産業区復興1
ファーロールとの戦い……と言うよりはバハムートが暴れたことによって産業区の建造物は皆破壊され、瓦礫の山となっていた。
だが、元々産業区はレイオスの手に堕ちていたこともあり、シュタールの大きな損失にはならずにすんだ。
むしろ、レイオスの悪事を全て明るみに出すためのいい機会でもあった。
「ほら、とにかく調べるよ。そこの瓦礫の山をどけて」
そんな風に部隊に指示を送るのは薄緑色の無造作に伸ばした髪で右目を隠した1人の青年。
黒い人型の化け物達を前に命からがら逃げおおせた彼はバハムートの街の破壊からと何とか逃れ、こうして街の復興のために動いていた。
セオドアは様々な色のドラゴン達が南門を抜けて街の瓦礫を破棄していくのを眺めながら思考を回す。
レイオスがこの国で何を企んでいたのか。そしてまだこの国で何か良からぬものを残していないのかを調べておく必要がある。
レイオスに従っていた兵士達ら一網打尽に捕えたものの、彼らはあくまで末端の兵。レイオスの企みだとか詳しい情報は全く出てこない。
私腹を肥やすことだけに目を奪われた愚か者ばかりだった。故にレイオスがこの国を奪って何を狙っていたのか分からないでいた。
それに加えてもう1つの懸念としてあの黒い人型の化け物のことがある。恐らくシュタールの人間に何かをして作り出した化け物。つまり元は普通の人間だった可能性が高い。
ファーロールとダゴンを倒した後、街中に現れた黒い人影達は皆一斉に姿を消してその行方も分からないままでいた。
もし再びどこかから奴らが現れて街の中で暴れでもすれば大きな損害を受けたこのシュタールは大きな被害を被ることになるだろう。
決して、そこまで強くはない。だが、倒せないし数は多い。つまりは減らない雑兵。
その仕組みが分からない以上確かなことは言えないがもし奴らが魔人のような性質を持った存在なのだとすれば兵糧もいらないし疲労もない。
そのエネルギーが尽きるまで暴れる戦闘兵器ということになる。
「そんな非人道的な……」
セオドアは怒りを露わにしながら歯を噛み締める。
どこまであいつは人を貶めれば気が済むのか……。だが、それと同時に1つ疑問も残る。
何故、レイオスはあんなものをこの国でせっせと作っていたのか。
そしてそれをどこかへやったということは何かの目的のために奴が持っていったという可能性が高い。
まさか、戦争でも起こそうとしているのか?どこを相手に?
「ボスー!!」
そんなことを思っていると、ふとセオドアのことを呼ぶ声がする。そちらを見ると元産業区解放軍の仲間達がセオドアを呼んでいるのが見えた。
「何だ何だ?」
「それがよ……なんか変なもん見つけたんだ」
「変なもん?」
仲間の言う場所に足を運んでみると、そこには何やら怪しげな地下へと続くトンネルがあった。
「ここ、ちょうど人体実験されてる建物があった場所ですぜ」
「しかも、僕らの知らない地下道だね」
解放軍はこの地下を巡っていた地下道を網羅していたが、こんな通路は見たことがない。恐らくレイオスが何かを企んで作ったものだろう。
静まり返る地下通路を眺めながらセオドアは息を呑む。
「…………どうしやす?」
「……行ってみるしかないだろう」
「「「「わかりやした。ボス、気をつけて」」」」
「お前らもくるんだ」
「「「「えええええええ」」」」
綺麗にハモる仲間達にため息を吐きながらセオドアは地下へと続く通路を見下ろす。
わざわざレイオスが作らせたかもしれない地下通路。一体どんなものが出てくるのか予想もつかない。
そんなものに戦闘力0のセオドアが潜入してみろ。2度と日の光を拝めなくなる。
「待ちなさい」
屈強なシュタールの兵士達が揃いも揃って狼狽えている中、ふとセオドアに声をかける者がいた。
「私も共に同行しよう」
「あなたは……確かシェリーとか言ったか」
そこには金髪で容姿端麗なハーフエルフの女性、シェリーが立っていた。カミラの話ではこのヴルガルド革命の立役者のうちの1人だと聞いてはいるが……。
「しかし、信用に値するか。少なくともあなたはレイオスを逃したのだろう?」
「だからこそ……だ。奴を逃した責任として、私は奴がこの国で何を企んでいたのか。そしてその残滓が残っているのならそれを潰す義務がある」
シェリーの言葉を聞いてセオドアは思案する。
確かに筋は通っている。それに確かレイオスが10の邪神の一角だという情報を突き止めたのはシェリーらしい。
そんなレイオスにとって致命的な情報をレイオスの味方がよこすのはいささか考えにくいか。
「……分かった。それじゃあ頼むよ」
「はい、任せておきなさい。ここにいる者誰1人として傷ひとつつけさせないと約束しよう」
「「「か、かっけぇ」」」
怖気ついていた屈強な男共は男よりも男らしいシェリーさんの姿に感服するのだった。




