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アル

「...ウル、ソウル」


 誰かがソウルの名を呼ぶ声がする。誰だろう。懐かしいような、いつも聞いているような、そんな優しい声。


「目を覚まして、ソウル?」


 誰だ?


「あなたはまだここで立ち止まっちゃダメ」


 誰かがソウルの手を優しく握る。


「みんなを.......みんなを、守ってあげて?」


「.......だ...れ?」


 ソウルは静かに目を開いた。


ーーーーーーー


 そこはテントの中だった。木の支柱にクリーム色の布で作られたテントの中は程よく暖かくて心地よい。


 辺りを見渡すと木で作られた可愛らしい家具が並び、まるで戸建ての家の中にいるようだった。


「こ、ここは?」


「ここは私の家ですわ」


 すると枕元から声が聞こえる。


「お、お前は?」


 そこには兎耳を生やした少女が座っていた。


 歳はソウルと同じぐらい。髪は薄いピンク色の肩までかからないほどの長さ。瞳は濃い焦げ茶色で丸っこく可愛らしい目が印象的だった。


 動きやすそうな短いズボンに涼しそうな白い半袖の服を着ている。服の下からはケイラほどではないが比較的大きめのサイズの胸がその存在を主張している。


「ど、どうしておれはここに...」


 ソウルはベッドから起き上がろうとした。



「近寄らないでくださいっ」



 すると目の前の獣人はナイフを構えて距離をとる。


「なっ!?」


 ソウルも剣をかまえようと咄嗟に腰に手を回すが当然そこにソウルの剣はない。


「私の名はアル。ビーストレイジの王、レグルスの付き人ですわ」


 アルは警戒した顔持ちでソウルを睨む。


「ここはビーストレイジの本拠地。逃げられるとお思いにならないことですわ」


「くそっ」


 ソウルは思考を巡らせる。どうやらソウルはビーストレイジの本拠地に連れてこられたらしい。


 まずい。ソウルの本能がそう告げている。このままではいつ殺されてもおかしくない。緊張で息が苦しい。


「な、なんでおれはここに連れてこられたんだ?」


 ソウルはアルと名乗る獣人に話しかけた。この状況を突破するために少しでも情報が欲しい。


「あなたをここに連れてきたのは私ですわ」


 アルは警戒を崩さずに答える。


「あなたに聞きたいことがありますの」


「き、聞きたいこと?」


 聖剣騎士団の戦力だろうか。だが相手に情報を渡すわけにはいかない。


 ソウルはいつでも逃げられるように体に力を込めながらアルを睨む。


 そしてアルは口を開いた。



「何故、私を助けたんですの?」



「え...?」


 ソウルは予想外の問いかけに困惑する。


「人間のあなたが、何故あの時獣人の私を庇ったんですの?」


 アルは繰り返し尋ねてくる。どうやらソウルの聞き間違いなどではないらしい。


「ど、どうしてって.......」


 ソウルは少し冷静さを取り戻し、改めて目の前の少女を見つめる。彼女の肩は少し震えているようだった。


「.......おれにもよく分からねぇけど、もうあんた達と戦いたくないって思ったんだ。そしたら、体が勝手に...動いてた」


 ソウルは素直に質問に答えることにした。


 現状警戒されているようだが危害を加えられることは無いように感じる。今はこちらから敵意を向けることは得策ではないだろう。


「分からないのですか?」


 アルは呆れたような顔をする。


「自分の行ったことに責任を持てないのですか?」


 おぉ、痛いところをついてくるなぁ。


「し、仕方ねぇだろ。おれだって混乱してたんだ」


「.......サイテーですわね」


「ひでぇ」


 あんまりな言い方じゃないか。


「はぁ...。それでは、ここでしばらくお待ちください。王を連れてまいります」


 アルは頭を抱えながらテントを出て行った。



「.......は?」



 ソウルは現在縄で縛られたりなど何の拘束も受けていない。なんならここは牢屋などでもなさそうだ。


「あ、あいつバカなのか?」


 見張りの有無は不明だが、今なら逃げられる可能性が高い。


「よ、よし」


 逃げるなら今しかないとソウルはベッドから立ち上がろうと体を動かす。


 そして気がついた。


 ソウルの体には丁寧に包帯が巻かれている。


 それはまだ巻き直してそれほど時間が経っていない様子だ。


「.......あいつ、看病してくれてたのか?」


 ベッド脇のくずかごの中には血まみれの包帯が大量に捨てられており枕元には水の入った桶と湿らされたタオルが置かれている。


「.......はぁ」


 ソウルはまたベッドに転がる。もしかすると、逃げるチャンスは今しかないのかも知れない。


 だが、ここまで懇意に看病してくれた相手に対してそれは悪いのではないかと感じてしまう。


 それに、今のソウルは獣人と戦うことに迷いが生まれている。この状態で果たして任務に戻ることができるのだろうか。


「もう少し、あいつらのこと知ってからでもいいのかな」


 そう呟いてソウルは目をつぶった。

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