込まれるような感覚を覚える。
ソウルは己の心の中へと。とある少女と話をするために己の心の中へと向かった。
ーーーーーーー
青い空と透き通るような海のような青い世界が広がる。
そこは金色の円盤のような場所で、円盤には7つの柱と椅子がある。それはとある国で用いられる魔法の力を計測する装置のようなものに見える。
そんな円盤の中心で、ソウルは正座をしていた。
ダラダラと大量の冷や汗をかきながら、見上げると、そこにはピンクの髪をしたボブカットの少女。
可愛らしい海のような青い瞳が、今はどこか光もなくソウルのことを見下ろしている。
「さて……ソウルさん」
「は、はい」
妙に落ち着き払った声と、丁寧な口調がよりソウルの精神を抉る。
「私、怒ってます」
「……存じております」
これは、ガストが心の底から怒っている時の証拠。過去にも何度かガストを怒らせてしまった時にも同じことがあった。
心優しいガストが怒ることなどそうない。それほどまでに今のガストの心は穏やかではないのだろう。
「はぁ、ったく。情けねぇ弟子だな」
「修羅場カ!?修羅場なのカー!?」
「やめておけ、馬鹿者め」
そばには呆れたようにソウルを見下ろすシナツ、ソウルを囃し立てる様にゲラゲラと笑い転げるフィン、そんなフィンの首根っこを掴んでため息をつくレグルスの姿があった。
もはやこれは公開処刑と言っても過言ではない。だが、かと言ってソウルが何か申し開きできることもない。
だって、ソウルの中途半端な態度のせいで生み出した結果なのだから。
「さて、ソウルさん。質問です」
冷たい口調のままガストは本題を切り出す。
「何故、私がこんなに怒っているでしょうか」
来たか……。
ソウルは心の中でそう思った。
これもまた、ガストが怒った証拠。こうしてガストが何に対して怒ってるのか。その理由と謝罪を明確にしなければガストは納得しない。
しっかり者で、優しい。けれど、はっきりさせるところははっきりさせるような。ガストはそう言う人だ。
「……………………」
さて、問題はここからである。
当然、ガストが怒っているのは分かる。その理由。
そんなのは明白。シーナのことだろう。
かつて、ソウルはガストにキスをしてもらった。それは事実上ガストからの告白。この6年、その返事をせずにいたことが原因だろう。
「俺が、ガストに……キスをしてもらって。そこからその返事も返さずにシーナのことを好きになったからです」
「……私、もっと怒りました」
外れた!
ガストの顔がさらに険しくなる。その光景にソウルは言葉を失う。
え……何で!?
それしかないだろうと思っていたソウルは唖然としながらガストを見上げるしかない。
「はぁ……ソウルは私のことちゃんと分かってないんだね。よく分かりました」
「ま、待って……!ごめんなさい!」
「理由もわかってないのに謝らないで」
「は、はい……」
ガストにピシャリと言い放たれてソウルは再び肩を落とす。
「全く……私が何に怒っているのか、もっとちゃんと自分で考えなさい」
ガストに促され、再びソウルは思考を回す。
だが、ソウルの拙い思考ではガストが一体何に対して怒っているのか分からなかった。
「…………はぁ」
そんな必死に思考を巡らせるソウルを眺めながらガストは深い深いため息をつく。そしてペタンとソウルの視線に合わせるようにガストはソウルの前に正座してみせた。
「あのね?ソウルがシーナちゃんのことを好きになったことに、私は怒ってません」
「………………え?」
「もっと言えば、返事をくれなかったことにも怒ってない」
ガストの言葉を聞いてソウルは目を丸くする。そんなソウルの反応を分かっていたようにガストは続けた。
「だって、ソウルが誰のことを好きになって誰と一緒にいるのか。それを決めるのはソウルでしょ?そこに私が口出すつもりはないよ。先に告白したからとか、そんなことは思いません。私、そんな意地悪じゃないもの」
「じゃ、じゃあ一体ガストは何に怒ってるんだ?」
ソウルの考えがいかに的外れだったのかと言うことを思い知らされた。
だが、そうなると余計にガストの怒っている理由が分からなくなっていく。
「私が怒ってるのは!ソウルがカッコ悪い男の子になったからです!!」




