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迷走。ゼリルダ3

 1人残されたアベルはため息をついてその場に崩れ落ちる。


「はぁ……これでは先が思いやられる」


 良くも悪くも、ゼリルダは昔からこうだった。うまくいかないことがあったらこうして逃げだして現実逃避をする。


 まさに末っ子。わがまま娘として彼女は生きて来たのだ。


 それをこうしていきなり責任ある立場にというのは中々に骨が折れる。しかしここは踏ん張りどころなのだと言うことも理解していた。


「またやっているようだな」


 そんなアベルに声をかける存在があった。


「アイザック殿か」


 そこには2メートルを超える身長を持つ銀髪に紅い目をした大男。【北斗七帝】が一角アイザックが立っていた。


「ゼリルダは相変わらずか」


「えぇ。全く、この調子では到底この国の王など務まりますまい。もっと厳しく教育せねばなりません」


 床に散らばった書類を片付けながらアベルはため息をつく。


 そんなアベルを手伝いながらアイザックは言う。


「だが、まだ時期尚早なのではないか?」


「……というと?」


「確かに、ゆくゆくはゼリルダはこの国を背負い立たねばならんだろう。それはゼリルダも重々理解しているはずだ」


「えぇ。ですから今のうちから早く王としての教養を身につけて貰わねば」


「だが……今のあいつは14歳の娘。それに加えてあいつが心の支えにしていた兄と側近を失った状態だ」


 アベルの言わんとすることは分かる。だが、ゼリルダもまた自身の支えを失い不安定な状態だ。そんな中で焦ってもこうしてゼリルダの許容を超えて逃げ出す未来しかない。


「しかし……だからと言って世界は、国民は待ってはくれませぬ」


 かと言ってそんなゼリルダの都合などこの国で生きる人々には関係ない。


 ただでさえレイオスの撒いた負の遺産が国を蝕み、人々の生活を脅かしている。そんな状況でゼリルダの王としての教養を身につけるまでの時間を待つ余裕は無い。


 ましてや、今この街は混沌の中にいる。そんな状況でシュタールの街人達は一刻も早くゼリルダからの言葉を求めている状態。


 そんな状況にも関わらずゼリルダがこんな状態では下手すれば再び国民からのクーデターが起こりそれこそゼリルダの立場が無くなるだろう。


「一刻も早く、ゼリルダ様に王としての立場になってもらわねば、この国は終わる。故にあのようなわがままを許している訳には……」


「ふん。アベル、お前はあのゼリルダという女を分かっていないな」


 ゼリルダが現実に向き合えない事態に頭を抱えるアベルをよそにアイザックはふっと笑った。


「どういう意味でしょうか?」


「何。確かにゼリルダは破天荒で自由気まま……まさにシュタールの空をかける風のような女だ」


 アベルに対してアイザックはそう告げる。


「あいつに知略だとか政治だとかの才能は微塵もないだろう。だが……ゼリルダにはゼリルダの強さがある。だから、今は少しだけ待ってやれ」


「……………………」


 アイザックの言葉にアベルは胸にためたドロドロとした空気を吐き出す。


「アイザック殿こそ、ゼリルダ様を買い被りすぎでは?」


「そんな事はないさ。確かにゼリルダの兄にはまごう事なき王たる器があった」


 ゼリルダの兄、フィンはまさに王。完成された王たる器を持った男だった。きっと彼が王座を引き継げばこの国の事態は全て丸く収まったのではないかと思えるほど。


 そんな完璧なフィンと比べればゼリルダの未熟さが際立つだろう。


 だが、ゼリルダにはゼリルダの在り方……魅力がある。


 きっと、ゼリルダなら自分の道を見つけられるだろう。自由気ままで自分勝手。わがまま放題の暴君みたいな女だが、決して馬鹿な女ではない。


 それはアイザックが1番理解していることだった。


「……それはそうと、アイザック殿」


 そんな事を言い合ったアベルはずっと気になっていた事を尋ねた。


「随分……足が震えておるようだが、どこか具合でも悪いのか?」


「…………放っておけ」


 結局、アイザックは変わらず人見知りだったのだった。

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