エピローグ
全ての決着がついた。
空に映る映像はこの戦いの全てをシュタールの街に知らしめた。ファーロールとダゴン、ヒュドラは敗れた。
「……………………っ!!」
「……全てが決したようだな」
残されたのはハスターただ1人。
「おのれ……!おのれぇ……!!」
己の仕掛けた魔導機を見上げてハスターは怒りを露わにする。
全て……全て覆された。何故だ……何故だぁ!?
ここまで周到に積み重ね、全てを順調に進めてきた。
それだと言うのに、たった2つ……たった2つのイレギュラーに全てを持って行かれた。
フィンケルシュタインと……そして……!そしてやはりあの男……!!
「許さん……許さんぞ……ゼロ……!!」
「そのゼロとは何だ?」
ハスターの呪いのような言葉にシェリーは問う。
「貴様は随分とゼロに固執している。ゼロとはなんだ、一体お前は何を目的にしているんだ?」
この執着……この怒り。まるで宿敵を前にしたようだ。一体この男は何にこれほど心を惑わされているのだろうか。
「……ふ、貴様になぜ言わねばならん。復讐のハーフエルフめ」
そう言捨てるとハスターは懐から何か黒い球体のような物を引っ張り出す。
あの魔法道具……まさか転移か!?
シェリーは堪らずハスターに斬りかかる。しかし、ハスターはそれを読んで魔法を展開。彼の周囲を取り巻くように風の渦が展開しシェリーの侵入を阻む。
「ふはははは!いいさ……ならばせいぜいその短い勝利の余韻に浸るがいい……!!」
黒い球体から影のようなマナが吐き出され、ハスターの身体を取り込んでいく。
あれは……転移魔法か!?
ここまできて、正体を明かすところまで追い詰めて!むざむざ逃がしてたまるか!
展開したフェンリルとケルピーに攻撃を指示するがハスターの最後の魔法は砕けない。
ただ逃げ出そうとするハスターを見届けることしかできない。
「【虚無】に伝えておけ……」
そんなシェリーを嘲笑うかのように、ハスターは告げる。
「今回は貴様に勝ちを譲ってやる。だが……これから貴様には我の用意した最高の舞台が待っている」
「負け惜しみを……!」
「負け惜しみなどではないさ」
不敵に笑いながらハスターは言い残す。
「すぐに分かる。お前の大事に積み上げてきたものをぶち壊してくれる。貴様の手で全てを終わらせるその瞬間が楽しみで楽しみで仕方がない!」
「貴様こそ、自惚れるな!」
逃げ去ろうとするハスターに向けてシェリーは叫ぶ。
「私達はそう易々と負けはしない!例え貴様がどのような謀略を図ろうと!私達は共にそれを打ち砕いてみせる!」
ハスターの渦に身体を裂かれながらもシェリーはハスターに肉薄する。
「これ以上!貴様の思い通りになどさせてなるものか!!」
ザンッ!!
「…………っ」
ハスターの身体をシェリーは斬りつける。黒い血のような物を噴き出させながらもハスターは暗い影の中に溶けていく。
「せいぜい吠えていろ。最後に勝つのはこの我……ハスターだ」
そして、ハスターは消える。
シェリーの胸に暗い影を落としながら。ここでやつを仕留めきれなかったことが後にどのような事態を招くことになるのだろうか。
「……だが」
負けはしない。必ず今度こそ貴様を倒してみせる。
シェリーはそう硬く誓うのだった。
ーーーーーーー
ダゴンが消えるのをソウルとシーナはしかと見届ける。
ヒュドラと同じようにシュタールの冷たい風に吹かれ、シュタールの地に溶けていく。。
「終わった……」
全ての戦いが、終わった。
ファーロールを下し、ダゴンとヒュドラを倒した。レイオスもシェリーに任せればきっと大丈夫だろう。
革命は成された。
ヴルガルド国はこれで本来の形に戻る。政権はゼリルダという女王の手に戻ることになるだろう。
そして……。
「「…………っ」」
ソウルとシーナはそのままグラリと身体を傾け、その場に倒れ込んでしまった。
全ての限界を超えた結末。もう指一本……瞼を開けることすらもできない。
硬い地面に吸い込まれるような錯覚と共にソウルとシーナは意識を手放した。
けれど、2人の手だけは硬く結ばれる。
確かな絆が解けることのないように。
互いの想いを確かめ合った2人はもう離れることはないことを示していた。
多くの犠牲と代償を支払ったヴルガルド革命。
それは琥珀色の瞳をした青年と、小さな竜人の手によって成された。
そしてその先の未来に一体何が待ち受けているのか。この時はまだ誰も知らない。
この革命が世界を巻き込む大戦火の火種となることを。




