迷走。ゼリルダ1
復興と変革が進むシュタール。
この短い期間でたくさんのことがあった。
この国を牛耳っていたレイオスは姿を消し、ゼリルダの元に政権が戻った。
そんなゼリルダを支える【北斗七帝】と呼ばれる女王の懐刀。その7人のうちレイオス、ダゴン、ヒュドラの3人が失脚。
国のトップはもちろんその配下もまた崩れ、ヴルガルド国の政治はボロボロだった。
つまり、今のヴルガルド国は早急な立て直しが必要になるわけだ。
「ぬわぁぁぁぁあ!!分からん!分からんぞ!!」
そんなヴルガルドの首都、シュタールの街の中心。シュタール城。
白い建物が乱立する中で真っ黒な色をしたシュタール城の執務室で頭を抱えて悲鳴をあげる少女がいた。
「税金……?法律……?政策……?何だ何だ!分からんことだらけじゃないか!!」
埋もれるほど大量の書類に囲まれるのは黒い長髪を揺らすこの国の女王。この国を建国したヴルガルディア・フォン・アルファディウスの娘。
伝説の黒い鱗を受け継ぎし竜人。黒龍の女王、ヴルガルディア・フォン・ゼリルダである。
確かに、彼女は伝説の黒い鱗を受け継ぎ、王たる資格を持ってここにいる。
しかし、その実はただの14歳の女の子。しかも政治だとか国を担う教育などを受けたこともない。
つまり、中身の伴わない飾りの王様なのだ。
「落ち着くのです、ゼリルダ様」
唸るゼリルダにそう声をかけるのは丸い眼鏡をかけた痩せこけた老人。かつてアルファディウスとその家族に仕えし竜人アベルである。
「でも……!国の法律なんて分からない!これまで全部レイオスに任せっきりだったから……!」
「仕方ありませぬ。本来は4年前のあの日よりゼリルダ様に王たる教育をするつもりだったのですから……。その4年の遅れをここで取り戻すのです」
「無茶言うな!ロクに本も読んだことがないんだぞ!?そんな私がこんな大量の書物など読めるか!日が暮れる!!」
大量の書物をバシバシと叩きながらゼリルダは叫ぶ。
「ならば……諦めますか?」
「………………っ」
そんなゼリルダにアベルは敢えて厳しいことを言う。
「あなた様に全てを託して散っていった者がたくさんあるはずです。それを全て投げ出しますか?」
「分かってる……分かってるけど……!」
そんなの、分かってる。
この国は今、岐路に立たされている。
レイオスというこの国を良くも悪くも導いてきた存在を失い、国全体が揺れているのだ。
ここでゼリルダが間違えてしまえばこの街……いや、この国の人々の運命もまた変わる。
それが、女王となること。国を背負うと言うことだ。
かつてのゼリルダはそんな覚悟もなくただレイオスに用意された玉座に座り、レールの道を歩いてきた。そんな重責など知る由もなく。
それが突如として変わったのだ。
レイオスはゼリルダを騙し、この街の……この国の人々を苦しめ、父上が大切にしてきたものを踏み躙ってきた。
分かってる。私だってできることなら父上と……そして、兄者の想いを叶えたい。
でも……こんな私に何ができると言うのか。
「…………っ!限界だ!私は出てくる!」
「あぁ!?ゼリルダ様!いけません!!」
ついに限界を迎えたゼリルダはその黒い翼を広げ、窓から城の外へと飛び出す。
「ゼリルダ様!帰ってきなされええええ!!」
アベルの声がシュタール城に響き渡る。
「あ、またやってんのかゼリルダ様」
「相変わらずだなぁ……」
そんな光景をいつもの事のように空の警備にあたる騎龍兵達は眺めているのだった。




