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ヴルガルド革命【反流の夫婦との戦い15】

 ダゴンの身体を覇王の剣が斬る。


 ダゴンの身体はその一撃の前に崩れ、硬く冷たいシュタールの大地に仰向けに倒れた。


「はぁ……はぁ……!」


「そ、ソウル……!」


 全てを出し尽くしたソウルはグラリと視界が崩れる。


 そんなソウルの身体をシーナが受け止めた。


「あ、ありがと……」


「ううん……」


 シーナがソウルを掴む手が強くなる。


「勝った……勝ったんだよね……」


「…………うん」


 ソウルとシーナは顔を見合わせる。お互いにボロボロで、血泥に汚れた顔だったけれど、それはとても眩しく思えた。


 そして、今度は覇王の剣を握っていた手に目を落とす。


「今の……一体何だったんだ?」


 明らかに何かがおかしかった。どこかからか力が流れ込んでくる感覚。その出所はシーナだった気がする。


「シーナ、お前何したんだ?」


「わ、私じゃない。ソウルじゃないの?私の中から何かがソウルに流れていった気がしたんだけど……」


 てっきり、シーナの聖剣の新しい力か何かだと思ったのだが、シーナには心当たりがない様子だった。


「ソウル少年、それが君の本来の力だ」


 すると、地に倒れたダゴンがソウル達に声をかけてくる。


「本来の……力……?」


「そう。全く……【守人(もりびと)】も随分と杜撰(ずさん)な事だ。それにお前も……」


 そう言ってダゴンはじっとシーナを見た。


「……秘美呼のこと?」


「…………さて、どうだろうな」


 そしてダゴンは口をつぐんだ。


「誇れ、少年」


 ソウル達を見てダゴンは笑う。


「君は見事、この吾輩……10の邪神が一角、【反流のダゴン】を下してみせた」


「…………でも」


 ソウルは確かに勝利した。成さなければならない事を成し遂げてみせた。それだけは間違いない。


 けれどその勝利を素直に喜べないソウルもいた。


「別の道は……無かったのか?俺は本当はあんたと戦いたくなかった」


「はっはっは。吾輩もだよ」


「………………っ」


 ダゴンの言葉を聞いてソウルは涙が零れそうになった。


 ソウルだけじゃなく、ダゴンもまた同じように思っていたのだと思うと、やるせない気持ちになる。


 そんなソウルにダゴンは言う。


「だが……これが戦争だ、少年。立場や境遇で昨日友だった者が殺し合い、戦いたくない者が巻き込まれ、犠牲になる。それがかつての魔法大戦時代だ」


 かつての自身の過去。魔法大戦という地獄の中で戦うことでしか生きていく道を見つけられなかった己の運命。


「故に……終わらせなければならんのだよ。あんな暗黒の時代など、吾輩達だけで十分なのだから」


「……ねぇ」


 そんなダゴンに、シーナは問う。



「だから、手を抜いたの?」



「…………え?」


「…………なぜそう思う?」


 唖然とするソウルを置いてダゴンはシーナに問いかえした。


「だって……あなた、【魔人化】しなかったでしょ?」


 ファーロールが出した魔人の切り札。【魔人化】。ファーロールと同じ境地にいたダゴンがそれをできないとは到底思えない。


 だとしたら、考えられる理由は1つだ。


「あなた……まさか、わざと負けたんじゃないの?」


 わざと……負けた?


 ソウルはダゴンの顔を見下ろす。そこには穏やかに笑うダゴンの顔があった。


「なんで……何でそんなことをしたんだよ……!」


 馬鹿げてる。こっちは真剣で……命を懸けて戦っていたのに、ダゴンは手を抜いて……そして勝たされたということ?


「真剣勝負はしていたさ」


 しかし、ダゴンは首を横に振る。


「そして……吾輩は負けたのだソウル少年、君に。君の選択を見て吾輩は負けを認めたのだ」


「俺の選択……?」


「そう。君は吾輩と違う道を歩み、そして未来を切り開いて見せた。それこそが吾輩がこの1000年探し求め続けていた答えだったのだよ」


「「…………?」」


 分からなかった。ダゴンが何を求めていたのか。けれど、彼の満足そうな顔を見て、きっと彼の中で何かケジメがついたのかもしれないと言うことだけは何となく理解できた。


「ヒュドラがいない世界に何の未練もない。ヒュドラが逝った時に吾輩もまた共に逝くつもりだった」


 ヒュドラがいなくなった今、ダゴンに魔人としてこの世に留まる理由なんてない。

 

「君達はどうか?」


 ダゴンの問い。


「同じ立場だったら。君達なら……どうするかね?」


「俺は……」


「私は……!」


 ソウルが何かを答える前にシーナが先に口を開いた。



「私は、ソウルがいない未来に何の未練もない。だから同じ道を歩く。ソウルが命を賭けるなら私だって命を賭ける。だって……」



 ぐっと、息を整えながらシーナは宣言する。



「私だって……ソウルのこと、大好きだから」



「………………っ」


「はっはっは。よかったなソウル少年。どうやらまだやり直せるようだぞ」


 顔を真っ赤にするソウルに対してダゴンはそんなことを言う。それを聞いて困惑するのはシーナだった。


「え……?何……!?ソウル、この人に何を言ったの!?」


「なっ、なな何でもない!何でもない!!」


「嘘!ソウルが嘘ついてる時の顔してる!!ねぇ何!?何言ったのよ!!」


 シーナは顔を真っ赤にしながらソウルの服の襟を掴んでぐわんぐわんと振る。ソウルはそんなシーナの顔を直視できずに頭をガシガシとかくしかない。


 そんな2人の様子を見届けてダゴンは優しく笑った。


「はっはっは。これで思い残すことは何もないな」


 そして、ボロボロとダゴンの身体が崩れる。


「だ、ダゴン……!」


「これで、君との手打ちも済んだ。後のことは……未来のことは任せよう」


 未練はない。彼の行く末も知ることができた。そして1000年抱え続けてきた後悔に、ケジメをつけることもできた。


 紳士としての責任も全て果たしたと言って良いか。


「約束は果たしたぞ、ゼロ。彼はまっすぐに……良い男に成長したようだ」


「ゼロ……?」


 ダゴンがそう言うと、ダゴンの身体の崩壊が一気に加速する。


 パラパラとその身は崩れ、シュタールの地に消えていく。


 あぁ、ヒュドラ。お前にはずっと、迷惑をかけるな。最後の最後まで……1000年の時を経てもなお……。

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