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ヴルガルド革命【反流の夫婦との戦い10】

 立ち上がり、召喚魔法を展開するソウルを見てダゴンは満足そうに笑う。


「ふふふ」


 そんなダゴンを見て、ヒュドラもまた笑った。


「何かおかしいかね?」


「えぇ。わざわざ敵に塩を送るようなことをして。どうなさるのです?」


「いやはや。戦意を喪失した相手と戦うなど、吾輩の紳士道に反する。それだけのことだ」


「分かっておりますわよ、あなた様」


 ダゴンの下らない建前など、ヒュドラには通じない。彼の心の根を簡単に看破して見せる。


「あなた様は……彼のことを気に入っておられるのでしょう?それは決して1000年前の事など抜きにして。あのソウル君のことをただ純粋に」


「………………」


 ヒュドラの言葉にダゴンは何も答えない。ただ優しく微笑み返すだけだった。


 優しい……少年だ。


 自分よりも先に他を考えられる心の綺麗な少年。


 ソウル少年は決して完璧な者ではない。年相応な悩みを抱えて、使命と感情の狭間で苦しむ。言わば普通の少年だ。


 それでも……彼はまっすぐだ。たくさん悩みながらもなお、前を向こうと足掻かんとする。そんなソウル少年の姿がとても眩しく見える。


「……よいのか?」


 そして再びダゴンはヒュドラに問う。


「えぇ。よいのですよ」


 そしてヒュドラは答える。


 それを聞いたダゴンは胸に溜まった空気を吐き出しながら空を仰いだ。


「……お前には苦労をかける」


「えぇ。ですから共に参りましょう。1000年前からの約束なのですから」


 そう。全てはもう決した。覚悟はついている。


 やれやれ……。ソウル少年は前を向かんと戦っているのに、吾輩ときたらまだこんな所で燻っているか。


 吾輩も……君のように生きられたら……。


「……ゆくか、ヒュドラよ」


「えぇ、参りましょう」


 そしてまた2人は戦いの舞台へとあがる。


 若き2人の魂と衝突。その先にあるもの。


 全てを理解した上でダゴンは戦いの道を選んだ。


ーーーーーーー


 ソウルの身体から雷のマナが弾け、ソウルの目の前に魔法陣として展開する。


 龍を模した魔法陣から現れたのは黒い菱形の岩の塊のような物体。


 そこには命を感じさせる物はない。


「あれが……」


「召喚獣か……?」


 見たところ、ただの黒い岩にしか見えないそれにシーナとダゴンは怪訝な顔をする。その大きさはソウルの身の丈ほどの大きさでそれほど大きくもない。


「さぁ……展開だ!ローグニッグ!!」


 バチリ、という音と共に菱形のそれに亀裂が入る。すると岩が6つのパーツに分離。そのバラバラになった岩を繋ぐのは雷の身体だった。


「イヒヒヒヒ」


 そしてそいつは高らかに笑う。


 菱形の岩石はそいつの龍鱗。頭、両腕、両足、そして細長い尾に分かれてその身を形成する。


 手足の龍鱗はまるで角のように尖る。尾はまるで刃のように鋭く、その頭の龍鱗は三角帽子のような形状をしていた。


 その姿はまだ育ち切っていない龍の子ども。手足を持った人型のドラゴンのようだった。


 本体は雷で構築されており、丸い目玉と張り裂けんばかりに開いた口が満面の笑みを浮かべていた。


 言うなれば、黒い龍鱗という名の鎧に身を包んだ雷。


 その身を展開させても【雷神】ローグニッグはイザナギアよりもさらに小さな大きさだった。


「面白い」


 随分と風変わりな召喚獣だとダゴンは思った。


 だが、決して油断はできない。あの身体の雷はかなりの高密度力だと感じた。


「さぁ……行くぜ」


 展開した新たな召喚獣、ローグニッグにマナを送る。込めるマナは【加速】のマナ。



「飛べ!【疾走】のマナ。【龍翔鳳士ドラゴン・ディア・ブルグ】!!」



 ブンッ



 ローグニッグが魔法を発動させた瞬間。ローグニッグの姿が消える。


「……っ」


 速い……!


 だが、ダゴンの目には辛うじてローグニッグの動きが見える。


「【奔流炮拳(ほんりゅうほうけん)】!」


 突撃してくるローグニッグにカウンター。空間をも歪ませるほどの拳を放つ。


 ガキン!


「何っ!?」


 ところが、ダゴンの拳が突如何かに弾かれて軌道を変えて空を切る。空振ったダゴンに向けてローグニッグは腕の黒い角のような鎧をダゴンにぶつけた。


 ゴッ!!


「ぐ……!?」


 咄嗟に反対の腕で攻撃を受け止めるが中途半端な姿勢で受けたことでダゴンの身体は宙を舞う。


「……っ!【氷蛇の進撃】」


 そんなダゴンを見てヒュドラが咄嗟に8体の氷の蛇を放つ。それらはダゴンの身を庇うようにローグニッグに襲いかかった。


『イッヒッヒ、効かんな』


 バキイッ!!


 だが、ヒュドラの攻撃はローグニッグには届かない。飛びかかった氷の蛇は次から次へと弾け飛んでその身を破壊していく。


「……っ、なるほど。随分と面白い【保有能力】をお持ちのようですわね」


 ローグニッグの周囲をキラキラと小さな光の残滓が舞っている。


 ローグニッグの【保有能力】。冠された名は【自動防御(オートガード)】。


 その力はローグニッグの周囲に展開された光の粒子が自動で敵の攻撃を弾き返す力。


 強力な魔法や波状攻撃や範囲攻撃のような魔法には通用しない。だが……。


「ヒュドラさんの力になら……!有効に働くはずだ!」


 ヒュドラの戦法は基本的にはその身を隠して死角から一撃でこちらを葬り去る戦い方。


 だが、ローグニッグの力があればヒュドラの闇討ちは通用しない。ヒュドラに縛られることなく戦うことができるということだ。

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