ヴルガルド革命【反流の夫婦との戦い9】
『イッヒッヒ』
ソウルの頭に響く、聞き馴染みのあるあの笑い声。
『随分とまァ、沈んだ顔してるナ。ソウル』
「……うるせぇ。誰のせいだと思ってやがる」
最初は不気味すぎてオデットと一緒にビビり散らかしていたその怪しげな笑い声が、今は耳にするとどこか落ち着く。
「馬鹿野郎……何やってんだよ。これからって時に……ようやくゼリルダと和解できたってのに」
ちゃんと、ここにいるのだと。ソウルの胸の内に彼が宿っているのだということが実感として伝わってくる。
『いーんダ。オイラはもう満足してル』
すると、ソウルの目の前にうっすらとフィンの姿が浮かぶ。
彼は翼を広げて逆さまに浮かびながら、楽しそうに笑っていた。
『考えてみロ。本当はもう2度と会えないと思ってたんだゼ?ソウルが協力してくれたかラ迷いの石窟を抜けれタ。ソウルがケツを叩いてくれたからオイラはゼリルダと仲直りできタ。ソウルが居てくれたからオイラはゼリルダを蝕む野郎共を駆逐することができたんダ』
その言葉には一切の強がりも、後悔もないのが分かる。
「でも……1人残されたゼリルダはどうなるんだよ。お前がいなきゃゼリルダは……」
『もう、ゼリルダはオイラの後をついてくるだけの子どもじゃなイ。立派な女王として国民に慕われテ……そんなあいつを理解してくれる仲間も見つかっタ』
そう。ちゃんとありのままのゼリルダを慕い、ついて来てくれる仲間がいる。
カミラにポピー。そしてここには居ないアイザックとセオドアと呼ばれる【北斗七帝】の仲間達。
きっと彼女らならこれから先もゼリルダを支えてくれる。それに、アベルだっている。
『だからもうオイラがいなくてもゼリルダは大ジョーブ。それを確かめることができタ』
ゼリルダは兄の手を離れても強く生きていける。
フィンはそう確信した。
そして最後にゼリルダを縛る諸悪の根源を潰すことができた。兄貴として最後の仕事も果たすことができたのだ。
それも全て、ソウルのおかげ。
地の底に縛られたフィンを解放し、ゼリルダに向き合わずにトンズラしそうになったフィンを叱ってくれた。
ソウルがいなければ、きっと運命は変わっていた。感謝してもしきれない。
『ありがとナ、ソウル。お前はオイラのサイコーの友達だゼ』
「俺だって。お前は最高の親友だよ」
フィンが己の命を失ったのはフィン自身の選択の果て。
王を受け継ぐことを拒否し、ゼリルダを残してシュタールから消えた。そんな兄貴として失格のフィンが最後の最後でゼリルダのために命を賭けて彼女を救うことができた。
これ以上……幸せなことはない。もう思い残すことは無いのだ。
だから、これはフィンに許された最後の選択肢。
心の底から信頼できる、最高の友のためにこの身を捧げ、妹の未来を守るために戦うことを許される。
全ての責務を果たしたフィンに与えられたチャンスなのだ。
『だかラ……受け取ってくレ。オイラはもう満足してル。オイラの力がソウルの未来を切り拓く力の糧になるのなら本望ダ』
「フィン……」
フィンを守りきれなかった己の不甲斐なさと……それでもなお、こうしてソウル自身のことを信じてくれるフィンの心にソウルの目から涙が溢れる。
本当は……お前も含めて守りたかった。
ゼリルダと共にこの国の未来を作るお前を見たかった。
『ホレ』
すると、フィンは俯くソウルに向けてその小さな握り拳を向ける。
『信じられる仲間には、こうやって拳で互いの健闘を祈るんだロ?』
「…………あぁ」
ソウルはフィンの拳に自分の拳を合わせる。ここでようやくソウルはフィンの目を真っ直ぐに見ることができた。
そこから流れ込んでくるフィンの力と覚悟。
満面の紙をうかべるフィンに向けて、ソウルは誓う。
「必ずお前の想いに応えて見せる。お前の大切なゼリルダとこの国の未来は俺が守って見せる!だから……力を貸してくれるか?」
『イッヒッヒ!あァ!もちろんダ!』
フィンの体が蜃気楼のように空気中に溶けて消えていく。
そうだ……戦うんだ。
覚悟をしかと受け止めた。フィンの想いと力を無駄にはしない。
一緒に……守るぞ。お前の妹も、この国も。全て取り返してこの悲しみの記憶を断ち切れ!
「行くぜ!!」
ソウルはマナを溜める。込めるマナは【雷神】のマナ。
同じ苦しみを抱えてなお、共に前を向いて駆け抜けた親友との固い誓いを胸に。
「全てを守る雷の神!その強固な稲妻で全てを撃ち落とせ!【雷神】のマナ!【ローグニッグ】!!」
ソウルは魔法を発動。新たに宿りし召喚獣を召喚して見せた。




