北西通りの戦い3
「く、くっそ.......」
ソウルは痛みを堪えながら体を起こす。そしてそいつの存在を確認した。
「まさか.......あいつが【半獣の王】!?」
圧倒的な存在感を放つそいつはずんずんとマリアンヌへと迫っていく。
「ご名答ですわ」
「!?」
顔を上げるとすぐ側に先程兎の獣人が立っていた。
「私たちの王が参られました。これでこの戦いは私たちの勝ちですわ。素直に投降するのであれば手荒な真似は致しませんわよ?」
そう言って獣人はナイフを構える。
「.......」
だがソウルは無言で剣を構えた。マリアンヌさんが戦っているんだ。俺だってここで負けを認めるわけにはいかない。
「そうですか、残念ですわ」
どこか悲しそうな声色で獣人は答えた。
「俺は、この戦いを終わらせたいんだ」
ソウルは目の前の獣人を睨む。
「ここを突破してマリアンヌさんの援護に行く!あいつさえ倒せばこの戦いは終わるんだろ!?」
ソウルは目の前の獣人に叫んだ。
「.......それはどうでしょうか」
少し驚いたような仕草を見せて彼女は呟く。
「どういう意味だ?」
「例え、王が倒れたとしても私たちは決して止まりません。止まれません。この町が、この世界が私たちの敵なんですもの。私たちは滅ぶまで戦い続けるしかないのですわ」
彼女の耳は悲しみを表すようにうなだれている。
「な、何でそうなるんだ?」
「この世界が、私たちを拒絶するからですわ」
「っ!」
ソウルは言葉を失う。
そうだ、マルコが、エレナが言っていた。獣人達はその見た目で差別されていると。例え半獣の王を倒したとしてもその事実が変わることはないじゃないか。
「それでも、戦い続けるしかないだなんて.......。この町で平穏に暮らしている人達だっているんだ。お前たちも戦いなんかしないで平穏に.......」
「えぇ.......そんなこと.......」
その言葉を聞いた瞬間、彼女の全身の毛が、怒りに燃える獣のように逆立つ。そして彼女がギリギリと歯ぎしりをする音がソウルにまで聞こえてきた。
「私たちが……私たちが1番望んでおりますわよ!!!」
そして怒号と共に兎の獣人はソウルへと斬りかかった。
「でも...でも、それを許してくれないのはあなた達、人間ではありませんか!!!」
「っ!」
ソウルは彼女のナイフを受け止める。
そして気づいてしまう。彼女の仮面から涙が零れていることに。
「そんな.......」
ソウルは剣を握る手に力が入らない。
ギィィィン!!
そしてソウルの握る黒剣が弾き飛ばされる。
「剣を.......剣を握りなさい!こんな無抵抗の人間を殺すことなんてできませんわ!!せめて...せめて正々堂々戦いなさい!!!!」
彼女は叫ぶ。彼女の怒りと悲しみを吐き出すように。
「.......できねぇよ、そんなこと」
それを真っ向からぶつけられたソウルはぎりりと歯を食いしばる。
「俺は.......俺は.......」
ソウルはどうすればいいのか分からなくなってしまった。この町を守るために獣人達と戦うことがことが本当に正しい道なのだろうか。
この町の人間も確かに苦しんでいる。それでも、それ以上に獣人達も苦しんでいるんじゃないか?本当にこのまま彼らと戦うことが正義なのか?
「何なんです、あなたは.......」
やがて兎の獣人の動きが止まる。
「これじゃ.......これじゃあ私も.......」
兎の獣人はカランとナイフをその場に落とし、膝を着く。その時だった。
ドンッ
1つの爆音が響き渡った。




