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生命の理を破壊する者1

 産業区。


 暗く、狭い通路を進んでいく一行。先陣を切るシェリーは魔石灯の灯りを頼りに先へと進んでいく。


「どうやら……この洞窟は黒断石でできているようですね」


 シェリーは通路を歩きながらそう呟く。


 この通路の壁から天井、床にかけてまで真っ黒な冷たい岩で覆われている。これは迷いの石窟と同じ黒断石で作られた通路だ。


「あぁ。このシュタールは本来巨大な黒断石の塊の上に作られた城砦だからな。その時の名残りなんだろう」


「……妙ですね」


 セオドアの言葉を聞いて、ふとシェリーは疑問を口にする。


「フィンが行き来していた地下通路は黒断石で作られてはいなかった。なのに何故この通路は黒断石で作られているのでしょう」


 シュタールが黒断石の上に作られたのは分かる。だが、シュタールの地下にはかつてアルファディウスが作らせたと言う地下迷宮が広がっている。


 その地下迷宮には黒断石は使用されていなかった。それはつまり、あの地下通路のさらに地下に黒断石があるということ。


 なら、この黒断石の通路は何か。ハスターが新たに作り出したものなのか。それともアルファディウスも知らない何か隠された存在なのか。


 迷いの石窟で出会ったニケから聞いた話によれば、このシュタールは元々覇王の根城だった場所。召喚魔法を生み出すために覇王が非人道的な実験を行っていた場所だ。


 ならば、この先にあるものは覇王の残した何かかもしれない。


 ハスターは覇王に仕えし10の邪神。覇王の残した何かを知っていたとしてもおかしくはない。


 この先に何があるのか、予想もつかない。


 その事実を前に嫌な緊張が一行を支配する。


 さらに地下へと進んでいくと1つの黒断石で作られた扉が姿を現した。


「な、何だ……この扉……」


「……生き物の気配はない」


 扉の向こうに人や生物の気配はない。突然何かが襲いかかってくることはないだろう。


 シェリーが扉に手をかけると、鍵はかかっておらず、重い音を立てて扉は開かれる。そこに広がっていたのは肉が腐ったかのような嫌な臭気だった。


 あまりの臭いにセオドアはたまらず鼻をつまんだ。


「こ…これは……!」


「何でしょう……?」


 眉を顰めつつもシェリーは部屋の中を観察する。


 そこに広がっていたのは広い空間。赤黒い鉱石で作られた壁と天井はぼんやりと光を放ち、灯りがなくても部屋の全体像が分かる。


 所どころにまるで水槽のような円形の柱が立っている。


 そこには赤黒い液体が溜まっており中には人のようで人ではない歪な何かの骨が沈んでいるのが見えた。


 また、さらにその奥。簡易的な人を乗せて運べそうな車輪のついたベッドがいくつも並べられており、そこには無惨にも内臓を露出した人間の死体と、バラバラに刻まれた人体のパーツが並んでいた。


 一部の死体には虫が湧き、見るも耐えない光景が広がっている。


「お、おえぇ……」


 その惨状を見た解放軍の誰かが嘔吐する。


「ここで……あの黒い化け物を作っていたのか?」


「えぇ。そう考えて相違ないと思いますが……この施設自体はかなり古いもののように見えますね」


 確かに、見たところあれらの惨状はここ最近のものだ。しかし、一方でこの施設の設備そのものはかなり古びており遠い昔に作られたもののように見えた。


「何かの文字が書いてあるな」


 部屋の壁際に、一際古く埃の被った装置のような物がある。


 卵形の人が入れそうな大きさで、中には拘束具のついた椅子が備え付けられている。そこには見た事の無いような文字か記号のような物が刻まれていた。


「これは……【獣】?」


「読めるのか?」


「えぇ。これは古代の文字です。簡単な単語なら分かります」


 これは確か1000年程前に使用されていた古代の文字。ユグドラシル長老から少しだけ教えてもらったことがある。


「こちらは……【魚】、【人】……【龍】に【妖精】、【天使】に【悪魔】……」


 並べられた7つの装置にはそれぞれ種族の文字が刻まれているらしい。その装置の上部は何やらパイプのような物が繋ががっている。


 その先を目で追っていくと、この部屋の最奥に鎮座した同様の物へと繋がっていた。


 そして、そこにもまた古代の文字が刻まれている。



「生命の理を、破壊する者……」



「生命の理を破壊する者……?」



 よく分からないが、どうやらこの施設はその生命の理を破壊する者を……造っていたということか?


「ボスー!!」


 最奥の装置を見上げていると、ふと解放軍の男がセオドアを呼ぶ。


「ここになんかの本があるんですが……」


 男に促され、シェリーとセオドアがそちらに目を向けるとそこには雑多に積まれた分厚い本が置いてある。


 それはかなり年季が入っている。仮にこの場所が覇王にまつわる施設だと言うのならこの本もまた1000年ほど前の遺物になる。


 普通なら本はボロボロに崩れ読むことも叶わなくなりそうだが特殊な素材を使っているのだろうか。


 シェリーはそこに積まれた本を1つ持ち上げてパラパラとページを捲る。中身は黒いインクのような物で塗り潰されており読むことが叶わない部分も多く見受けられるが、塗り潰されていない文字を目で追いかける。


「…………っ」


 その文字を見て、シェリーの体に鳥肌が立った。

 

「まさか……いや、だが……」


「何だ?なんと書いてある?」


 顔色を悪くするシェリーにセオドアは尋ねる。



「【破壊者(ジャガーノート)】」



「…………え?」


「恐らく……この施設は、かつて覇王が【破壊者(ジャガーノート)】を生み出すために使用した研究所だ」

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