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迷走。ゼリルダ7

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ……」


「魂ごと抜けそうなため息ついて、何やってんのよソウル兄」


 結局シーナはどこかへと走り去ってしまったので、修練場に残ったゼリルダとオデット、エリオットと休憩も兼ねて話をすることにした。


「はっはっは!シーナは何をやっているのだろうな!何せシーナは……もごぉっ!?」


「それは言っちゃダメよ、ゼリルダ」


 高笑いするゼリルダの口をエリオットが抑える。


「シーナは俺のこと嫌いなのかなぁ……」


 顔を見ただけで逃げられるし。あれ以降ろくに話もできていない。


 ソウルの心は揺さぶられてばかりだった。


「……ソウルさんって、ほんとに鈍感なんだね」


「それでいて、意外と自信もないみたい。ずっとこんな調子なんだ」


「まぁ、ソウルにはある意味いい薬なのかもしれない。今はほっといていいんじゃないかと思うけどね」


 レイとヴェンとエリオットが何か小声で会話をしているような気もするが、気にもならない。それどころじゃないし。


「あっはっは。お前は面白い男だな、ソウル!流石は兄者の友達だ!」


「……………………」


 ゼリルダの言葉を聞いて、今度は別の理由で胸が痛む。


「……ゼリルダ、ごめん」


「む?」


 ソウルの謝罪を聞いてゼリルダは目を丸くした。


「俺がもっと早くかけつけてたら……もっと強かったら、フィンは死ななかったかもしれない」


「……む、兄者のことか」


 ソウルの言葉を聞いて、ゼリルダも少し顔を俯かせた。


「そうだな……。正直、まだ私自身整理がついてる訳では無い。だが、お前には感謝しているんだ」


「感謝……?」


「だって、お前なのだろう?兄者の背中を押してくれたのは」


「そりゃ……あいつも俺も似たような境遇だったし……」


「ホントよホント!ろくでなしのバカ兄なんだから!」


 オデットがソウルの背後からヘッドロックをして頭をグリグリとしてくる。痛い。


 でも、今のソウルに対抗する元気はなかったのでなされるがままにしてみる。


「でも、だからこそ私は兄者と向き合うことができた。とても短い時間だったが、それでも兄者は私の心を救ってくれたのだ」


 そう言って笑うゼリルダの笑顔は明るい。そこに嘘偽りがないのが分かる。


「兄者も生きて、私と共に王になってくれればと思う気持ちはある。でも……兄者は全てをかけて私を助けてくれた。それを無駄になどしたくない。兄者が救ってくれた私がまだここにいる。それに兄者はソウルの中にいるのだろう?」


 にっ、と笑いながらゼリルダは言う。


「まだ、希望はある。オデットから聞いたぞ?召喚獣は大切な者の魂なのだと。そしてソウルは召喚獣になった者を元に戻す方法を探しているのだと」


 召喚獣になった者を元に戻す方法。


 今は力を貸してくれる大切な人達のために、いずれソウルが成し遂げたいと思っていること。


 だが、依然としてその方法は見つかっているわけではない。それでもゼリルダは高らかに笑いながら告げる。


「私もその方法を探す!そしてまた兄者と……家族みんなで暮らせる未来を目指す!そのためにも私は王として頑張らねばならんのだ!!」


 そう言ってゼリルダは立ち上がって胸を張った。


「何せ、私はあの兄者の妹で、黒龍の女王ゼリルダだ!私に不可能なことなどない!!」


「……強いな」


 大切な兄を失ってなお、ゼリルダは立ち上がる。


 前を向き、目指す未来を掴むために歩き出した。


 お前の妹は、本当に強い女の子だな、フィン。


『とーぜン。だってオイラの妹だからナ』


 ソウルの心の奥からそんな声が聞こえた気がした。


「んじゃあ、ゼリルダはこのままヴルガルドの女王になるのか?」


 ずーん……


 ソウルが何気なく問いかけてみると、ゼリルダが突然ガックリと肩を落とした。


「え、えーと……?どうした?」


「うむ……ちゃんと女王になる……なるつもりではある……」


 べちゃり、と言う効果音が鳴りそうなぐらいにゼリルダが地面に倒れ込む。


「だが……覚えることが多すぎる。難しすぎて私には荷が重い……」


「あぁ……分かるわぁ……」


 ゼリルダの嘆きを聞いて、ソウルは他人事とは思えない気持ちに駆られる。


 何せ、ソウルもジャンヌ様の一声で【再起の街(リバース・タウン)】の領主に任命。右も左も分からぬまま領主になった。


 あの時はレイやマコ、マックス達がいてくれなければどうなっていたことか……。


「ぬぐぐ……ぬわぁぁあ!!もう書類の山は嫌だ!!法律だの何だの覚えられない!!」


 すると、再び自身の状況を思い出したゼリルダが悲鳴をあげたかと思うと、おもむろに黒い組み立て式の棒を引っ張り出してカチカチと組み立て始める。


「ええい、ソウル!今から私の相手をしろ!!」


「…………ぬぁ?」


 ゼリルダの突然の申し出にソウルは目を丸くする。


 それを見たソウル以外のみんなは何かを察したようにそっと側を離れた。


「こう言う時は身体を動かすに限る!これも兄者に教えてもらったことだ!!だから身体を動かすことにする!!」


「んな!?」


 身体を動かす……って、まさか、ゼリルダと試合をするってこと!?


 相手は竜人。それも黒龍の竜人である。その身体能力はシーナとも引けを取らないわけで……。


「兄者が認めた男だからな!手加減は無用だな?」


「待て待て待て!?いくら何でもいきなり……」


「問答無用!!」


「うおおおおおお!?!?」


 待ったをかけるソウルに対してゼリルダは容赦なく黒い棒を槍のようにしてソウルに振り回す。


 速さはシェリー程じゃないから何とか見切れているが、その一撃の重さはシェリーの比ではない。


 黒い棒がソウルの周囲を蠢く度にブオンブオンと風を切る音がソウルの鼓膜を……いや、肌を襲う。


 一撃でも受け損なったら……ソウルは死ぬかもしれない。


「はっはっは!いいぞいいぞ!私をもっと楽しませろ!!私は黒龍の女王、ゼリルダだぞ!!」


「うがぁぁあ!!フィンてめぇええ!!ゼリルダに余計なことを教えやがってええええええ!!!!」


 軽く汗を流すつもりだったのに、気がつけば命のやり取りが始まったソウルは新たに宿った友人に文句を叫びながらゼリルダの猛攻から逃げ惑う羽目になるのだった。

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