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迷走。ゼリルダ4

 シュタールの修練場。


 そこでは屈強な兵士達が日々研鑽を重ね、その強さを磨いていた。


 力こそが全てのこの国にとって、強さは最重要たるもの。故に国の兵士達は暇さえあれば剣を握り、休憩時間以外は近くの仲間達と武器を撃ち合う。


 そんな修練場にて、一際激しい撃ち合いの音が響く。


 そこには木刀を振りまわす茶髪の爽やかな青年と、その猛攻を同じく木刀で凌ぐ黒い髪をした琥珀色の瞳の青年の姿があった。


「ほら!隙だらけだよ!もっと集中集中!」


 2人の撃ち合いを見学するヴェンがソウルに呼びかける。


「うおっ!?わ、分かってるよ!!」


 レイから繰り出される鋭い剣撃を受け回しながらソウルは木刀を振るう。


 以前イーリスト国にいた時はたまにこうしてお互いの訓練を手伝っていたのだが、ヴルガルドの戦いが終わってひと段落してから再び2人でこうして己の腕をぶつけ合っていた。


 久々にやり合ったが、レイもまた腕を上げている。剣の腕はほぼ互角と言ったところか。シェリーの地獄の特訓を受けているのに、レイも見えないところでどれ程の研鑽を積んでいるのだろうかと思う。


「ふぅ、それじゃ一旦ここまでにしよう」


「はぁ……了解」


 しばし撃ち合った後、互いに気持ちのいい汗をかきながら、地べたに座り込んで汗を拭う。


「身体の方はどう?」


「そうだな……ようやく本調子になって来たって感じかな」


「でも珍しいね、ソウルがここまで怪我を引きずるなんて。いつもはもっと治るのが早いイメージなんだけど」


「……………………」


 レイの指摘にソウルの表情が固まる。


 ソウルはヴルガルド革命の中で10の邪神の一角ダゴンと交戦。そしてなんとか勝利を収めることに成功した。


 もっとも、その勝利は決してソウルが強かったからではない。ダゴンがソウルを勝たせたと言った方がいい。


 だからソウルとしてはまだまだ修行は足らないし、もっともっと強くならなければならないとこうして鍛錬を積んでいるわけなのだが……。


「い、色々あってな……今はポセイディアの回復が使えねぇんだ」


「え?どうして?」


「……せ、説明するのはちょっと厄介なんだ」


 いつもはガストの回復の力のお陰で戦闘後の回復は早いソウルなのだが、今回ばかりはそれが使えない。


 正確には、使うのが忍びない。


 かつてソウルはガストからキスをされた。あれだけ明確に好意を伝えられれば流石のソウルにだってその意味は分かる。


 それに当時はソウルもガストが可愛いと思っていたし、好意的な感情を寄せていたのは事実。


 けれど、ソウルはガストに明確にその返事をした事はない。何だかんだでうやむやなままでここまで来てしまった。


 それ故に先日の出来事……シーナへの告白はソウルとガストの関係を大きく崩してしまう結果となる。


 はっきり言おう。気まずい。どんな顔してガストに会えばいいのか分からなかったのだ。


「……よく分かんないけど、色々大変そうだね」


 遠い目をしながらソウルを憐れむヴェン。


「まぁ、そっちの事情は分かったよ。それはそうとして本題に入るけど、例の同盟の件はどうなりそう?」


「一応アベルには伝えてあるし、シンセレスにも一応報告はしといたよ」


 ソウル達がこの国に来ることになった理由。シンセレス国とヴルガルド国の同盟の話。


 まだ期限は残されているとは言え、あまり悠長なことは言ってられないだろう。


 けれど、それでもまだソウルはゼリルダに同盟の話を直接持ち込む事はできていなかった。


 彼女は唯一残された家族であるフィンが死に、そして女王としてこの国の運命を背負わなければならない立場にある。


 そんな彼女に急かすような形で同盟を持ちかける事は正直心苦しいものがあったのだ。


「急いだ方がいいんじゃない?」


「分かってるけど。でも、もう少し待ってやりたいんだよ」


 ソウルだって一応狭い区画とは言え領主を任された身。その重圧だとか責任は重々理解している。だからせめて彼女の中で整理がつくまでは、待とうと思っている。


 それでもシンセレスのエヴァにはシュタールで起こったことやその後の展望について報告の書面を送っている。


 まだその返事は来ていないがまぁすぐに返ってくるだろう。


「それもそうだね。ま、いいんじゃないかな?ソウルにはソウルでもう1つやらなきゃいけないこともあるだろうし」


「うぐ……」


 悪戯っぽい笑みを浮かべながらレイはソウルに尋ねる。



「で?シーナとはどうなったの?」



「………………それが」


 ソウルはため息をつきながら白状する。



「あれ以降……シーナとロクに話もできてないんだよ……」



「話ができてない?なんで?」


 ソウルの言葉を聞いてヴェンが驚いたように言う。


「何回も声をかけようとしたんだけど、なんか……シーナに避けられてる気がする」


 頭をガシガシとかきながらソウルはため息をつく。


「あぁ……なるほど。そういうことかぁ」


 そんなソウルの言葉を聞いて、レイは全てを察した。


「……なぁ、俺シーナに嫌われてる?」


 あの時。ダゴンの促しもあってソウルの想いをぶつけた。


 けれど、後々思い返してみればそこにムードだの脈絡だの、そんなものがない。


 世の中の女の人は……こう、いいムード?で告白してもらいたいものだと聞いた。多分、あんな激戦のど真ん中でやるもんじゃない。


 つまりソウルの告白は失敗だったのではないかと思うわけだ。


「はぁぁ……信じてるってこと証明するって言ったけど……それも上手くできたのかもわかんねぇし、馬鹿なことしたかも……」


「あはは」


 そんな風に肩を落とすソウルにレイはいつものようにケラケラと笑いながら言う。



「絶対そんな事はないと思うけどなぁ……」

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