迷走。ゼリルダ5
シュタール城のとある一室。
紫のポニーテールを揺らす1人の少女はため息をつきながら頬杖をついていた。
「あのねぇ……」
オデットの視線の先。そこには1つのベッドとその上で布団に包まる1人の少女がいた。
「ソウル兄に告られたんでしょ!?さっさと返事してくっついて来なさいよ!こんな所で何やってんの!?」
「だっ……だだだだだって!何を言えばいいのか分かんないんだもん!!」
布団から真っ赤な顔を出してそう叫ぶのは銀の長髪をした赤い目の少女。布団の中で悶えすぎた結果髪はボサボサであられも無い姿となっている。
そんなシーナをオデットは窓際の椅子に座りながら眺めていた。
オデットの手元には白い煙のような物が入ったガラス玉のが握られており、それはたまにバチバチと光を放ったかと思えば燃え上がる炎のような光を放っている。
「そんなの簡単でしょ!?好きだって言ってチューでもなんでもしてきたらいいじゃない!両思いなんだから!」
「ちゅ、チュー!?無理無理無理無理!できない!できないよ!!」
「何今更怖気ついてんのよ!ずっと好きだったんでしょーが!」
「だ、だってぇ……」
布団の中に再び閉じ籠りながらシーナは言う。
「だって……まだ信じられないし。まさか……ソウルが私のこと……す、すすす好きだなんて」
何度も、夢見たことはあった。
ソウルの特別になりたいって。それはきっと男女の特別のことだ。
いつかは、そうなれたらいいなぁって。漠然と思ってはきたけれど、いざそれが現実になった時。
シーナの心を支配したのは喜びと同時に混乱だった。
心の準備ができていない。夢にまで見ていたものがある日突然自分の手元に届いた時。人は喜ぶ前に思考が停止するのだと言うことを知った。
顔は熱くなるし動悸も早まるし。シーナの精神はもたない。このままではシーナはソウルと顔を合わせることもできないだろう。
オデットはソウル兄のために、義妹として一肌脱いでやろうとは思っている。
しかし、そんなシーナにかけられる言葉をオデットは知らない。
オデットは男性と交際した経験などない。好きになった人もいない。飛び級していたせいで同級生から疎まれ友達も少なかったから恋愛について話をする人なんていなかった。
つまり、恋愛相談なんてオデットには荷が重い。
「はぁ……全く、ソウル兄はどーしてこんなのを好きになるかなぁ」
そりゃあ……一生懸命なところは認めるし、本当にソウル兄のことを大切に想ってるのは分かる。
正直。シーナのことは嫌いではない。
でも、もしシーナがソウル兄と恋人になって……結婚したとしたら、シーナはオデットにとって義理の姉になると言うこと?
義理の姉が……こんな情けないの……?
「ぬぁぁぁあ!!私はどーしたらいいのよーー!!」
すると、今度はオデットの方が頭を抱えて奇声を上げる始末。
「あはははは。何だかすっごく賑やか」
「もー!!ねぇエリオット!何とか言ってやってよ!こういうのはあんたの得意分野でしょ!?」
オデットは頭を掻きむしりながら2人のやり取りを眺めているピンク色の髪の少女ことエリオットにSOSを出した。
いつでもどこでもヴェンといちゃついているエリオットならいい感じのことをシーナに言ってくれるはず……。
「そうね……」
白羽の矢が向けられたエリオットは、そっと微笑みながら告げる。
「私、ヴェン以外の人のことはよく分かんない」
「役立たずーーーー!!」
頬を染めながらそんなことを言うエリオットにオデットは叫んだ。
そう言えば、エリオットも何年も離れ離れだったヴェンを好きでい続けた人だ。難しい恋愛の駆け引きだとか、何をどうするべきかなんて知識は皆無。
「…………ん?」
そんな恋愛偏差値落第点の3人が途方に暮れていると、ふと部屋の中に影がさす。何事かと思い、窓の外を眺めてみると……。
「何だ何だ、なんだか楽しそうな話をしているな!」
窓の外にヤモリのようにへばりつくゼリルダの姿があった。
「ええええええ!?」
「バカ!?あんた何やってんの!?」
「はっはっは!あまりに限界だったから逃げ出して来たのだ!」
そう言って窓を開けて部屋の中へと入り込んでくるゼリルダ。その動きの怪しさを見て改めてゼリルダはフィンの妹なのだと思う。
「で!一体全体何の話をしていたのだ!女子会か!?私も混ぜてくれ!」
「あ…あはは……」
正直、国全体が大変なのに大丈夫?なんてことが頭をよぎるが、こんなに目を輝かせてソワソワしているゼリルダを見て断ることもはばかられるのだった。




